10 ミゼア達

 それは本当に突然のことだった。あの、遠を写し出した放送の、僅か三日後のことだ。

 ――壁が無くなった。  

 いや、正確には壁自体はあるのだが、扉は開け放たれていた。

 

 そのことに気付いたのは子供達で、皆が目を丸くし、競うようにして大人達を扉の方に引っ張っていった。

 扉は確かに開いていた。おそるおそる顔を出しても、外に兵士はいない。襲われる様子もない。空はいつものように濁って黄色く、だが、扉は開いている。

 緊急に五鉱委員会が招集された。皆、頭をひねった。何かの罠だろうか、罠ではないとしても一体何の目的で?

「ここは、もしかしてもう埋め立てられてしまうとか、そういうことなんでしょうか」

 スレイニットが眉間に皺を寄せながら言ったが、証拠がない以上、誰も何も意見表明ができない。

「……そういえば、今日はまだ、食糧配給車も来ないわね」

 ミゼアが気付く。そういえばそうだな、と声があがった。

「つまりそれって……もう、軟禁ではなくて……好きにしろ、ということと解釈していいのかしら」

 ミゼアは皆の顔を見回したが、誰もが困惑していた。好きにしていいと言われても、どうしていいのか分からないのだ。

 よし、とミゼアは心の中で呟いた。皆が分からなくても、わたくしには分かる。

「では、委員会のメンバーをいくつかの班に分けます。班ごとに目的を与えるので、その目的に沿って外の世界を偵察しましょう。他にも何人か大人を連れていっていいわ。いい?」

 確かめるようにその場に並ぶ顔を一つひとつ見たが、反対する者はいなかった。

「では……、あの空の街にわたくしたちが行くにはどういう方法があるのかを探る班、水や食べものはどのように手に入れられるのかを探る班、仕事に就くにはどのような方法があるのかを探る班、この街の全体像を掴む班、まずはこの4つにしましょう。他にも知りたいことはあるけれど、焦るのはよくないわ。今言った4つの順番ごとに、スレイニット、六連むつら、ルォイエ、秀桓しゅうかん、担当して。人選もあなた達に任せるわ。でもトー、あなたはもしこの区画に何かあった時のための守り手の長としたいから残ってください」

 途中まで、自分の名前が呼ばれないことに不服そうな顔をしていたトーは、それを聞いて破顔した。

「任せてくだせぇよ」

「よろしく頼むわ。みんなが好き勝手に外に出ないようにもしておいてね」

 ミゼアは微笑んだ。

「期間は1日よ。夜の9時には必ず帰ってきて全員で報告すること。では、解散!」

 久しぶりに動いた状況に、皆の間に流れる空気も変わった。ミゼアも、この機会を逃すまいと思う。だが、ミゼアはミゼアでしなければいけないことがあるのだ。


 階段をくるくると降りて、ふと足を止める。耳を澄ますと、どこかからか、か細くも優しい歌声が聞こえてきた。マイベリの声だ。

 それでミゼアはマイベリにもこのことを教えたら喜ぶだろうと思い、彼女のところに立ち寄ることにした。長い廊下を抜け、一番奥の部屋に入る。

「ベリ!」

 声をかけると、窓の外を見ていたマイベリがこちらを振り向いて、顔をほころばせた。

「ミゼア……」

「聞いて、大ニュースよ。もしかしたら、外に出れるかもしれないの」

 ミゼアはマイベリのベッドの縁に腰掛けて、彼女のやせ細って乾いた手をとった。 

「本当……? ……遠さまを、助けられる?」

「すぐにという訳には行かないだろうけれど、きっと大きく前進するわ」

「嬉しい! そのときは、ベリも、ベリも何かお手伝いできることがあるかな……」

 ミゼアは言葉に窮した。マイベリは体が弱い。何をしてもらうか、すぐには浮かばなかった。だが。

「きっと、あるわ。そう、それに、そのときまで待たなくても、ベリは今でも役に立てることがあるのよ」

「何……?」

「歌よ。ベリは元アイドルだっただけあって、すごく素敵な声をしてるわ。この間、えーと忘れてしまったけれど、誰かもベリの鼻歌には元気づけられるって言ってたもの」

「ほ、本当……?」

「わたくし、嘘は言わないわ。……わたくしも好きなの、ベリの優しい歌声。だから、今みたいに、いいえ、もっと大きい声でもいいから、時々歌っていて。子供達と一緒に歌ったりしたら、なおのことここが明るくなるわ」

「えー、なんか、嬉しくて、ベリ、どうしよう……。もっとうまく歌えるように、頑張るね!」

 マイベリは本当に久しぶりに心から嬉しそうな顔をしていて、それをミゼアはとても可愛いと思った。

「さ、わたくしは行かなくちゃ。また来るわね」


 ミゼアが探しているのはハターイーだったが、今日もこの区画内では姿を見ることができなかった。

(本当に、どこに行ってるのかしら、あの人……そろそろ、皆の不信感からも庇いきれないわ……)

