第二章 不在の星

7 ミゼア

 とろりと生ぬるい水で、顔を洗う。決して爽快ではなかったが、ぱしゃぱしゃと水を頬に叩き込むようにして、ゆっくり目を開ける。

 鏡のなかには、肩の上まで切られた髪に、痩けた頬、目の下に濃い隈ができた自分がいる。だが、瞳の力は失っていないはず――。

(今日も、生き抜こう)

 すれ違う人々におはようございます、と声をかけながらミゼアは歩いた。狭苦しく、しかも傾いてしまっている通路を抜け、その突き当たりに備わっている崩れかけたテラスに出て、こちらに背を向けて座っている人影に声をかける。

「シェム、おはよう」

 ゆっくりと振り向いた少年は、浅黒い肌に鋭い目つき、伸びた金色の髪の毛を首筋で束ねていた。周りにはごちゃごちゃとした工具や、木材などが散らばっている。

「……」

 少年は黙ったまま小さく頷いた。シェムが無口で無愛想なのにはミゼアはすっかり慣れていたから、なんとも思わない。

「何作ってるの?」

 シェムは答えなかった。いつものことだ。彼は大抵、何か皆の役に立ちそうな道具を作っているか、あるいは鉱球の生き残りが詰め込まれたこの建物の修理をしてくれていたが、それを言葉で他人に説明することは好まないようだった。ミゼアはあまり気にせず話し続けた。

「もう少しで会議を始めるわ。22階に来てくれる?」

 シェムは頷いて、そして唐突にひどく咳き込んだ。

「……シェム、マスクをしていても、あまり長時間外にいない方がいいわ……。この星の空気は毒よ」

「分かってる。……上流の空気をもう少し下層に降ろせればいいんじゃが……」

 ミゼアとシェムは同時に上を見上げて、小さくため息をついた。上には、『街がある』。

 尭球の街は、文字通り、宙に浮いていた。初めてその……とてつもない光景を見たとき、ミゼアは空いた口が塞がらず、ただただ絶句した。自分が今までいた星とは全く違う形状の、白鼠色の巨大な建物が、無数に空高くに浮いているのだ。とても、自分の目を信じることができなかった。

 建物も、その並びも、それらを繋ぐ道も含めて、街全体がまるで幾何学模様のように美しかったが、同時に鉱球の人間――こちらの星では鉱人と呼ばれている――にとっては畏怖の対象でしかなかった。

 街が空に浮いているからといって地上に何もないわけではなく、土の上にはほとんど打ち捨てられた古い街の残骸があった。古いというのは、あくまで空の上の街の神々しさに比べての話であって、その規模や設備はミゼア達にとっては脅威だった。とにかく一つひとつの建物が大きく、恐ろしく縦に長く、空間を埋め尽くすように聳え並んでいる。ミゼア達鉱人の生き残りは、その古い、地の街の一画に押し込められた。頭上に浮く街のせいで常に薄暗く、そして何より、空気が澱んでいる街に。

 空気が濁ったから街を空高く飛ばしたのか、街が飛んで地上の街が不要となったからそこを汚したのか、前後関係は外界から隔離されている鉱人達には分からなかった。だがとにかく、目で見て「濁っている」と分かるほど、地上の空気は汚れていた。

 しかし、軟禁されている地区の中で最も高い建物の最も高い階に行けば、地上階よりは空気の濁りが少ないことは明らかだった。その階では、空中都市を囲んでいる空はあまり濁っていないことも確認できた。

 尭球に連れて来られて、一年。その間に、鉱人達はなるべく高い層で生活することにし、そして衣服や手持ちの布製品から、なんとか簡素なマスクを作り出した。そして今、なんとか日々を生きているのである。


