第7話 趣味

「ちょっと、カオル、ツラを貸せ」

次の日、体がへとへとになった私は、学校で、黒井アンとは話しをせず、目を合わせず、真っ先に、猪谷カオルを廊下へ呼んだ。

カオルはきょとんとした顔で聞いた。「うまく友達になったか?」

「なった。なったが、あんな子だとは、一言も聞いてなかったぞ!昨日、あやうく、魔王バースの討伐の旅に出かけそうになったわ!」

「よかったじゃないか」

「よくない」

「見ろ、すっかり、アンのやつ、お前を気に入ったのか、手を振ってるぞ」

私は笑顔で応じた。

だが、内心は、笑うどころか、地獄の沼のように、怒りで煮えくり返っていた。

「カオル、おまえ、知ってたな?」

「何を?」と、彼はとぼけた。

「親戚なんだから、彼女のオカルト趣味を知ってただろ。それを、なぜ、俺に教えてくれなかったんだ!」

「親戚と言っても、小さいときに、年に数回会って、遊んだだけだよ。オカルト好きは、入学したときに、話してみて気が付いたが・・・」

「それを俺に隠した」

「隠しただなんて、人聞きの悪い。だいたい、あいつの趣味を知ってたら、君はどうしていたんだい?会わなかったのかい」

「う、会ってはいた」

彼に痛いところを突かれた。昨日もなんだかんだで楽しかったし。

「要は、そういうことだろう」

カオルは勝ち誇ったように言った。

「だからって、いずれ、ばれるのは目に見えていたんだろう。そういうのは先に言ってほしかったな」

「それはごめん。僕が悪かった。斉藤クン」

「俺はお前が裏切った気がしたんだ。でも、もう、いいよ。この件はチャラだ」

カオルが急に素直に謝りだしたので、振り上げたこぶしを下ろすに下ろせなくなった私は、彼を許すことにした。

「ただし、条件がある」

「条件?なんだい?何でも大丈夫だよ」

「もし、俺が変なことを言い出したら、こっちの世界に引き戻してくれ。洗脳されるかもしれん。カオル」

「そんなにひどいの?」

昨日、呪文を何度も復唱させられると、ちょっとずつではあったが、本当に、自分の前世があるのではないかと信じ始める自分に気が付いた。それは恐怖だった。現代の科学を信奉する私にとっては、未知というよりも、恐怖の世界だった。

しかし、恋する高校生には、恐怖の世界よりも、大事なものがあった。それは彼女ありの高校生活だった。

清くはないが、男女交際に発展させる価値はあるはずだ。

もちろん、急ぐ必要はない。

カオルと話を終えて、私は、黒井アンのところには向かわなかった。距離をおきたかったのではなく、遠くから様子を見ようと考えたからだった。

今はオカルト仲間でもかまわない。そのうち、デートを誘う機会が訪れるだろう。

これが浅はかな考えだと知るのに、数日もかかった。

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