第8話
「例えば明日、」
三十一回目。
そしてまた、伊吹は三人を助けるための、四人で『十一月二十六日午後三時五十分』を迎えるための、鍵を探すために何度もループを繰り返すことになった。
いや、恐らくこの言い方は適切ではない。鍵の心当たりは、十中八九これだろうというのが伊吹の中にはあった。
────たとえばあした。
清春の、この言葉。毎回この言葉から始まるこのループの鍵は、きっとこれだと、野生の勘でなんとなく伊吹にはわかっていた。
例えば明日から始まる、このループ。この言葉から始まるのだから、多分言うべきなのだろう。一つ目の例えば明日も、二つ目の例えば明日も、両方とも、四人が。
それでも助からなかったとしたら、鍵はそれだけじゃないのかもしれない。鍵がいくつあるかというのは聞いていない。一つだけかもしれないし、二つかも、三つかもしれない。四人いるから、四つあるという可能性もある。
何度だって繰り返す。何回だって。三人を助けるまで。四人で無事に『十一月二十六日午後三時四十九分』を乗り越えるまで。
多少不自然になっても、三人全員に『たとえばあした』を言わせる。勿論伊吹自身も口にする。
そしてその『たとえばあした』は統一することにした。不確定要素は少ない方がきっといい。理科の実験だって、変えるのは一つの条件だけだ。ただでさえ三人の言動を伊吹が変えることはできないのだから、せめて出来うる限りの伊吹の言動だけでも統一しなければと。
けれど、どう頑張っても三人は助からない。いつもいつも、目の前で三人の命は理不尽に絶たれる。
なんで、どうして。
その度に血が滲むほどに唇を噛んで、助からないとわかった瞬間に神社へ向けて走る。泣くことは、しない。涙なんてもう出てこない。
自分が怪我をすることだって少なくなかった。そういう時は、せめて足だけは怪我をしないように気をつけた。足を怪我したら、神社に行けなくなる。腕がなくなろうと内臓がやられようと、足が無事でさえあれば移動手段はいくらでもあるのだ。バレないように病院を抜け出すには、足があることが第一条件だった。
繰り返す度にノートをつける。三十回目までのことは、一度ゼロに戻して。しっかりと自覚して条件を考え始めた『三十一回目』からをベースにして考える。
ない頭を必死に振り絞った。三人に助けは求めない。一人で全部抱え込む。一度やることを決めてしまえば、騙すことなんてなんとでもない。騙される方も、それと分かって騙されてくれるのだから。
ノートは二冊を優に超えた。三冊も半ばを過ぎて、気づけば四冊目に突入していた。
────壊れないわけが、なかった。
「例えば明日、」
五十七回目。
清春のこと言葉を耳にしてすぐ、伊吹の視界は真っ暗になった。
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