狐と葡萄とからす

 昔々、お腹を空かせた一匹のきつねがいた。いつものように野を歩いていると、ふと木に美味しそうな葡萄ぶどうがぶら下がっているのが見えた。


「ああ、なんと美味しそうな葡萄だろう!」


 と、木の幹をつたって葡萄を取ろうとするが、何度やっても届かない。息も絶え絶えになった狐は、地面にぺっと唾をはいて言った。


「ふん、あんな葡萄はどうせ、酸っぱくてまずいに違いないさ!」


 そう言って立ち去ろうとすると、上空から一羽のからすが現れた。


「やあ、狐くん。さっきからこの木に無謀なフォックス・アタックを繰り返していたけれど、葡萄が食べたいのかい? よかったら取ってあげるよ」


「ま、まさか! 食べたくともなんともないさ。いや、あまりに酸っぱくてまずそうな葡萄だったので、思わずじろじろ見てしまったんだよ。ぼくくらい葡萄に詳しいと、見るだけで味の良し悪しが分かるのさ。けっ、あんなもの! 葡萄好きな人間の子供だって、見向きもしないだろうさ」


「そうなのかい? それじゃ、試しに僕がいただくとするかな」


 からすはそう言ってそのくちばしで葡萄をついばもうとした。そのときだった。


「あっ、からす君。ちょっと待つんだ」


 言うが早いか、下から狐の手のひらほどの石が飛んできて、からすの頭にがつんと当たった。からすは地面に落ち、しばらく黒い羽をぴくぴくと動かしていたが、やがてぴくりとも動かなくなった。

 狐は尻尾をぶるりと震わせた。心臓がどくんどくんと鳴った。

 とんでもないことをしてしまった。自分の間違いを認めたくないために、知り合いのからすを殺してしまったのだ。

 狐はきょろきょろと首を振って、おろおろとからすの死骸のまわりを歩くと、ひとつの考えがひらめいた。すぐにからすの胸にがぶっと噛み付いて、肉をかじりとった。


「そうだ。言い忘れていたけど、狐はもともと肉食なのさ」

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