 ミゼアは自室に戻り、ベッドに腰掛け、壁にもたれかかって息をついた。脇にはだいぶ草臥れた風合いの机と椅子があり、仕事ができるようになっている。

 自分専用の部屋があるのはミゼアだけで、他の鉱人達は委員会のメンバーであろうとも2、3名で同室になっていた。ミゼアは最初それを、自分だけ贅沢をするなんてと拒んだが、秀桓に「あなたは私達の代表として多くの責任を負っているのだから、それくらいの贅沢は許されるのだ。そのかわり、それに値する者でなければならない」と言われて、しぶしぶ納得したのだった。

(……人を率いるって、大変……)

 ただ、色んな能力に秀でているだけではだめなのだと、ここに来て初めて悟った。自分の芯に、人の上に立つ覚悟がなければ。

(わたくしは女神になりたい、と思っていたけれど、それがどういうことだか全く分かっていなかった。……わたくしは、向いていない)

(わたくしの中には、覚悟も王道もない。人に『上に立つと者はこうでなければ』と言われればそれに右往左往して、それっぽいものになろうとして、でも本質的には全然それになれないって、自分で、分かるもの)

 ミゼアはふっと微笑んだ。それでも、いいのだ。今は不思議なほど力が抜けている。遠が戻ってくるまで、それまでだけ、なんとか皆の長として頑張ろう。遠に最高の状態でバトンタッチして、そしてその後は遠を隣で補佐できるように。

  


 日が沈み、街が影に沈む頃になると、続々と報告が上がってきた。

 一番最初に戻ってきたのはルォイエ班だった。

「駄目だったよー、ミゼア」

 開口一番にルォイエは言った。その額には汗が浮かび、短い灰色の髪が張り付いている。顔には失望の色が浮かんでいた。

 ルォイエの話をまとめるとこうだった。まず、言葉が微妙に異なっている。全く分からないわけではないが、話しかけると怪訝な顔をされるぐらいには異なっているので、こちらが生粋の尭人ではないということは相手にとって明らかで、警戒される。街には、鉱球で一般的な光景だった、大きな求人掲示板は見当たらない。小さな張り紙も見当たらない。替わりにかなり遠くまで行くと、小さな店があって、そこで人集めをしているようではあったが、それは鉱球でも存在した、工事や清掃などの肉体労働のみに限られた募集のようだった。

「そこでは皆、係員のような人に、左肩を見せていたよ。よく見えなかったけど、何かのチェックをしていたみたいだったわぁ」

 ルォイエはため息をついた。

「この区画だけじゃなくて、この地の街はどこまで行っても廃墟かスラムのような有様だよ。まっとうな仕事なんて全くなさそう。きっと全部あの空の街にあるんだわぁ」

 ミゼアはルォイエに疲れたでしょう、ありがとう、と礼を言った。ルォイエが去るのと丁度入れ違いで、秀桓が部屋に入って来る。

「秀桓、おかえりなさい」

 ミゼアは秀桓を労う。秀桓はヨグナガルド出身の男で、30歳過ぎの元貿易商だった。同郷ということもあってか、ミゼアは委員の中で秀桓を最も頼りにしていた。職業柄なのか、たくさんの経験をしていて頭の回転が速く、そのうえ体格も良くて何でも出来る。見た目は無骨だが不思議な色気があって、女性に人気がある様子がミゼアから見てもよく分かった。

「ミゼア、おつかれさま」

 秀桓は軽く手をあげて応え、街の全体像の報告を始めた。

 街は非常に広く、どこまでも繋がっている、と秀桓は前置きをした。ただ、太陽から判別して北東の方角に非常に巨大な山のようなものの連なりが見えたので、そちらの方向に向かったところ、段々と建物の数は減り、次第に荒野のようなものが見え始めた。荒野にも興味はあったが、ひとまず街の全貌を掴むために戻って更に歩くと、この街が北南方向ではなく東西方向に長いことが分かった。

 また、どこに行っても人通りも賑わいもなく、ほぼ完全に捨てられた街である。時折思い出したように人のざわつきがある場所もあったが、流民のような人々が板やら棒でどうにか立てた、少し風が吹けば飛ぶような小屋が延々と続いている、完全なスラムだった。

 全体としてはあまりにも巨大で、おそらくこの街だけで、ヨグナガルドの第一層の面積の数十倍はあると秀桓は話した。

 話している言葉は自分達のものと少し違うようだが、街に溢れている文字はほぼ完全に同じもので、きちんと読むことができる。着ているものや見た目も、あまり変わらない。しかし着ているものについては、この街の人々も自分達も粗末な服という点で共通しているだけで、空の街に行ったらおそらく自分達は浮いてしまうことが想像できる。

