第32話

 ……全員がバラバラに長い時間かけて説明した内容をまとめると、こんな感じだった。


 創設はまだ5インチのフロッピーディスクがある時代らしい。

 その後、20年前のメンバーが、当時の学内LANの設定に関わった。

 それを契機に学内のPC、ルーターなどの設定と管理を情報部が一手に引き受けるようになったそうだ。

 その20年前の部長が工学系の大学に行ってIT関連企業に入社。そこを5年で辞めて独立し、県北部で自治体向けのIT保守会社を設立。小規模で実力主義の会社だそうで、楠木高校の情報部員(かっこいい響きだ)は全員その会社のバイト社員でもあるという。現場の実践できたえるため1年生は3学期末にはCCナントカという資格を全員取得してしまう。また部の運営費は全てバイト代から出しているため、生徒会も口を出せない。楠木高校最強の部活だそうだ。

 その元部長で現社長の先輩が、何のマンガから部活運営の発想を得たか解ってしまった。親父の本棚にあるアレの、土木研究会だ。

 笑ってしまったのが、幾人かの教師は、学内のパソコンで「Hな画面が消えないワンクリック詐欺」の被害に遭い、情報部員に泣きついて内密に対処してもらっていたという話だ。なるほど、情報部はあらゆる意味で学内最強の集団なんだな。たしかに先生も口出しできないや。


「先ほど芝原くん、弟さんの方ですが、彼からショートムービー見せてもらったんです。あんな作品、他にも作ってるんですか?」

「あれはね、完全に我々の趣味だよね。」

「アクションだけのショートムービーは、好きな映画のマネしたいからいくつも作ったよ。カーアクションは無理だけどさ、そのうち完全CGで作れたらなぁって」

 そう言って、自作ショートムービーを数本見せてくれた。香港カンフーアクションぽいのやガンアクションもあった。

「このガンアクションのも面白いですね。でもこれ火薬は使って無いんですか?」

「銃口のマズルフラッシュも着弾の煙も全部CGだよ。モデルガンはBB弾のガスだし」

 そうか。しかし何本も見てくると不思議なもので、「俺ならこうするのに」とか思い始めてきた。まず演じてる部員さんたちはアクション慣れしてないから、身体がフラフラ泳いでるのが気になった。要所でめていればアクションえするのに。それにやっぱり火薬使った方が迫力増すよな……。


「ところで、堀川くん?」

 勝手な妄想を漂っていたが、現実に戻された。今の問いかけは、えーとお兄さんの方からか。

「こちらも質問して構わないかな?」

 どうぞどうぞ。

「太田先生は、何が好きなんだろう?」

「はあ?」

 冗談かと思ったら、目つきが本気だった。しかも、部員全員がマジだ。

「検索して調べたけど、太田先生、空手の黒帯なんだってね」

凛々りりしいよな! そこにシビれる! あこがれるゥ!」

「ホント凛々しいわ! 見た目といいラインハルトみたい」

「おいラインハルトは男だぞ」

「そうよ、そしてキルヒアイスと2人で……いや! 言えないわ!」

「ああ、太田先生ならハイヒールで蹴られたい!」

「バカ、ハイヒールなら『踏んで欲しい』だろ」

「寝技は、ねえ寝技は?」

「空手に寝技は無いよね」

「じゃ寝技なら勝てるのかな」

「そう思えるお前は幸せだよ」

「だいたい先生の半径1メートル以内に近づけないだろ」

 俺は認識を改めた。こいつら全員オカシイ。

「ねえねえ、先生の好きな食べ物知ってる?」

 ショートカットで赤縁のメガネの女子生徒がいてきた。しかしこの部は人口メガネ密度が高い。

「えーと、よく知らないけど、準備室ではパイとかの洋菓子を食べてたかな。あとコーヒーが好き、なのかな?」

「好きな色とかは?」

「え?(知らねーよそんなの)うーん、服は白が多かった、と思う……」

「他に何か無いかな? 君が見た事とか、近くにいて感じた事でいいんだ」

「え、んな事言っても……んーと、そーだなぁ……近くで、えーと、先生の近くにいると、いい匂いがする……」

 一瞬の静寂の後、全員が発狂したように騒ぎ出した!

「クソー! うらやまし過ぎる!」

「ギギギ、くやしいのう」

「堀川くん、もっとこう生々しいのは無いかね?」

「えーと、無いですねー(バカ、言えるわけ無いだろ)」

 彼らの狂態をながめて、1つ疑問がわいたので質問してみた。

「皆さん、そんなに太田先生が好きなら、化学部に入るという選択は無いんですか?」

 全員即座に首を横に振った。

「それとこれとは別だなあ」

「そうだよね、我々コレが好きだし」

「薬品よりもキーボードだよ、我々」

 そうか、それは少しうらやましい。やりたい事がはっきりしていて、実現できる場所に身を置けるというのは幸せな事だ。おまけに「本業」の他に「趣味」まで好きな事をやれている。これで太田先生と一緒に行動できる事態になったらこいつら……。


 あれ? まてよ?

 ん、ちょっと待て、落ち着け、よく考えろ…………。



 気がつくと、情報部の皆が心配そうな顔でのぞき込んでいた。俺が自分の考えに沈んで、腕組んだまま黙り込んでしまっていたからだ。

 大丈夫、なんでもないから。そう言ってから、俺は少し迷って、でも思い切って質問した。

「あの、可能かどうかきたいんだけど……」

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