 ミーティングに集まったのは『五鉱委員会』のメンバーである。委員会の代表はミゼア、メンバーは他に、各圏から代表が2人ずつと、『技術士』と『医師』だった。

 この『技術士』はまさにシェムのことで、『医師』があの謎めいた男、ハターイーである。ただしハターイーは、基本的にあまりこの地区にいなかった。時々ふらっと顔を見せては皆の具合を見てくれたが、長くて半月ほど現れないこともあった。どこで何をしているのかは、誰も知らない。出入りができないはずなのに、どうしていなくなったりできるのか、どこに行っているのかとミゼアは強く尋ねたことがあったが、美しい微笑みで誤摩化されてしまった。ミゼアは彼のことを尭球側のスパイではないかと思っていたが、それを正面切って糾し、真実を暴くための余力も、時間もなかったので、この問題を放置せざるを得なかった。そして、この日もハターイーは不在だった。

 委員会を進行するのは代表であるミゼアの役目だったが、全くもって話は前に進まなかった。解決すべきことは多いが、全てとても解決しようのない問題で、完全に行き詰まっていたのである。それでも、この一年の間になんとか解決策を見いだしてきたこともあった。

 例えば、運動不足。軟禁されているので、人々にはすることがなかった。仕事も無ければ、遊びもない。もちろん、あったとしてもやる気になるかも分からなかった。人々のうち半数は憔悴しきって生きる気力を無くしていたし、半数はひたすらこの状況に苛々していた。そこでミゼアは、軽度の運動を強制することにしたのである。朝はきちんと起きて、簡単なストレッチ。それから子供も大人も一緒に縄跳びや、球蹴りをした。もちろん、縄も球もありあわせのもので作ったのだ。最初はミゼアに反抗した者もいたが、ミゼアは懇切丁寧にそれらの行動の意味を説明し、一人ひとりを説得していった。今では、子供の無邪気な笑顔が大人の心を癒す、貴重な時間になっている。

 そして、食糧不足。鉱球を滅ぼした『尭球圏界連合』は、生き残った鉱人たちを殺す気は無いようで、1日に1度、無人で動く全自動食糧配給車が来た。だが家畜に餌を与えるように無配慮に与えられる食糧は、人数分になっているわけでも栄養のバランスが取れている訳でもない。すぐに僅かな食糧を巡って争いが起きるようになり、そもそもこれを均等に分配する為に『委員会』が設立されたのである。しかし小競り合いを解消したからと言って栄養不足まで解決できるわけではなく、仕方なく人々は軟禁されている一画の僅かな地面に、配給された芋や、果実の種を埋めた。最初は上手くいかなかったが、数ヶ月後に僅かな芽が出たときは、鉱人全員が歓声を上げ、涙を流して喜んだ。それから大事に大事に育て、今では1本のスモモに似たような木が、すくすくと育っている。

 さらに、小さな小競り合いは毎日のようにあった。まず『五鉱』とか、『鉱人』という言葉自体が最初は受け入れられず、その言葉を使う度に小競り合いが起きた。――彼らは、自分達の星の名を表す言葉を、持っていなかったのである。なぜなら、他の星、他の世界という概念が無かったからだ。だから、『鉱球』『鉱人』という耳慣れない言葉は、蔑称のように聞こえたのである。

 だが、今となっては、故郷を「あの星」「元々の住処」と曖昧な言葉で呼ぶのには限度があった。――名前が、欲しかった。そこでミゼアは、この『鉱球』という名前を受け入れましょう、と言って回ったのだ。決して蔑称ではない。豊かな鉱物資源を生み出していた我らが星の記憶を保つのに、最適な名であると。実はミゼアもそんなにこの名前が好きだったわけではないのだが、他の案はどれも、更なる争いを呼ぶばかりだったのだ。ダカン出身の人間は「砂」「熱」といった言葉を使いたがり、当然それは寒冷地である涼車の人間の怒りを買った。誰もが自分の住んでいた圏の特長を名前に織り込みたがり――結局、五圏に共通するのは「鉱物採掘の跡地」であることだけだったのである。この名前に誇りを持たせるのに、ミゼアは必死に言葉を尽くし続け、その甲斐もあってか今はあの小競り合いが嘘のように『鉱球』『鉱人』という名は定着した。