「そうだ、大事なことを。私達を監視するような気配は無かったよ。きっと何らかの理由があって、私達を軟禁してひどい状態に置いている、ということが不都合になったんだろうね」

「圏界連合からしたら、貨幣を持っていなければわたくしたちは何もできないし、仕事に就かないと貨幣は手に入らないし、軟禁しているのも同然の状態、ということね……」

「おそらくね。ああ、六連とスレイニットも戻ってきた。六連、お前よく路に迷わず帰って来れたな!」

「ちょっとなんすかそれ、俺そこまでお子様じゃないっすよ……」

「お子様じゃぁないが、お坊ちゃんじゃないか」

「ひどいっすよ秀桓さん、もっと俺のこと持ち上げてくださいよ! じゃないと俺永遠に女の子にモテないじゃないっすか!」

「うるさいよ六連、ミゼアさんが報告を待ってるんだから」

「す、すんませんスーさん……」

「人の名前を勝手に略さないでくれ!」

 出身も歳も違う男達が楽しそうにふざけ合うのを、ミゼアは微笑んで見ていた。委員会の中で、ミゼアを除けば最も歳若い六連は、所謂今時の若者だったが、裕福な家で育った為に何もできずに空回りしつつも何事にも一所懸命取り組み、笑顔を絶やさないその様が、皆に愛されていた。

「とにかく、僕が見てきたのは水と食糧の入手方法です」

 スレイニットが話し出す。

「でも、残念ながら……水は、たぶん空き家に入って片っ端から配水口を開けて、水が出てくるか確かめるのが一番早いと思います。僕たちの世界にあった水瓶池みたいな、公共の水汲み場はなさそうです。あと、池や川みたいなものも見なかったな」

 スレイニットは実際に人気の全く無い建物に入って、目に入った配水口を片っ端から捻ってみたのだった。1つだけ、僅かに水が滴り落ちてくる蛇口があったから、当面はそれに頼るのもありだ、と話した。そして食べものについては自分達の世界と大して変わらず、店で貨幣を出して買う以外の方法は無さそうだった。

「俺は空の街に行く方法を調べたっすけど……」

 六連は珍しく、言い淀んだ。

「あの、えーと。ここから東の方角に歩いて3、4時間のところに、空の街に行く門というか、建物みたいなのがあるんすよ。このすげぇ荒れ果てた街の中で、その建物だけなんか綺麗で、つるつるしていて」

「そこに、僕らも下層の坑道で使っていたような巻き上げ式昇降機があるんですよね?」

 スレイニットが聞く。

「いや、それが、違うっぽくて。あのー、信じてもらえないかもしれないんすけど、空飛ぶデカい兎に乗るっぽいっす……」

 一同は静まり返って、そして皆くすくすと笑い出した。――ミゼアと、シェム以外。

「何言ってんだ! 兎がデカいのはともかく、それが飛んで、しかも目的地にちゃんと行くって? 兎はそんな賢い生き物じゃねぇぞ!」

 トーが大きな声で笑いながら言った。

「いや、でもホントに……ちゃんと飛んでいってるんすよ、兎が! 耳が羽になってて……」

 六連が話せば話すほど、皆の笑いは大きくなり、六連の顔は真っ赤になった。

「みなさん、静かに!!」

 その場を沈めたのはミゼアだった。笑いが一気に引き、小さなざわめきだけが残った。

「六連の言うことは本当でしょう。この尭球の科学技術はわたくしたちの想像を遥かに超えるレベルなのよ。女神という、造られた人間を生み出す程に」

 ミゼアの声は凛々しく響き渡って、その場にははっと息を飲む空気の震えだけがあった。

「機械……ロボットと人を融合できるのだから、人の命令を聞く賢い兎が造れたって何の不思議も無いわ。六連、続けて」

「……あ、はい。でも、もうそれくらいしか話すことないっす。あ、あと兎に乗るにはたぶん手続きをしたり、係員のチェックを受けたりするみたいだったっす」

「それはそうよね……。ありがとう。みなさん、今日は疲れたでしょうから一度ここで解散にしましょう。また明日この情報を元に、どうするか考えましょう。……みな、無事に帰ってきてくれて、本当に良かったわ」


 それから4日間かけて、鉱人達は、いくつかの結論を出した。

 一つ、この街でずっと生きていくことは有害な空気の観点から言っても非常に難しい。

 一つ、食糧配給車が来なくなって、人々は飢えている。

 一つ、この街の住人は、空の街になんらかの事情で住むことができない人々で、こちらに協力している余裕のありそうな人間はいない。圏界連合に恨みを持つ人間はいるかもしれないが、その中から遠を奪還する作戦に組み込めそうな人間を選抜するのは困難である。

