時空運送のトヤマ

「22世紀の子供は鶏肉というものを食べたことがないので、ぜひ送ってほしい」

 ということを頼まれた。

 聞くところによると、未来の人類は合成肉ばかり食べているという。それは哀れだなと思って、近所のフライドチキン・チェーンに行って30個ほど用意してもらった。あとで現代の通貨で払ってくれるそうだ。

「時空運送のトヤマ」と書かれた箱に肉を詰めて、集荷に来た顔の白い女に箱を渡すと、アパートの隣の空き部屋に入ってそのまま消えてしまった。未来にはそういう業者がいるらしい。

 しばらくたって同じ業者から感想のビデオが来た。こちらの時代に再生機がないからとディスプレイごと送られてきた。空気中の電波を使って動くので、電源がいらないらしい。

 画面に触ると再生がはじまって教室らしき場所が映った。意外にも学校の風景というものは現代と大差がなかった。給食の時間のように皿に置かれた鶏肉を、みんな苦い顔で口にしている。

「パッサパサだ」

「固くて噛みづらい」

「肉に味がないからあとから味付けてるじゃん、ゴマカシだ」

 といったことを口々に言って、ほとんどの子供が食べ残した。ひとりだけ全部食べた子供がいて、「すげー」「勇者」「原始人」と称賛されていた。

 ひとしきり試食を終えると、教師が言った。

「21世紀まで人類は貧しく、肉をつくる技術もなかったので、こうやって鶏の筋を剥ぎ取って飢えをしのいでいたんです。こうした先祖の苦労があったからこそ、私たちの生活があるんです。感謝しましょうね」

 子供たちは口をそろえて「はーい」と答えた。イラっとしたのでディスプレイを蹴り飛ばした。

 壁にぶつかってパキッと半分に折れると、「かんたん廃棄システムが作動します」というアナウンスが流れて、中の液体はすぐに炭酸ガスと水蒸気になって蒸発した。外装は可燃ごみに出せばいいらしい。

 未来は食品も機械も簡単につくれるようなので、ディスプレイもこんなふうに使い捨てにしてるのだろうな、と思った。

 その夜、実家から宅配便が届いた。野菜やコメが大量に詰められており、「コンビニ弁当ばかり食べてないで、ちゃんとしたもん食べなさい」と母のメッセージが添えられていた。

 学生のころ母がよくこちらでも買える食材を送ってきて、使いきれずに腐らせていたのを思い出した。しかし母は数年前に病気で死んだはずだ。

 不思議に思って箱を見ると「時空運送のトヤマ」と書かれていた。

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