第23話

「それにしても堀川」

 ギクッ!

「今回の中間試験はひどいものだな」

「先生、それこそ個人情報ですよ!」

「コーチンそんなに悪かったんですか?」

「ああ、平山より悪い」

「それは相当悪いですね」

「他の課目はともかく、化学の成績が悪いとなると、こちらの能力も問われるのでな」

「そうね、先輩としても責任あるわね」

「じゃあお姉さんたちが、これから堀川くんに課外授業をしてあげましょー! ほらそんなに緊張しないで。お姉さんに任せておけばいいのよ」

「……匂坂、言い方が下品だぞ」


「もうさ、周期表を先に覚えさせちゃった方が早いんじゃないの?」

 匂坂部長が無茶を言う。周期表って、あの壁に貼ってあるヤツだろ?

「そうね、配列を覚えてしまえば、応用も利くわね」

 中之森先輩まで同意見らしい。

「あの……周期表って……あれ、全部……覚えなきゃ、ダメ……なんですか?」

 恐る恐るリョーコが質問する。

「年号と同じでな、語呂合わせの暗記のやり方があるから心配するな」

 太田先生の一言でリョーコが安堵あんどの表情になる。そうか、語呂合わせがあるのか。

「定番の覚え方としては『水兵リーベ僕の船』というのがあって、水素、ヘリウム、リチウム、ベリリウムといった元素番号の順番通りに覚えるやり方なんだが……」

「センセ、そんなの古いって! それよりもっと強烈に覚えやすいモノが……」

「ダメだ!」

「なんでよ!」

「どうせ匂坂が言うのは下品な語呂合わせだろうが。少なくとも教師の前で堂々と言うべきものではない」

「それは偏見よ! どうしてシモネタだと思うわけ?」

「観察による結論だ」

「強い主観は推論のさまたげになるのよ」

「ではくが、シモネタ以外の語呂合わせを匂坂は知っているのか?」

「もちろん! まず最初は」

 匂坂部長は自信に満ちた表情で立ち上がり、大きく口を開けて……何も出て来ないようで固まってしまった。

「実際、語呂合わせの種類は沢山あって、お前たちなら少し検索すればいくらでも見つけられるだろう。そこから自分で覚えやすいものを選べばいい」

 フリーズしている匂坂部長をさらりと無視して太田先生は話を進める。

「元素番号の順に覚えるやり方だけじゃなく、周期表の縦の列で覚えるやり方もある。縦横を組み合わせた方が確実に覚えるからな。とにかく自分たちで覚えやすい語呂合わせを選んでみることだ」

 俺とリョーコは同時に「ハイ」と応えた。でも、どうしても訊いておきたい点があったので質問してみる。

「えと、先生は、どういった語呂合わせで周期表を覚えたんですか?」

 先生は眉を妙な形にひそめ、即答した。

「とても口には出せないな」

 俺たちは爆笑した。

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