 一つ、なんとかして空の街に行かないと、皆の体調という面でも遠を救うという面でも埒があかない。

――そして、そのなんとかする方法が、まるで思いつかないまま、5日目の朝を迎えた。

 食糧が、尽きる。こんな非常時のために、なんとかなんとか、日々の食を削って蓄えていたビスケットも、今日で確実に底をつくのだった。食べものを手に入れるには、あとは、盗みしかない。ミゼアがこれしかないと決断すれば、皆、緊急事態なのだからと罪を犯すだろう。だが、ミゼアはどうしてもそんな命令は出したくなかった。

 自分が手を汚すのであれば、自分の品格だけが泥に塗れるのであれば、なんとか我慢ができた。だが、きっとミゼアを実行犯とするのは委員会のメンバーも、鉱人達も許さないだろう。そうなると、自分の手は汚さずに、人の手を汚させるということになる。それは、自分が苦汁をなめるよりも、遥かに受け入れ難いことだった。

 だが、そんな自分の誇りのせいで、皆が飢えに苦しみ、いずれか死に向かうなど、それこそ容認し難い。

 ミゼアは、まんじりともせずに夜明けを迎えたのだった。答は、出ていない。体も頭も重く、ベッドの上でミゼアは起き上がれずにいた。

 その時だった。ドアが1つ、2つ軽く叩かれた。声はしない。

「……誰?」

 とっさに起き上がり、髪を両手で梳き、両手を膝の上に置く。

「僕だよ」

 声を聞いた瞬間、ミゼアは思わず泣きそうになった。ぐっと唇を噛んで、息を飲み込み、吐き出す。

「……どうぞ」

 入ってきたのは、ずっと姿を見せていなかった、ハターイーだった。あまり信用してはいなかったが、ミゼアにとって使えそうなカードはこの男だけだったのだ。

「……どこに行っていたの」

 あなたを散々探したのに、という言葉は飲み込んで、なるべく淡々と、ミゼアは言った。

「ごめんよ。色々な手配をしていた。……心配かけたね?」

「あら、心配などしていないわ。無責任だとは思ったけれど」

「そんなにふくれないで、綺麗な顔が台無しだよ」

 ミゼアは呆れ返った。こんなにやつれている自分に綺麗と言ってのける無神経さに。だが今はそれどころではなかった。

「……5日前から、扉が、開いてるの」

「うん、知っている」

「なぜ?」

「簡単に説明するよ。あのね、尭球圏界連合は非道で非文明的な行為を行っているけれど、別にこの星はそれを許容しているわけではないんだ」

「どういうことかしら」

「……尭球圏界連合が君達に行った行為は、この星の価値観を以てしても明らかに非道であり、許されないことだ。法的にも問題がある」

「法的?」

「ああ、玉宮が『律令』を決めていただろう? それと同じようなものだよ。……だから、圏界連合は、君達に対する行為を、民に隠している。君達をあそこに塵のように軟禁していることも、もちろん秘密だ」

「……なるほど」

「それでね。鉱球にも、各圏に報道機関、ってあったでしょ? 例えばヨグナガルドなら『アイヒ新報』。玉宮の打ち出す政策や、制度の変更や、町のニュースを載せた冊子を作っていたじゃない?」

「あったわね」

「この星にも、報道機関、はいくつかある。彼らは鉱球の報道機関よりも、強い力を持っている。彼らは各圏を統治する企業なり宗教団体なり、あるいはその上位組織である尭球圏界連合を、監視する存在と言える。その報道機関の、ある一人の人間が、君達が軟禁されていることに気付いた。謎の人々が非道な仕打ちを受けていて、それがどうやら圏界連合によるものらしい。これは報道して広く天下に知らしめなければいけない事実だ。――だから、圏界連合は君達を『解放』した。軟禁していない、状態ということにしたんだ」

「……」

「もう少し正確に言うと、僕はこの一年程かけてずっと、信頼できる報道人を探していた。やっと見つけたんだ。だから彼にこの状況を伝え、圏界連合にほのめかすようにしたんだ」

「あなたが? 探してくれたの?」

「うん、そうだよ」

 ミゼアは深く息をついた。自分が何もできない間に、この怪しい男はちゃんと有効な手だてを考えて動いてくれていたのだ。

「……あなたは、大丈夫なの? 確か、死んだことにして鉱人達に紛れてきたんでしょ。そんなに派手に動いて大丈夫なの?」

「大丈夫だよ、その辺は心配しないで。得意なんだ。それに僕はご覧の通り美しいから、それが色々と役に立つんだ」

「……そう」

「ところで、僕の見つけた信頼できる報道人を紹介していい? 今、外に連れてきているんだけど」

「えっ、お待たせしていたの? 申し訳ないことをしたわ。お連れしてちょうだい」

 ハターイーは少しドアから顔を出して、外にいた人物を手招きした。

「ミゼア、こちらはカミッロ。ケタッドカウノという組織に属している。カミッロ、こちらはミゼア。鉱人達の長だ」

「はじめまして、ミゼアさん。お目にかかれて光栄」

「はじめまして。色々ご助力いただいたようで、感謝しております」

 カミッロは真っ黒なシャツに真っ黒なズボン、そして丸い金縁眼鏡をかけている2,30代の男性だった。ハターイーは信頼できる、という枕詞をつけていたが、ミゼアが見た目から感じた印象は一言で言って「うさんくさい」だった。

