第10話旅立ちの日
黒猫のつてを使ってここ一帯に居る猫に聞いたところ、港に向かったと言うことで俺は黒猫と別れて港に向かった。
(確か貿易船と言っていたな)
俺は猫の姿のまま歩き回り、そして見張り番が居て妙に警戒している船を見つけ出した。俺は素早く見張りをしている奴の足を抜けて船の中に入った。俺は適当に歩いて行くとドアの開いている部屋を見つけて覗くと妙に腹の出た男と貴族の男を見つけた。
「あの娘はどうするのだ。性奴隷にするのか?」
貴族の男が腹の出た男に尋ねる。
「もう少し年齢が上ならそうしましたけど、今は裏市場に戦闘奴隷として流そうかと貴重な回復魔法が使えるので高く売れると思います。男爵様」
そう言って腹の出た男が笑った。
「くれぐれも売るならあなたが売ったことがばれないようにな、ガスト」
どうやら腹の出ている男はガストと言うようだ。ここで間違いないと思ったので俺はクリスを探しに船内に入った。中は暗く魚臭かった。
俺は船内の奥に入ると見張りの兵士がいる。たぶん猫の体じゃ倒せない。俺はそう思って猫の姿でぎりぎりまで近づいて相手の足元で人化をした。
「ガキいつの間に!!」
猫の俺が足元に居るのに気づいていなかった男には、いきなり自分の目の前に十代の白銀の長髪の男の子が現れたとしか思えないだろう。騒がれては面倒なので俺は無言で腹に蹴りを入れ、首にかかと落としをすると、バキと言う音と共に男の首の骨が折れた。
「まずは一人目」
人を殺したことに冷静でいられる自分に俺は驚いていた。
「オズワルド?」
俺が̪視線を声の方に向けると鎖で手を繋がれたクリスが居た。
「クリス」
俺は自分の正体を誤魔かせない状態に自分を追い込んでしまった。これは今夜中に屋敷を出て新天地を探すか。俺がそんな思考になっていると。
「あなたオズワルドよね。何で人間になってるの?!どうしてここにいるの」
混乱したようにまくしたてるクリスの口を牢屋越しに口を塞ぐ。
「静かに、ばれちゃう。」
俺がそう言ってクリスの目を見ると分かったから手を離してと一生懸命視線で訴える。俺が手を離すと顔が真っ赤だった。口と鼻を一緒に塞いだ訳じゃないのになんでだろう?
「とりあえず、服着てくれませんか」
そう言ってクリスは赤い顔をそらしながら言った。
俺はすばやくアイテムボックスから執事服を取り出して着替えた。
「もういいよ」
俺の言葉にクリスは顔をこちらに向ける。
「なんでここにいるんですかオズワルド?」
「クリスを助けに来たんだよ。ここから逃げよう」
俺はそう言ってクリスの居る牢屋を壊しクリスの手を繋いでいる鎖も壊した。それと同時にクリスは俺の胸の中に飛び込んだ。
「クリス?」
俺が名前を呼びかけると
「怖かったです」
そう言って顔を胸に押し当て震えていた。
「頑張ったな」
俺はクリスが落ち着いてから外に出ると
「まさか侵入者がいるとはね」
そう言って笑っているのは先までガストと会話をしていた男爵だ。何でばれたんだろう?
「すいません、何でばれたんですか?」
俺が聞くと男爵が
「あの牢屋は私の部屋の真下であるのでね。異変が起こってもすぐに分かるんだよ」
そう言って男爵は笑った。
「さあ、私は血も涙もない人間ではないよ。そこのお嬢さんを渡してくれるなら見逃してあげてもいいぞ」
俺はスキル本能で何となくこれが嘘だと言うことが分かった。それが本当だとしても俺の返事は変わらないが。
クリスが俺の服の裾をぎゅっと掴む。怖いのだろう。俺はクリスを落ち着かせるように
「大丈夫、守るから」
そう言ってクリスの頭を撫でる。
俺は男爵の方に顔を向け、
「悪いが断る。ここからは出て行かせてもらうぜ」
俺の言葉に男爵は
「なら仕方ない。やれ」
その言葉で俺たちは男二十名に囲まれた。俺は全員のステータスを見せてもらうと。
弱っわ!!何こいつらこんな数値で俺に向かってくるの。ステータス値は三ケタの前半でたまに四ケタの奴もいが、まあ俺の相手にならないな。
俺が笑っていると男爵がそんな俺を不審そうに見る。
「どうした、怖くて気がふれたか?」
俺は笑いを収めると
「いや、あんたらが弱すぎてな。」
俺の言葉に男爵だけでなく、男たちも怒り出した。
「この餓鬼!!」
「手足折って殺してやる」
そう言って剣を持った男二人が突っ込んで来るが遅い。
「吹っ飛べ!!」