 もちろん解決のできていない問題も多い。ミゼアが個人的に抱えている問題は、体力の低下であった。ミゼアだけでなく、椎椎、マイベリも同じ問題を抱えていた。彼女達の天恩因子は、ウルバンの言ったように、力を抑えられたままだった。それが天恩以外の部分――普通の体調にまで、影響を及ぼし始めたのである。

 もちろん多くの人間が弱っていたが、彼女達3人は明らかに他の人々とは違う衰弱の仕方をしていた。力が出ず、すぐに呼吸が乱れる。痛みや辛さは無かったが、常に疲労困憊しているような状態だった。時々、ハターイーが見慣れぬ白術のようなもので看てくれ、その直後は多少は回復するのだが、長くは続かない。特に、マイベリは元々の体力の無さもあり、衰弱が顕著だった。今は窓際のベッドで、ほとんど横になってばかりの生活をしている。彼女はそれをとても苦しく、不甲斐なく思っていて、なんとか皆の役に立とうとしていたが、すぐに疲れてしまうことに気後れして、結局ベッドに籠り気味になってしまっていた。

 そして今、最も大きな懸案事項となっているのは、『遠の奪還』だった。

 ミゼアら元女神候補生達と、ハターイー、そして偶然にも生き残っていたシェムにとっては、遠をウルバンから取り戻すことは何よりも優先すべき事項だった。だが、何よりも優先すべきと思っても、目の前で苦しむ人々を後回しにすることはできない。それに、取り戻すと勇ましいことを言ったとしても、どうしたらいいのかまるで分からなかった。まず、遠の居場所が分からない。そしてあの宙に浮く都市のどこかにいるのだろうとは思っても、その都市に行く方法が分からない。もちろん、高い壁に囲まれ、周囲に兵士らしき監視の人々がいるこの区画をどう出ればいいのかも分からなかった。

 何より、『遠を取り戻す』という行為を鉱人達に納得させることが難しかった。生き残った人々の中に、遠を知る者はいない。そこで遠がどんな人物で、今回のことにどのように関わっているかを説明したところ、鉱人の意見は大きくまっ二つに分かれてしまった。

 『伝説の果神様が誕生し、連れ去られてしまったなら取り戻すのは当然』と、遠に肯定的な見方をする者。『果神とやらになったのにあの星を破滅させた。守れないどころか、滅茶苦茶な戦い方をして被害を拡大した』『そもそも本当に果神なのかどうかも怪しい』『もう死んでるのではないか』と、否定的な見方をする者。前者は尭人や尭球圏界連合に対して好戦的であり、後者はひたすら平穏な暮らしを望んでいた。

 この意見の対立構造は委員会内部にも同じように存在し、ミゼアはなんとか遠の奪回を皆に認めさせようと、説得に必死だった。ただそれには、彼らの考えるリスク……尭人に殺されるのではないか……を取り除かなければならないし、同時に何かメリットを与えなければならない。それにはせめて『奪回への道筋』や『それが成功する可能性』を提示できなければお話にならないことは、ミゼア自身が理解していた。しかしその素案を立てることの見通しが全く立たなかった。

 実は、高い壁の外に、一人だけ偵察の人材を出したことがある。それは、椎椎だった。椎椎は自分でその危険な役目に志願したのだ。私が外を見て何か情報を仕入れてくる、と。彼女は、食糧配給車の下に張り付き、壁の外に出て行った。――そして、数ヶ月間、戻って来ていない。

 一向に進展しない会議をなんとか仕切りながら、ミゼアは別の小さな議題に移ろうかしら、と思った、その時だった。

『これから 尭球圏界連合の 公式放送を はじめます』

 建物の外で、無機質な音声が流れ始めた。ミゼアは立ち上がり、走ってテラスに出る。シェムや、他の委員もそれに倣った。この区画からもよく見える空の一部に、映像が写し出されている。普段は何もないところに突然映像が現れる、その仕組みは鉱人達にはさっぱり分からなかったが、とにかくこの放送は一ヶ月に一度程あるもので、その内容は簡単に言えば圏界連合のプロパガンダだった。どこの何が解決された、副事務局長ウルバンの演説の模様、世の中は確実に良い方向に進んでいるという圏民の声云々。鉱人達にとっては不快極まりなく、耳を塞ぐものさえいた。だが委員会のメンバー達は大抵きちんと映像を見るためにテラスに出た。とにかくこの世界のことが分からなさすぎて、せめて映像から何か読み取れるものがあればと思っていたのである。