 どこがどう、とはうまく言えないのだが、身のこなしが妙にゆらゆらとしているし、声はやや裏返り気味で、しかも少し変な臭いがする。そうは思いながらも、ミゼアは椅子を出して、ハターイーとカミッロを座らせた。

「ミゼア、ここからはさらに大事な話だ。……君達は、飢えているね。僕は、君達に食料品などを買うための資金を稼ぐことができる。今日もいくらか貨幣を持ってきたから、これは君達で使ってなんとか食いつないでほしい。……だが、おそらく僕の稼ぎだけでは足りない」

 ミゼアは頷いた。ハターイーは、左肩に尭人の印があるのだ。だからこの世界でどうにかして生きていくことができる。

「足りない分を稼ぐ方法として、一つ、寄附を募るということを僕は考えた」

「寄附……」

「ミゼアはもしかしたら嫌かもしれないね。でも、最後まで聞いてほしい。寄附を募るには、君達の存在を知らしめる必要がある。どんなに凄惨な目にあって、この星に連れて来られたか。これをカミッロに明らかにしてもらう。君達の存在自体が切り札になるんだ。そして、君達は真っ向から圏界連合に対して声を上げる。『状況改善のために会ってほしい』と。これであのウルバンと、同じテーブルについて交渉することができる」

 ミゼアはその案をよく頭の中で咀嚼した。自分達の存在を明かすことが圏界連合を脅かすことになるとは、考えつきもしなかった。だが、この見知らぬ世界で、自分達の存在を陽のもとに晒すことは、無用な詮索や誹謗を招き、辱められることになるのではないか。自分はともかく、……例えば子供達などにとって、それは耐えられることなのだろうか。

 だが、今までの自分達の持っていた案より、遥かに現実的であることは確かだった。空の街に行って、ドンパチをして戦って、遠を救い出すなどという荒唐無稽な案より、血も流れずに済むかもしれない。もちろん、ウルバンが簡単に交渉で引き下がるとも思えなかったが。

「……委員会の他のみんなにも話して、前向きに検討してみましょう」

 ハターイーは微笑んで頷いた。ふと、ミゼアは彼が僅かに以前より頬が痩け、やつれてみえることに気がついた。

「あの……ハターイー。ありがとう」

「僕がやりたくてやっていることだ。……僕はまだ、やることがあるから、今日はこれで。今度はまたすぐに戻ってくるよ」

 ハターイーはミゼアの肩にぽん、と手を置いて、カミッロを連れて去っていった。ドアがかたん、という音を立てて閉まる。

 残されたミゼアは、道が開けていく喜びと、その道を自分の手では切り開けなかった不甲斐なさとの間で、じりじりと燃えるような感情を必死に心の中に押しとどめていた。

(……今はわたくし自身の不甲斐なさを責めても、どうにもならない。前を向くのよ、ミゼア)

 


 鉱人代表と、尭球圏界連合代表の会談が行われたのは、その二週間後だった。

 圏界連合に指定された時刻はもう少しで太陽が天頂に届こうかという昼前で、鉱人地区の建物のあたりにいてくれれば良い、という通達がカミッロを通して伝わっていた。

 ミゼアは、トーや秀桓達の強い申し出を断って、シェムを連れとして伴うことにした。特に理由は無かったが、遠に少しでも近い場所に行くのだから、シェムを連れて行ってやりたい……そんな気持ちが働いたのかもしれない。

 空の街からの使者を待つ間、委員会のメンバーどころか、ほぼ全ての鉱人達がミゼアの見送りに顔を覗かせていた。気をつけて、と皆が口々に言う。大丈夫、とミゼアは微笑んだ。

 その姿が現れたのは定刻とほぼ同時だった。空の霞の中から、ぼんやりとした何かが現れる。小さな子供が、「兎さんかな!?」と叫んだ。ミゼアも耳が羽になっている兎の姿を少しだけ期待したが、実際に現れたのは、どうやら2頭の羽のはえた羊だった。

「……乗ればいいのよね?」

 ミゼアはシェムと顔を見合わせ、音もなく地面に降り立った真っ白な羊の背に、戸惑いながら乗り込んだ。鉱球にいた羊よりも、二周りばかり大きい。

「いってらっしゃい、ミゼア! 気をつけてー、ねー!」

 ルォイエの声に引きずられるように、他の皆も口々に叫んだ。またがった羊はそれを合図にしたのか、ぶるるっと震え、ふうわりと浮き上がった。後ろで皆の歓声が大きくなり、そして次第に遠ざかって小さくなる。

