第4話腐女子なんですか?

 とんでもないものを見つけてしまった。知ってしまった。

 もしかしてこれは、他人の犯すべかざる領域に侵入してしまったのではないだろうか。ちらりとそんな不安が薫の脳裏をよぎった。


「眞辺さん、もしかして、なの……?」


 薫は恐る恐る、彼女に訊ねる。

 きっ、と眞辺さんはただでさえ鋭い目を細めた。



「こっ、の――変態!」

「それはこっちのセリフだよ!!」

 思わず見てしまったスマートフォンの画面。

 そこでは、なんというか――口にも出したくないような腐った情景が展開されていた。端的に言うと、美少年と美少年が絡んでいる漫画である。



 あ、こいつもしや。

 確信。

 ――というわけなのである。



「変態に変態って言われたくないわ」

「同じセリフをそのまま返せるんだけど!?」

「だったら、言わないでちょうだい」

「いや、だから、僕も」


 ええい、もう面倒臭い。

 ――要は、変態だから変態呼ばわりするなってことだろ? でも僕だって、同じことが言えるんだよ!

「最初突っかかってきたのはキミだよね?」

「…………」



 途端閉口を始める眞辺さん。

 顔は赤らみ続けているけれど、固まったままほんのわずかも動かない。

 表情が完全に固定されていた。


 こうなると分が悪いのが薫である。向こうは沈黙を重ねることが可能だが、しかしこちらはどことなく追い詰めている雰囲気になってしまうために気分が悪い。

 これで傷ついてしまったら、と考えると、慰めずにはいられなかった。

 誰にだって知られたくないことの一つや二つくらいある。

 薫にだってある。(仲の良い知人は知っていることが多いのだが)



「べ、別に悪いって言ってる訳じゃないんだよ。趣味は人それぞれだし」

「…………」

「まっ、眞辺さん、どういうキャラクターが好きなの?」

「…………」


 泣きたくなってきた。

 半分は薫が悪いのかも知れないが――いや、本当に悪いのか?

 半分も悪くない気がする。だって最初に「変態」と罵ってきたのは向こうだし、「そういう性癖」という弱みがあったのも向こうだし……。


 薫は考えた挙句、結論を出した。

 どっちもどっちだ――。


 眞辺さんはやはり赤面しながら、こちらに向かって人差し指をスッと向けた。

 それから、口を開く。


「明日の放課後、空いてる?」

「部活があるから、それさえ終われば、だけど……」

「それでいいから」


 え? 何?


「一般教養棟の、講義室の前に来て」

 薫があたふたしているところを、眞辺さんはデイパックを背中に担ぎ、教室の端にある傘置きからフリルの付いた可愛らしい傘を手に取った。言うだけ言って帰るつもりらしい。

 去り際、眞辺さんは確かにこういった。


「伝えたいことがあるの」

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