第31話

 メガネくん、いや芝原圭二しばはらけいじくんと一緒に、俺は情報処理研究部、通称「情報部」の部室に向かった。

 部室としては珍しい事に、教務棟の一室に存在する。学校のサーバールーム兼部室だからだ。

 顧問の先生は数学の増田だそうで、顔が思い浮かばなかったが「パンスト被ったような顔」と言われて思い出した。あだ名はやっぱりパンストだそうだが、いい先生らしい。なんだかよくわからないが、先生自身では2進法8進法16進法を、機械を使わず変換できないから、部活は全部生徒に任せてる放任主義だとか。それって良いのか悪いのかわからんな。


「失礼します」

 芝原くんに続いて情報部の部室に入る。寒ッ! なんだこの部屋! クーラー効きすぎだろ!

 見るとみな夏服の上にジャージを着ていた。

 机の上にはノートパソコンが3台、デスクトップは2台、と思ったらモニターは複数の筐体きょうたいつながっているようだ。壁際にはサーバー専用機と思われるマシンが数台重なり、その脇にLANケーブルが数十本挿さっているのがネットワーク系の機器だろう。本当にここはサーバールームなんだな。夏でこの寒さだと冬場はどうなんだろ?

「化学部の堀川さんですね、お待ちしておりました」

「何かお飲みになりますか? 冷たい物がいいですか? それとも、この部屋寒いですから、温かい物がよろしいですか」

「キミ、よかったらスナックでも食べるかい」

 部室の全員が俺を注目している。見学の客人だからというレベルじゃない。なんだなんだいったい? さっき俺が見学に来ると芝原くんがメールしたけど、なんでいきなりこんな歓迎受けるんだ? 絶対普通じゃないだろこれ!

 何だか罠でもあるんじゃないか、そう疑いつつ勧められた椅子に腰を下ろす。ふと入ってきた扉を見てギョッとした。扉には大きく引き伸ばされた太田先生の写真が貼ってある! 周りをよく見ると、壁に貼ってある写真、机に立て掛けてある写真、更にパソコンの壁紙まで太田先生の写真が!

ここはストーカーの巣か? 俺はひょっとして人質になったとか?

「そんな顔しないで欲しいな堀川くん。我々は別に怪しい集団ではないから」

 湯気が立つコーヒーカップを両手に2つ持って近づいてくるメガネくん。いや十分怪しいぞお前ら。

「うちの部は全員、太田先生のファンなんだ。だから化学部の人間は大切なお客様というわけさ」

 メガネくんの背後からまたメガネくんが現れた! 増殖したぞ!

「紹介するよ、ボクの兄貴でここの部長だ」

芝原圭太しばはらけいたです。弟からお話はよく聞いております」

 兄弟? ああそういえば兄貴がいると言ってたっけ。しかし何処で見分けりゃいいんだ? じっくり見たが、胸の名札の色以外に違いが見つけられない。家族は見分けつくんかな? いらん心配してしまう。


 いくつもの期待と好奇心の視線を浴びながら、カップのインスタントコーヒーを一口飲んだ。当たり前だが毒は入ってなかった。

 変な人だが悪意はない、なんてのは馴染なじみがある話じゃないか。

「皆さんは、普段どんな活動されてるんですか?」

 ごく当たり前の質問を出してみた。


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