 羊はそののんびりした見かけに反して、随分と速く飛んだ。霞んだ空気が風となって頬にあたり、息苦しい。だが、しばらく上昇すると、急にその靄は晴れた。

「し、シェム!」

 思わずミゼアはシェムの名を呼んだが、別にシェムに用があると言う訳ではない。ただ、あまりにもそこに広がる光景が非現実過ぎて、横にいたシェムの名が口をついて出たのだった。 

 靄の上には、青空が広がっていた。真っ青な、広い空。そこに浮かぶ都市は、地上から見て想像していたよりも遥かに巨大で、複雑だ。息もできないほどの圧迫感が、心臓を早鐘のように打たせている。

 そして、今まさに二人の騎乗する羊は、その空に浮遊する都市の下にできる、影に入ろうとしていた。

 単純な大きさというのはこれほどにまで人を圧倒するものなのだ、とミゼアは思った。そしてあんなに大きいのに、まだ距離は遥か遠く思える。尭球の科学技術力の高さを具現化したような都市だとミゼアは思った。

 (こんなに空は青いのに、これでも空気は汚れているのね……)

 ハターイーの話を鵜呑みにするならば、地上から見たあの霞んだ空気は、年々その層の厚さを増し、上へ上へと登ってきているのだという。だが、そうだとしても、久しぶりに見た青い空の美しさは胸を打った。例えそこに、有害な物質が含まれていようとも。

 羊は軽快に飛び、乗り心地は素晴らしかった。彼ら本来の呑気で気怠そうな動きはまるで見せなかった。時折一方がめぇぇ、と鳴くともう片方の羊もなぜかめぇぇ、と反応するのが、どことなく動物らしく、また可愛らしく思え、ミゼアは羊の首筋を撫でた。

 しばらく町の影の中を飛んで、気がつけば広大な都市の底が頭上に迫ってきていた。恐ろしい眺めだったが、当然のごとく、怯む様子を見せずに羊は駆け、ついに都市の底の穴に飛び込んだ。コオオオオと不気味な音を立てて渦巻く気流に圧倒され、思わずミゼアは目を閉じ、手綱を強く握りしめた。ようやく風圧が収まったことを感じて目を開けると、もうそこは空中都市の「上」だった。

 巨大な空中都市の、さらに数上数メートルを羊は飛んでいた。ミゼアはぐるりと下を見回したが、見慣れぬ建造物群は何が何やら一見しただけでは分からない。しかも、羊はミゼアが都市の全貌を捉える前に次第に減速し始めて、静かにある建造物に近づいた。

 羊が降り立った場所は、長い真っ白な通路のようなところで、その道の両脇には落下防止のためなのか、背の低い灌木が植えられており、一回り内側にはこれも道に沿って帯状に草が生えている。飛ぶ動物たちの停泊所なのだろうか、その草の部分に、様々な動物―中には大きな兎もいた―が繋がれていた。

 羊はとことこと歩いて、草の一区画に侵入し、大人しくそこで止まった。

「ここが、あなたの場所なのかしら?」

 ミゼアは小さな声で羊に話しかけたが、返事はない。シェムと目を合わせつつ、二人は羊の背を降りた。ふと視線をあげると、道の向こうから、人影が一つ、近づいてくる。二人は背筋を伸ばした。ここは敵地なのだ。いつ何が起きてもおかしくない。類まれなる幸運と、ハターイーとカミッロの尽力で、とんとん拍子にウルバンとの会談が決まったが、ここでミゼアを殺してしまうことだって彼には造作ないはずなのだった。

 近づいてきた人影は、だが想像に反して、小柄な女性だった。

「こんにちは、お待たせいたしました」

 女性は耳の下で栗色の髪を切りそろえ、健康的で朗らかな笑顔を浮かべて挨拶をした。身につけているのは、芥子色のスカートスーツでどうやら何かの制服に見える。

「私は尭球圏界連合副事務局長ウルバンの秘書をしております、ユドンと申します。長旅、お疲れでしょう。ご案内いたします」

 ユドンと名乗った女性は少なくとも第一印象ではとても感じが良く、ミゼアはほっとすると共に、複雑な思いだった。この女性は、敵か見方で分ければ確実に敵なのだ。

飛羊とびひつじの乗り心地はいかがでしたか?」

「ええ、素晴らしかったです。空を駆ける体験は初めてでした。……あの、一つだけ教えていただけませんか。ここは、どこですか?」

「ああ、そうですよね。ここは、尭球の中心……どの圏にも属さない、圏界連合直轄都市です。そしてその最たる中心である圏界連合本部の建物です」

「なるほど……」

 もっと聞きたいことがあったが、ミゼアは踏み入れた建物内部の異質さに目を奪われていた。真っ白な床も、真っ白な壁も、全てびっしりと銀色の流線型の幾何学紋様に覆われていた。ヨグナガルドにもあったような、植物の形を元にした幾何学模様を反復させて隙間なく配置するようなものではない。その紋様は一見混沌として無秩序に見えるが、だが確かに何らかのルールに基づいている。