俺はそんな言葉と共に蹴りを放って男二人をまとめて海に落とした。そんな光景をみんな唖然として見ている。俺はそんな状態でもお構いなしに残っている男に蹴りを放って海まで飛ばした。さすがに五人目で正気に戻り。
「全員でかかれば何とかグベラっ」
喋ってる男は俺に顎を蹴られ、仲間を巻き込みながら船の壁に激突し船の壁を壊して海に落ちた。
これなら楽勝、そう思っていたところに火の玉が飛んでくる。
「おっと」
俺は危険察知で軽くかわす。
「まさか。こやつまで出すとは思わなかったぞ」
男爵の隣には黒いローブを着たいかにもの魔法使いが居た。
「これで終わりだな」
俺の言葉に男爵は笑みを浮かべる。
「なんだ諦めるのか」
「いいや、だがお迎えが来たようだぞ」
そう言って俺は港の方を指さした。そこには
「クーリースーーーーー!!」
ロットとロットの私兵が全速力で走ってくる。
「お父様」
男爵はそれを見て顔が真っ青になる。
「ふ、船を出せーーーーー!!」
その言葉に扉が開いて船長と思わしき人物が出てきた。日焼けした肌に丸太の様に太い腕。髭を生やし三十代位の男だ。
「どうしたんだ一体。……これはどう言う状況だ」
船長が男爵たちを睨んでいる。どうやらこの船長は何も知らないようだ。
「うるさい。黙ってこの船を出せ!!」
船長の視線に怯えながら男爵はそう怒鳴った。
「……分かった」
そう言って船長は船員を動かして船を出す準備に取り掛かる。
「まだだ。まだ人質が」
男爵は言葉を止め、周りを見る。
「どういう事だ。これは!!」
俺はそんな言葉に馬鹿にしたような笑みを浮かべた。
「全員海の中だぜ」
俺は男爵が慌てている間に全員を海に叩き落とした。ちなみに商人のガストからは金を奪って海に落としてやった。お金はアイテムボックスの中だ。
そこで船が動き出して港を離れる。
「はは、ははははこれで逃げられるぞ!!」
そう言って安堵したように笑う。俺はそんな男爵を無視してクリスをお姫様抱っこをする。
「オ、オズワルド!?」
俺はそんな言葉に
「短い間だが空中を楽しんで来い」
そう言って俺は港にいるロット目掛けてクリスを投げた。
「きゃーーーーーーーーー!!」
クリスの悲鳴が夜空に響く。ロットはクリスを両腕で受け止めて抱きしめていた。
「さて、今度はお前さんだ」
そう言って男爵に近づくとお金の入った袋をを床に置く。
「待て、金ならやる。だから海に落とすな」
「え、まじ」
そう言って俺は袋をアイテムボックスに入れる。そして男爵を掴んで引きずる。
「待て、何で海に投げようとする」
「海には投げないさ。お金をお貰ったんだ。ちゃんと港まで投げてあげる」
「ま」
「せーの!!」
男爵を俺は港に向かって投げた。まあ、最悪死ぬだけだ。。
俺はアイテムボックスから金貨を一掴みし、船長に渡す。
「これは?」
「乗車賃だな」
「どこまでだ?」
俺はそんな言葉に悩んでしまう、俺はこの大陸の事を全然知らないのだ。
「そうだな、魚がうまくて暖かい国だ」
俺のそんな言葉に船長は笑みを浮かべる。
「ザスーラ国だな」
「どんな国だ」
俺の言葉に船長は顎髭を触りながら
「そうだな、教会の本陣があって最近勇者が生まれて十年が経ったと言われて、貴族が十歳の子供を連れてきてこの子こそ勇者だってことで巫女に鑑定してもらいにこぞって集まってるぞ」
「ふ~ん」
俺の態度に船長は不思議そうに見る。たぶん俺の姿が十歳だから気になるんじゃないかと思っているようだ。生まれてまだ一年もたってないぞ俺は。
「何だ、興味がないのか勇者に」
「無いな」
船長は愉快そうに腹を抱えて笑い。
「そうか、そうか」
「船長」
「なんだ?」
「俺のことについて聞かないのか」
「聞いてほしいのか?」
船長はおかしそうに聞いてくる。
「いや、俺の様に得体のしれない奴を船に乗せて何とも思わないのと思って」
船長は真面目な顔をして
「別に構わん。面白そうだしな」
「面白い?」
船長はまた笑みを浮かべて話す。
「俺の自論でな人生ってのは楽しむためにあるんだと思う。だから面白そうだから別にかまわん」
俺はその言葉に笑った。
「素晴らしい自論だ」
「うれしいね」
「俺の名前はオズワルドだ」
「俺の名前はジャックだ。よろしく」
俺とジャックは握手をした時、ちょうど朝日が昇った。
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