 見上げるミゼア達の頭上で、映像には黒髪を後ろで束ねた女性が現れ、いくつかのニュースを読み上げた。いつもの女性だったが、ミゼアはこの女性の髪型を見る度に、最上先生のことを思い出して胸が締め付けられるような思いだった。――生存者の中に、最上はいなかった。あの、厳しい「理解しましたか?」の声に潜む優しさを忘れることはない。そして、女神候補生達の天力を解錠するための、美しい鍵の魔術は継承されず、二度と見ることはないのだ、――そして二度と女神が誕生することはないのだ、とミゼアはぼんやり考えた。

 女性はどこかの地で暴動が起きて数名死傷者が出ているが、首謀者は速やかに取り押さえられ処刑されたことなどをさらりと読み上げた後、今日は特別な報せがありますので、尭球圏界連合副事務局長ウルバン様に替わります、と告げて姿を消した。ウルバンの全く表情の無い顔が写し出され、五鉱委員会の誰かが小さく舌打ちをし、唾を吐く音が聞こえた。

「親愛なる圏民の皆さん。私は今日、素晴らしいニュースを皆さんに届けることができることを大変嬉しく思います」

 と言うことは俺たちにとっては悪いニュースだ、と別の誰かが忌々しげに吐き捨てた。

「連合は数百年かけて、この世界でより素晴らしい統治を行い、皆々を平和と安寧の地に導く『神』を探してきました」

 ミゼアはその前置きだけで、これから起こることが一瞬で予感できた。古びて錆びたテラスの欄干を握る手に、力が籠った。動悸が激しく、心臓が口から飛び出そうな勢いで脈打っている。

「その『神』が1年前、見つかりました。ですが今日まで発表できなかったのには理由があります。神はまだこの世界に馴染んでおらず、眠っていらっしゃる。目は開いているが、そのお心はここには無いのです。そのようなお姿で紹介して良いものか連合はずっと逡巡してきました。しかし、各圏で争いが絶えず、終末論的価値観の怪しげな宗教が蔓延る様子は見るに絶えず、ここに正統な希望の神有り、ということを早急に伝えなければならないと判断したのです」

 これに対しても誰かが、「さっきの暴動で人が死んでるっていう報せを誤摩化すためだろうが!」と叫んだ。おそらく、その通りなのだろう。

「これが、その『果神』でいらっしゃいます」

 次の瞬間、黄味がかっている空に、どこかに座っているらしい女性の上半身が写し出された。

 白い肌に、額には青色の鎖のような紋様。あの短かった黒い髪の毛はいつの間にか長くなり、左右に垂らされ、複雑に結われて盛り上がっていた。さらに頭上には豪奢な飾りのようなものが載っている。そして黒かった瞳はいつの間にか、透き通るような青色になっている。空をそのまま写し込んだようなその目は、だが焦点があっておらず、何も見ていないことは明白だった。その姿はなぜか美しく、そして同時にあまりにも哀れだった。――それは確かに遠だった。

「遠さま!!!! 遠さま!!!!!」

 下の階のテラスで、マイベリの悲痛な声がする。横で何かが軋む音がして、ふと右を見ると、シェムがありったけの力で欄干を握りしめて、歯を食いしばって空に浮かぶ遠の姿を凝視していた。 

 (遠……生きてた……生きてた……)

 ミゼアは震える唇をぎゅっと閉じた。本当は、マイベリのように叫びたかった。遠、遠。この一年、どれほどあなたのことを考えたことか。

 だが生きていて良かった、という感傷と同時に、これでは生きているうちに入らない……と心の中で自分の安堵を否定した。最初ミゼアは、遠がまだショックで放心状態なのかと思ったが、放心状態よりもさらに、『魂がない』印象を受けた。心当たりはただ一つしかなかった。