(どこかで見たわ、どこかで……)

 その時、今までずっと黙っていたシェムがぽそりと言った。

「フラクタル図形じゃ」

「え?」

「……遠が、見せてくれた魔術も、光はフラクタル図形を描いてた。……この壁のも、フラクタル図形じゃ」

 ミゼアは驚いて目を見張った。そう言われれば、確かにそうかもしれない。だが、それに何の意味があるのだろう。この星では一般的なのだろうか。

 フラクタル図形は奥に進めば進むほど複雑なものになっていく。それに気をとられ、ふと気付いたときにはどこをどうやって歩いたかはもう分からなかった。

「ミゼア様。こちらでお待ちください。今、主を呼んでまいりますので」

 ユドンに促されて入った小さな部屋は、こじんまりとしながらも、格調高い品々で彩られていた。今まで歩いてきた廊下は無機質な素材でできていたが、この部屋の壁は濃い茶色の木材だった。足元には複雑な紋様の織り込まれた絨毯、部屋の中心には壁と同じように重厚な木の机と、豪奢な椅子が六脚。そして圧巻なのは、壁に備え付けられている長い台の上にずらりと飾られた色鮮やかな花々だった。

 綺麗、と思ったミゼアが花に近づこうとした時、扉が左右に音もなく開き、現れたのはウルバンとユドンだった。

 ウルバンは以前会ったときと同じような服装をしており、最低限の礼儀を守るための微笑みは浮かべていたが、決してこちらを歓迎していないことはすぐに分かった。後ろのユドンが、ぺこりと小さく頭を下げる。

「どうぞ座ってください。あなたのことは覚えていますよ。ヨグナガルドの次代女神候補のNo.2で、月糸に間諜として差し向けられた――ミゼア、さんでしたっけね」

 ウルバンは話しながら、椅子に座る。簡単な敬語こそ使われているが、相手がこちらに向ける視線には、隠しきれない侮蔑の感情が滲み出ている。 

 ミゼアとシェムも座るのに気が引けるほどの細工が施された椅子に腰掛けた。

「もう一人は知らない顔ですね。まぁいい、さほど興味はありません。それで、君達は何が欲しいのです?」

 ウルバンは机を人差し指でひっきりなしにトントンと叩きながら話した。

「……まず一つ目。わたくし達を、この星で生きるため、仕事に就けるようにしてください」

「おや、一つ目ということは複数あるのですか。それはそれは遠慮のない……人並みの慎み深さ、というものを身につけなかったのですかね。人間ではないから仕方がないか……」

 ミゼアは耳を疑った。人間ではない、と言った。よくも、そんなことを。だが、それを表情には出さなかった。

「二つ目。遠を返してください。……たった二つだけです」

「たった二つ! 今まで私達がどれほどのものを君達に与えたと思っているのですか? まず命。命ですよ。それに世界。何不自由なく暮らせる世界を作ってあげたのです。今回、私達はただそれを回収しただけなのですよ。感謝もなく、仕事に就かせろだの、果神を返せだの、いやはや、厚顔無恥とはこのことですね」

「……」

「仕事に就かせろと言うのは、つまり尭球の人間にしてくれということですね? だが大変残念ながら、尭球は人でないものには戸籍を与えていないのです。ちゃんとした人間だけならまぁ考えてあげないこともないですが、自分が『印持ち』でなくたって、親が『印持ち』だったり、そのまた親が『印持ち』だった人間がほとんどでしょう。そういう方々はやはり人ではないわけですから、そう簡単に権利などを与えてあげるわけにはいきませんね。普通のまっとうな人間を養うのですら、この星は手一杯なのですから」

「……」

「君は勘違いしているようだからもう一度言っておきましょう。君も、他の鉱人も、人ではないのです。機械……機械と言うにはあまりにも人間に似せすぎてしまったので、我々はバイオロイドと呼んでいます。つまり、君達には主である人間がいて初めて正しい姿となるわけですよ」

 ミゼアは黙っていた。今口を開いたら、どんな言葉が口をついて出るかわからなかった。怒りで、体が小刻みに震えているのを、机の下で自分の左手を自分の右手で押さえているのがやっとだった。

「だからそうですね、働きたいのならば、連合が君達の適切な主を募集して、売ってあげてもいいでしょう――。ですがもちろん一人一人別々の場所に行くことになります。そう、それであとはなんですって、果神を返せですって? ははは! はははは!」

