第4話
新学期3日目、やっと2回目の登校をした。
教室に入るなり視線が突き刺さる。やれやれ、親父が言ってた通り、人気者じゃあないけど早くも有名人か。まぁジタバタしても始まらないし、なるようになるしかないよな。
窓側にある俺の席に座ったが、ホームルームにはまだ時間があるし、各教科の授業は始まってもいないから予習することもないので、暇つぶしにスマホを取り出してマンガを読み始めた。親父が電子化して取り込んだマンガだ。昨日は昼間から外を出歩くわけにもいかなかったので、1日中家にいてこのマンガを読んでいたのだが、これが結構面白かった。何かと困った親父だが、たしかに面白いマンガを見つける能力は認めよう。
ともかく、スマホの画面でマンガの続きを読み始めた。
便利な世の中だと思う。今読んでるマンガは全18巻だが、それがすべてこのスマホの中に収まっている。ポケットの中に本棚が入っているのと同じだ。こうやってスマホに取り込むのは著作権的にどうなんだか詳しい事は分からない。
と、いきなり後方から肩を叩かれた。振り返ると典型的なメガネくんが立っていた。
「なあ、きみも自炊してる?」
へ?
「本、裁断してスキャンしてるんだろ?」
いやぁ、これ親父が全部趣味でやってるもんで。
「そりゃ便利な親父さんだね。いいなぁ」
欲しけりゃやるよ。
「ボクも自炊しててさ、ほら」
と、同機種のスマホを出して、ビュアーアプリを起動。うわ! CG特有の色使いの表紙が並んでる。しかも肌色過剰、つかそれしか無い! ひょっとして全部18禁?
しかもスマホそのものが、ちょっと通常の神経では人前に出せないエロマンガ系デザインの痛カバーで痛スマホになっている! そんなもんどこで売ってるんだ?
「このカバーいいだろ。ボクの自信作」
え、自作なの?
「やっぱり自分の気に入るようにカスタマイズしたいじゃん? だからほら」
と、カバンからいくつもの痛スマホカバーを出してきた。しかも全部エロ系。何だこりゃ早く隠せよお前。
ヤバイ、朝からエロマンガ談議で盛り上がっているようにしか見えない。周りの女子生徒の視線が痛いんですけど、お前気にならないの?
「はいみんな席に着け。ホームルーム始めるぞ」
担任教師が教室に入ってきた。窓側の席でよかった。痛カバーは見つかる前に隠せたようだ。
後ろの席のおしゃべり好きのメガネくん、名前は
昼休みもこのおしゃべりが続くのかと思ったが、別のクラスからリョーコが勢いよく教室に入ってきて、俺を学生食堂へと引っ張っていってくれたので助かった。
それまでエロマンガ仲間という視線を注いでいた近くの席の女子生徒たちは、いきなり乱入して俺の腕を取って外へ連れ出すリョーコを見て呆気にとられていたが、ここは誤解をさせておこう。
学生食堂というものは中学には無かったのでどんなものかと期待していたが、お上品な私立高校にありそうなカフェテリアのようなものではなく、大衆食堂の学内版だった。県立高校だからこんなもんだろうが、でもカツカレーの値段とボリュームには満足した。
隣でナポリタンを食べているリョーコに、メガネくんから聞き出した情報を伝えた。
彼が一方的に話す内要は、エロマンガとネットとスマホとパソコンについてだったが、この学校の情報処理部に、彼の1つ上の兄がいる事がおしゃべりの内要からわかった。俺がお兄さんの話に水を向けると、例の爆発騒ぎと化学部について彼の兄から聞いた事を話してくれた。
どうやらこの学校で化学部は相当なトラブルメーカーらしく、昨年、今の部長と副部長が新入部員として入ってきたとたん、それまで在籍したメンバーは全員逃げ出したらしい。連日怪しげな実験を繰り返し、爆発異臭は当たり前で、火炎放射器まで作ろうとしたとか。そのため化学部は「マッドサイエンティスト養成所」とか「楠木高錬金術部」とか、変なあだ名までついたんだと。それでも部長と副部長の2人とも、この学校のトップクラスの成績を維持していて、問題はあっても退学になるような事はしていないし、理系一流大学への進学率を高めたい学校としては追い出すわけにもいかず扱いが難しいとか。ただあまり問題が大きくなると、文部科学省からのスーパーサイエンスハイスクール認定を取り消されて助成金がパーになる恐れもあるから、化学部を潰すか物理部に吸収させるかもしれないとかなんとか、そんな話もあるらしい。
「よく聞き出せたねコーチン」
「ちょっと水向けたら勝手にしゃべってくれただけだって。でも放っておくと話がオタクネタに戻っちゃうから誘導が面倒だったけどね。ここまで聞き出すのも時間かかったよ。おかげで午前中の休み時間は全部彼とのおしゃべりになっちゃってさ、どこにも出歩けなかった」
「あの髪の長い副部長の人、そんなに問題児なのかな。たしかに頭が良さそうだったけど、他の部員追い出しちゃうくらいのトラブル起こすようには思えないんだよね」
「まだ噂話しか聞いてないから何とも言えないな。今は『こんな情報もある』レベルで、判断は保留にするべきか。慌てる事もないだろ。ところでそのナポリタンうまかった?」
「給食よりは、ってとこかな」
「そっか、こんど期待しないで試してみよう」
しかし、この日の放課後、教室で俺はあの副部長の訪問を受けることになる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます