第3話
「例えば明日、」
身体中の痛みが消えて、意識が半ば飛んだように感じて、伊吹が死んだのかと思っていたら三回目となる台詞が聞こえてきた。
戻って来たのか、と安堵する。足の痛みも腹の痛みも、息の苦しさも綺麗さっぱり消え去っていて、息吹は知らず知らずのうちに溜め息を吐いていた。
「伊吹? 聞いてる?」
「え? あ、おう、聞いてる聞いてる。例えば明日、だろ?」
「その先は?」
「地球が滅亡するとしたら、どうする?」
問われて答えると、清春がきょとん、とした顔をした。汐と千洋も微妙な顔をしている。なんで、と思ってから、そういえば清春はまだ「例えば明日」の続きを言っていなかったことに気付き、自分の失態に内心頭を抱えた。
「なんで分かったの?」
「え、合ってるの清春」
「まあ、うん、合ってる」
「マジかよ? 適当に言ったのにな」
自分でも苦しいとは思ったがなんとかごまかした。じいっと伊吹を見つめてくる汐の視線から逃れ、清春の背中へと隠れる。『三回目』は泣かなかった。その代わり、危ない目には遭っているが。
苦笑した清春が汐、と名前を呼ぶと、汐は仕方なく伊吹から視線を外した。伊吹は清春の影から出ると隣へ並んで歩く。
「それで?」
空気を変えるように千洋が清春を見上げた。
「例えば明日、地球が滅亡するとしたら、みんなはどうする?」
「あたしは、世界一周してくる」
「お世話になった人に会いに行く、かなあ」
「俺は先に死ぬ」
「見事にばらっばらだね」
あまりにばらばらすぎる答えに清春が笑う。そういえば『一回目』も『二回目』も同じ答えだったな、と思いつつ、伊吹も清春に同意するように頷いた。
「で、清春は?」
「俺は何もしない、つもりだったんだけど……伊吹の案に乗る」
「え、どうして?」
これも、一緒だ。細かいところは違うが、大まかな流れは同じ。
「先に死んでおくのも一つかな、って思って」
「そもそも伊吹はなんで?」
「俺? だって地球がどうやって滅びると思う? どう滅びるか分かんねぇだろ。もしかしたら毒ガスとかが蔓延して死ぬのかもしれねーじゃん。あとは水没したり?」
「なにそれどこの日本沈没」
「とにかく。苦しい死に方だったらやじゃねぇ? 俺苦しいの嫌いだし、だったら自殺でもして即死したい」
「それ聞いて余計死のうかなって思った」
「そこだけ聞いたら自殺願望者だよ二人とも」
千洋の冷静な言葉に伊吹と清春は同時に吹き出した。お互いに顔を見合わせ、まさかと更に笑い出す。
「だって例えば、の話だろ。自殺なんて死んでもしねぇ」
「伊吹、なんか矛盾してる」
「死んだら自殺できないでしょうが」
「言いたいことは分かるけどさ」
今度は三人が笑い出したため、伊吹はわざとらしく拗ねて見せた。それを見て三人が余計に笑う。逆効果らしい。
「んなこと言ったら汐だってどうなんだよ! 世界一周何で行くんだよ交通手段ねーぞきっと!」
「あ、そっか。それどころじゃないもんねえ」
「そしたら私もか。もういっそ四人で心中とか?」
「乗った。そうする」
「神社だな、場所は」
「神様赦してくれるかな?」
「大丈夫だろ」
なんたって、かみさま、だから。
そっか、と千洋が頷き、そうだね、と汐が同意する。「昔から通ってるしね」と清春が言って、何となく、だからかみさまは俺を戻してくれるのだろうか、と伊吹は思った。
「あ、コンビニ寄りたい」
「唐突。また肉まん?」
「いーじゃん肉まん。あったかいよ」
清春が唐突に声を上げ、それに汐が呆れたように言う。にっと笑った清春に千洋も呆れた顔をした。伊吹は『一回目』と同じだな、と思いながら小さく安心する。
だが、同じだということはまた『明日』も繰り返すのではないか? 分からない。安心しきれないことに気付き、伊吹はどこにやればいいのかわからない気持ちを心の中で転がす。
色々考えなければならないことがあった。コンビニに寄って、神社には行く。けれどその先、どう行動するべきか。ここで一人行動を外れたら明日に響くようなことはないのか。今日の行動は『明日』には響かないのか? でも『今日』を基にして動く『明日』もある。とするなら、ここでの別行動は避けておいたほうが無難なのか?
難しいことは嫌いだ、と伊吹は心の中で溜め息を吐く。そうも言ってはいられないが、言わずにはいられない。しっかりやるのだからこれくらいは許してほしい、と思いながら、辿り着いたコンビニに寄って各自食べたいものを買った。
「で、清春は肉まんなのね」
「だって食べたくなるんだよ」
「伊吹も?」
「清春が肉まん肉まんって言うから腹減った」
「運動してないでしょ」
「それは気にしたら終わり」
じと目で伊吹を見てくる汐は、なんとなく伊吹がいつもと違うがしていた。どこが、と具体的には言えないのだが、どこかに違和感が残る、気がする。そのレベルの違和感では、流石の汐もぱっと見ただけでは判断がつかなかった。
誰にも気付かれないように溜め息を吐き、どこにもぶつけることのできない気持ちを吐き出す代わりに伊吹にタックルをかます。油断していた伊吹は容赦のないタックルに体勢を崩し転びかけた。しかしそこは現役運動部、そう簡単に転ぶわけにもいかない。
何とか体勢を立て直すと、伊吹は仕返しとばかりに汐のおでこにデコピンをした。が、すっと逃げてしまった汐には当たらない。
くっそ、と思ったが、いつもと変わらない日常が嬉しくて、伊吹は思わず笑い声を漏らした。怪訝そうに伊吹を眺める三人だったが、あまりに笑う伊吹を見て何となく楽しくなってしまって、一緒になって笑い出す。
調子に乗った伊吹が「じゃあ神社まで競争な!」と言って走り出すと、ずるいだのなんだの騒ぎながらも三人はついて走ってきた。
「疲れた……」
「そりゃ、ね、全力疾走、したし」
「しかも荷物持って……」
「お前らもう少し鍛えろよ」
「現役運動部のあんたと比べないでくれる?」
神社に着くと、各々が荷物を降ろしてへたり込んだ。元気なのは伊吹のみ。清春ですら息が少し上がっているのは、恐らく荷物というハンデがあるからだろう。
正直なところ、伊吹のスポーツバッグの中は何も入っていないに等しかった。配られたプリントがファイルに数枚。筆記用具と財布、携帯のポータブル充電器、バッテリー、バレーボールくらいなものである。部活がないのにもかかわらずバレーボールが入っているのはご愛嬌だ。
汐、清春、千洋の三人は頭の良さは違えど授業自体は真面目に受けているため、それなりに荷物があるのである。しかもテスト一週間前、日程が貼り出されたためそれに合わせて副教科の資料集等を持って帰るのは基本。その基本ができていないから勉強ができないのだと、三人は思っていても直接伊吹に言ったことはなかった。
なんだかんだ、教えている時間が好きなのだ、三人とも。
「伊吹、なんかあった?」
「あ? んや、なにも? え、何?」
「あーううん、気にしないで忘れて。てか、あんた勉強道具は?」
「げえっ」
息が整ったところで、汐はちょっとだけ仕掛けてみることにした。だが、返ってくる反応は至って普通。どこにも違和感など感じられなくなっている。
さっきのはなんだったのだろうと、釈然としない気持ちもあったが汐ははぐらかすことにした。分かっていないのに問い詰めたって仕方ないだろう。清春も千洋も気づいていないようだし、汐自身の気の所為かもしれない。
汐の言葉に大袈裟に顔を引きつらせた伊吹は、内心ほっとしていた。スポーツバッグの中にはテスト一週間前とは思えないふざけたものしか入っていないし勉強道具など何もないが、イレギュラーな事態をどう説明していいものか分からない。説明していいのかも分からない。
汐とは十数年来の仲、隠し通すのは難しいかもしれないが、余計なことを言って不安にさせたくはなかった。
伊吹の反応に、清春がひょいっと伊吹のスポーツバッグを攫っていく。片手で十分持てる重さに清春は顔を顰めた。予想通りといえばそうだが、ここまで軽いとは思わなかった。
その表情に中身を悟り、汐が伊吹の頭を叩くと千洋は呆れたような笑みを浮かべた。相変わらず、だ。寧ろ何か入っていた時の方が衝撃は計り知れないものになりそうな勢いである。
「なんかもう、いっそ清々しいよねこの中身」
「清春甘やかさないで」
「甘やかしてないよ?」
「甘やかしてる。教科書貸すつもりでしょ?」
「貸してくれねぇの⁉︎ え、ダメなの⁉︎」
汐の言葉を拾った伊吹は慌てて清春に縋り付いた。やらないと部活に行けなくなる、練習する時間が減る。そもそも今回で『あれ』を乗り切れるかどうかは分からなかったが、もしかしたらこういう行動が何かに繋がるかもしれない。
何かは、分からない。けれど、やってみなければわからない。
分からないことを、先がこんなに見えないことをやることになるなんて思ったこともなかった。そもそも、時間が『戻る』ことがあるなんて誰も思わないし、伊吹だって信じていなかった以前に考えたことなんてなかった。
だから、分かるわけがない。
自分の望む未来にできたとして、そこで本当に『これ』は終わるのか。あの神社で願うことがきっかけなのか。何か代償はないのか。『これ』を、誰かに話してもいいのか。
「まあまあ、それくらいいいじゃん汐」
「千洋もそうやって……本当、伊吹の将来が不安」
「それは俺も思ってる」
「本人が言っちゃダメでしょ」
すぱん、と軽く頭を叩かれる。いってぇ、と零して清春の後ろに隠れた。汐に睨みつけられて、伊吹は内心で震え上がる。汐、怖い。
ずっと、このままバカをやっていたいと思う。元気な汐と清春と千洋と自分と、四人で。それだけで、もう、いい。かみさまは、この時間が続けばいいという願いは、叶えてはくれないのだろうか。
軽くへらーっと笑って、伊吹は汐を見た。相変わらず睨みつけたままの汐は根負けしたのかはあっと溜め息を吐いて首を振る。やった勝った、と喜んで清春の後ろから飛び出すと、伊吹は汐に思い切り蹴飛ばされた。
「いって!」
「あんたが悪い!」
「こればかりはフォローできないかなあ……」
「清春に同じ」
「清春、千洋ぉ」
えぇー、と千洋に泣きついた。清春はあてにならないと思ったからである。
「もう大工とかやろうかな」
「その方がいいかもね。肉体労働」
「バレーはいいの?」
「プロになれるほどうまくないのはわかってるから。でも趣味としては続けてぇ」
「一応そこは分かってるんだ」
そりゃあな、と返しつつバッグの中からバレーボールを取り出してくるくると回す。一度宙に放り投げてキャッチすると、少し考えてから清春に向かって軽くサーブを打った。驚いた清春はしかし綺麗にサーブを拾い、そのボールは伊吹に向かう。帰ってきたそれを汐の方へレシーブすると、来ると思った、と呆れた顔をしながら汐は千洋へとボールを返した。千洋は伊吹にボールを回し、それがまた清春へ繋がる。
元々四人とも、運動神経は悪い方ではない。伊吹に至っては現役運動部、清春も伊吹並みには運動が出来るし、汐だって運動はむしろ得意な類いだ。千洋は体力はある方だがすごく運動できるというタイプではないものの、中学の時から伊吹の自主練に他の二人と付き合っていたため、バレーはそれなりにできる。
「ねえ」
四人で何も喋らず、ただボール回しをしていると、不意に清春が口を開いた。声に驚いた千洋のレシーブがぶれ、少し遠くに飛んだボールを追って清春に返す。何、と短く問うた汐は、清春から回ってきたボールをレシーブすることなくキャッチすると、すっと清春に視線をやった。
「例えば明日?」
言葉の続きを発しない清春を見兼ねて、千洋がそっと言葉を紡いだ。少しばかり目を見開いて驚いた表情をした清春だったがすぐにそれを隠し、こくりと頷く。伊吹は汐からボールを受け取ると、すっと清春に視線を向けた。
二つ目の、たとえばあした。その例えばは、例えばでは済まなくなる。
この問いを、止めるべきかどうか、伊吹は悩んだ。過去二回の記憶。正確には違えど、根本的には同じやりとり。
「例えば明日、俺たちの誰かがいなくなったら?」
けれど伊吹が考えている間に、清春は静かに、その問いを口にした。千洋が視界の隅できゅっと眉を寄せるのが分かる。汐はその問いの意味を探るように、清春をじっと見つめていた。
一瞬にして変わった空気に、清春が苦笑を漏らすのを伊吹はただ眺める。「そんな気負わないでよ」清春はそう言って、伊吹に視線を向けた。清春には伊吹が一番なんともなさげに見えたからだ。
「……伊吹は?」
「お、れ?」
「他に誰がいるの」
間髪入れずに突っ込んだ汐に、表情を崩した千洋が笑う。いつものやりとりに思わず零れたらしい。
伊吹は重い気持ちを押し隠す。零すわけにはいかない、零したいわけじゃないのだ、伊吹は。さっきまでの他愛もない幸せが、逃げて行く気がする。チャンスボールが欲しいと願ったのも、三人を助けると決めたのも伊吹自身だ。
けれど助けるためにどうしたらいいのかが分からない。どうするべきなのかも分からない。
俺は、と落ちた言葉の先を迷う。汐も清春も千洋も、伊吹の言葉を待っているのが分かった。知りたいことは分からないのに知らなくてもいいことは分かる。その現実に悪態をつきながら、伊吹は普段は使わない頭をフル回転させて答えを捻り出した。
「……何とかして、助けるかな」
「死なせないってこと? それって質問の意味なくない?」
「伊吹らしいっちゃらしいけど」
なるほど、そういう風に取るか。
伊吹としては、遠回しに今の状況を話したつもりだった。もし興味を持ったら、話してもいいんじゃないかと思って。
だが、一般的に考えたら千洋と清春の考え方の方が正しいだろうし、妥当だ。時間を巻き戻したいと思うことはあっても、実際に巻き戻せるなんてこと考えもしないだろう。伊吹だってそんなこと考えもせずに、実際にはあり得ないだろうと思いながら、ただ助けたい一心で願っただけだったのだから。
「いいだろ別に。じゃあお前らはどうなんだよ」
「私は、……まあなんというか、考えたくない、かな」
「なんだよ千洋だって同じようなもんじゃねーか!」
「そうかもしれないけど今伊吹だっていいって言ったじゃん!」
「まあまあ二人とも落ち着いて」
「元はと言えば!」
「清春がこんなこと言い出したから!」
「ごめんそこ分ける必要性が感じられない」
ふっ、と汐が吹き出した声にふと思う。そういえば、今汐は何も言わなかった。どうしてだろう、一番最初に何か言ってきそうなものなのに、と頭の片隅で考えながらも、伊吹は意識を清春に向けた。
「で、そういう清春は?」
『一回目』、考えてみれば清春は自分の投げたこの問いに答えなかった。『二回目』、伊吹が泣いたせいで恐らく清春の答えは変わっている。だから清春の答えを、伊吹はちゃんと知らない。
質問を受けた清春が、そうだなあとのんびり言いながら空を見上げた。つられて真っ青な空を見て、嗚呼晴れていたんだ、と伊吹はなんとなしに思う。気にしてなんていなかった。ただ助けることだけを考えていた。
「俺は、多分後悔する」
「……後悔?」
「うん、後悔」
一拍おいて繰り返した千洋に、清春が頷いた。空から視線を外し今度は千洋に視線を当てる。
「もっと遊んでたらよかったなーとか、なんで助けられなかったんだろうとか、もっと何か出来たんじゃないかとか、こんな話しなければよかったなー、とか」
「じゃあしなきゃいいのに」
汐の、少しだけ尖った声がした。千洋ではなく、汐の。三人で汐を見遣ると強張った表情をしていて、汐越しに見える千洋は何かを言いかけたような顔をしている。
千洋も清春の言葉に反論しようとしたのだろう。けれど珍しく、先に攻撃を仕掛けたのは汐だ。そのお陰でぶつける先を失った千洋の言葉が空に消える。今までと少し汐の様子が違うのはどうしてだろうか、と伊吹は窺うように汐を見た。
「そんな、あくまで仮定の話だし。汐、なんかあった?」
「え、いや、ううん、ごめん。ちょっと思い出しただけ」
「思い出した、?」
言葉を掬い上げて繰り返すと、汐が苦い顔をした。清春と千洋は納得がいったように頷いてそっか、と言葉を落とす。分かっていないのは伊吹だけらしい。
「何思い出したんだよ」
「……伊吹は知らなくていいよ」
「そーかよ」
答えは、返ってこなかった。
不貞腐れて素っ気なく言葉を落とすと、清春が苦笑を漏らして伊吹の頭を撫でる。納得はいかないが、恐らく訊いてもはぐらかされるだけだろう。伊吹は見当をつけるとはあっと大きく溜め息を吐いた。