 ウルバンは何がおかしいのか突然笑い出した。

「返す理由が全く見当たりませんよ。彼女はバイオロイド、私達が作り出した人工生命体です。そして私達が作った『母艦』のシステムによって果神と判断されたのです。頭の先から爪先まで、全て私達のものですよ。何か反論がありますか?」

 ミゼアはウルバンの目を静かに見つめた。

「遠は、わたくし達の代表であり、わたくしの友達です。彼女の心は、こちらにあります」

「心! 心など! いやはや、本当に片腹痛いですね。もう一度言うけれども、彼女はバイオロイドです。人間ではない。つまり心なんていうものは無いのです。君も、ね」

「では人とバイオロイドの違いは何なのですか? 何も変わらないのではありませんか。見た目も、生命活動を行うメカニズムも違わず、自己増殖をする点でも同じ」

「そんなくだらない議論を君とするつもりはありませんよ。違い? 普通の人間は黒術や白術など使えませんよ」

「……」

 ミゼアは口を噤んだ。この議論では、ミゼアはウルバンに勝てないと感じたし、こんな話をしていても埒があかない。

「ケタッドカウノに焚き付けられた人権団体が五月蝿いから、君達を自由にしてあげたのです。……そもそも、君は果神と友達だ、などと言いますが、あれのことなんてさっさと忘れてしまった方が生きやすいんじゃないでしょうか?」

「……どういうことです?」

「だって、そんな価値があると思いますか? 努力もしていないのに、特別な力が自分にあると信じてうぬぼれた馬鹿な人工生物ですよ。……ああ、それは君ら全員がそうなのか……」

 ミゼアは、もう、駄目だった。

 元々、当然、憎悪していたのだ。故郷が地獄の窯となり、無数の命が一瞬にして潰えた、その瞬間を見たときから。話し合いなど本望ではなかった。言葉を発する間もなく無惨に殺してやりたかったのだ。

 だが、皆のためにも、それはできないと必死に自分を抑え続けていた。今も、たった数秒前までは、まだ何もきちんと話し合えていないのだから、冷静に粘り続けよう、なんとか皆のために、この会談を設ける契機を作ってくれたハターイーとカミッロのために、成果を持ち帰られなければと思っていた。だが、我慢は限界に達した。

 ミゼアは、椅子を引いて立ち上がった。シェムがまるで表情一つ動かさないまま、それに追従する。

「帰ります」

「おや、もう諦めたのですか。まぁ、知性の無い生き物だからそんなものでしょうかね」

「ええ、諦めました。あなたと話しても時間の無駄だということがよく分かったわ」

 ミゼアは激高のあまりに逆に表情の消え失せて蒼白になった顔で、静かにウルバンを見た。

「自分の半径1メートルくらいの狭い世界で生きてきて、そこで得た浅い経験だけを頼りに、したり顔で人を分類し、レッテルを貼る。本当のことは欠片も見えていない、あなたこそ可哀想な生き物。その品性の無さを哀れみこそすれ、共に話し合おうなどと金輪際思わないわ」

 ウルバンが立ち上がり、座っていた椅子が後ろに盛大な音を立てて倒れた。彼の頬には血が登り、その筋肉は不自然に痙攣していたが、ミゼアはもうそれに一瞥もくれることはなく、部屋を出て行った。後ろからウルバンの妙に高くひっくりかえった叫び声が追ってきた。

「わ、私の……私のあ、浅い経験だと、私がどんな思いで生きてきたかなど知りもしないで、あ、」

 ミゼアは振り返らない。ミゼア様! と叫ぶユドンの声も意に介さず、ひたすら廊下を早足で歩いた。横で初めて、シェムが口を開いた。

「どうせ自分だけが辛い思いをしてると思っているんじゃろ、さらに吐き気がする……」

 ミゼアは、ええ、と小さく応えた。あまりの怒りに、目からは止めどなく涙が溢れ落ち、鼻水も出て、歯の根は合わずに震えてカチカチと小さく鳴っていた。

「シェム、わたくし、謝らないわよ。せっかくの機会を駄目にしたけれど、みんなに会わせる顔がないけれど、でも、でも謝らないわ。あの下衆が!!!」

「何も謝ることない。……ミゼアはよくやってるし、よくやったじゃが。……けど」

「けど?」

「俺は、遠が、……遠は、あいつのものなんかじゃない。遠のたった1本の髪の毛さえ、あいつのものなんかじゃない……!」

 シェムは思いきり壁を右手で殴りつけた。ゴッ、と鈍い音がした。

 ミゼアは小さく息を呑む。いつも仏頂面で、寡黙かつ冷静な職人肌。そんなシェムの中に秘められていた、燃え続ける熱く重い塊のようなものが、大きく炎を吹き出す瞬間を、目の当たりにした気がした。

 ミゼアは、そっと自分の震える手を、シェムの背に添えた。――思いは同じ。遠を、必ず、救い出す――。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る