「『はなればなれ』……でも一年も?」

 思わず口に出した。

「何、それ」

 隣のシェムが声をかけてくる。

「……黒術よ。肉体から魂だけ分離するの。でも莫大な力を使うし死の危険が高いから、絶対に使ってはいけないと……わたくしも呪文を教えていただいたけど、あまりの難しさに、もう覚えていないわ」

「尭球の技術では本当にそんなことができるんか……。分離状態を起こすのも、その状態を保ち続けるのも、とんでもない量の高速演算処理をしなければいけないじゃろ……」

「たぶんね。だから長くて1時間、と聞いたわ。でも、遠ならできかねない……」

「……」

 映像に映る遠に合わせ、何か神秘的で高揚感のある音楽が流れていたが、それはミゼアに激しい嫌悪感を起こさせただけだった。

「絶対に遠をこの世界の女神になど……圏界連合の傀儡として利用するなどさせないわ……」

 ミゼアは映像から目を放し、後ろを振り返って五鉱委員会のメンバー達の顔を見据えた。

「みなさん、やはり遠を見捨てるなんてわたくしには考えられない。このまま何もしなければ、彼女は魂を無くした状態のまま、圏界連合の良いように使い捨てられるのよ。……わたくしには、同じ星の仲間がそのように侮辱されることは堪え難い」

 数人の顔に、複雑な表情が浮かぶのをミゼアは確認した。

「その上、何もせずにそのうち待遇がよくなることを夢見るなどということは……座して死を待つに等しいわ。それくらいなら、今すぐ命を絶つ方が良い!」

 少々ヒステリックに演じすぎたかと思ったが、ミゼアにとってはこれは賭だった。ここで皆の感情を動かせなければ、もう次の機会はいつになるか分からない。

「……確かに、何もしないというわけにはいかないですね……」

 遠の奪還に反対していた一人、ニューポートのスレイニットという若者が俯きながらもそう言った。

「このまま大人しくしていたら、どうせ皆弱り、死ぬだけだ。むろん、圏界連合に楯突けば死ぬ可能性もあろうが、なんとかうまく行く可能性に賭けてみたいものだ」

 元々奪還に賛成派の、ダカンのトーという男性が大きな声で言い、周りを見回した。

「……私らはともかく、子供達を一生この空間に閉じ込めておくのは嫌だねぇ」

 反対派だった、涼車のルォイエという女性が小さな声で呟いた。彼女は自分の子供を、圏界連合の襲撃で亡くしていた。だが生き残りの鉱人達の中に1割程含まれる子供達を、心から慈しみ、かわいがっていた。

「さぁ、これでも反対する者はいる!?」

 声を上げるものは、いなかった。ミゼアは微笑んだ。頬に、少しの風が当たる。以前は、風が吹けばすぐに自分の細い髪の毛が肌をくすぐったものだったが、今はもう頬にあたるほどの髪はない。こちらに連れて来られてすぐに、長い髪をばっさりと切ったのだった。単純に邪魔だということもあったが、そこには、この苦境を脱するには以前の自分のままではいられないという強い決意があった。

「そうとなれば、これを以て『果神』遠の奪還は五鉱委員会の正式な決定とします! 具体的にどう進めるかは、次回の会議までにわたくしが素案を作るので、皆さんは是非それに対して意見を言ってください」

 とは言っても、ミゼアが考えられる「素案」の扇の要はハターイー以外にあり得なかった。なんとしてでも、彼がいつもふらっとどこに消えているのか、どうやってここから出ているのか聞き出さなければいけない。

(遠、もう少しだけ待っていて。わたくし、もう一番とか二番とか、どうでもいいの。強くなって、あなたを助け出す……!)

 見上げた空は濁っている。その向こうに見える壮麗な空中都市群をねめつけて、ミゼアは踵を返し、テラスを後にした。


 

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