「肉まん食べようぜ。冷たくなっちゃうし」
唐突な伊吹の言葉に、汐と千洋の動きが止まる。伊吹の意図を汲み取った清春は「そうだね」と同意して、地面に置いてあったコンビニのビニール袋を探る。バレーボールをバッグの中に放り込んだ伊吹は、清春に触発されて買った肉まんに噛り付いた。少し、というより正直大分冷めていて、温かいというよりぬるい、という感じになってしまっている。
今度からは先に食べてから話をしよう、と考えて、ちらっと汐と千洋に意識を向けた。
「なんか、……うん、いいや。千洋、食べよ」
「そうだね」
呆れて何も言えない、という程を装って、汐が伊吹の提案に乗った。苦笑いを浮かべる千洋も、買っていたチョコを一粒口に含む。
伊吹には汐が少々無理をしているのが分かっていたが、特に何もできることはない。こういう時は放っておくのが一番だと分かっていたから、気にせずに冷たくなりかけても美味しい肉まんを頬張る。
食べながら、これからどうしようかと伊吹は思考を少し前に戻した。
恐らく『今日』は、この後流れで伊吹の家に行って勉強をすることになる。それで、いいのか。『今日』は別れて、『明日』について考えた方がいいのか、それとも『明日』を信じて『今日』は勉強をしておいた方がいいのか。
だが、この状況を言わずに何か他の理由をつけて三人と離れるのも、不安ではある。いつもと汐の様子が違ったのも気になる。出来れば三人と一緒にいたい。
自分のしたいようにしてみよう、と伊吹は心を決めた。一緒にいたいから、このまま家に呼ぶ。勉強は出来そうならするし、手につかなさそうだったらしない。『明日』のことについては、夜解散してから寝る前に考える。明日の授業を使ってもいい、
伊吹にとって緊急の非常事態だ。普段から授業をまともに受けた記憶は正直あまりないが、『明日』くらいは許してほしい。これからはちゃんと授業を聞こう。
「この後誰ん家行く?」
「伊吹ん家でいいでしょ」
「伊吹、いいでしょ?」
「むしろダメな時があったか?」
「ないね」
肉まんが包んであった袋を丸めてビニール袋に押し込み、口を縛る。手を伸ばしてきた千洋にそれを渡すと、伊吹はバッグを肩からかけた。他の三人が荷物をまとめ終わるのを待ってから、神社を出て伊吹の自宅へ向かう。
「あ、家着いたらまずは数学のテスト範囲教えてよ、伊吹」
「おう! 頼む清春!」
「たまには自分でなんとかしようとか考えないの? 考えないと思うけど」
「その通りなんだけどそう言われると腹立つ」
「なら自分で勉強するんだね」
「それは無理!」
即答し、何故かドヤ顔をした伊吹の頭を汐が叩いた。清春と千洋は苦笑。今のは伊吹が悪いと思われる。
わいわいと騒ぎながら家に着くと、慣れたように伊吹の部屋に上がっていった三人の背中を見送って、伊吹は母親に渡された飲み物を持って行く。一足先に着いていた三人は折り畳み式のテーブルを広げ、各々好きな場所に陣取っていた。
テーブルの真ん中にコップを置き、お盆はテーブルの下に入れる。空いていた場所に腰を下ろすと、伊吹はバッグを漁って数学のテスト範囲のプリントを出し、清春に渡した。それからまたバッグを漁ると今度はペンケースを探し出す。見つけたそれをテーブルの上に出すと、清春が伊吹、と名前を呼んだ。
「お?」
「この範囲なら問題ない。とりあえず、問題集は家にある?」
「……えーっと」
言い澱んだ伊吹に清春がにっこり、と綺麗な笑顔を作ってみせる。その裏に怒りを見て取った伊吹は慌ててバッグの中身をひっくり返すが、かといって学校のロッカーに置いたままにしてある記憶の大いにある数学の問題集が出てくるはずもない。
引きつった笑みで答えを返すと、清春は盛大な溜め息を吐いて自分の鞄から問題集を取り出した。幸いにして、文系も理系も使用している問題集は同じもの。もし違ったとしても千洋が持っているだろうが、そうなると千洋自身の勉強ができなくなってしまうためそれは避けたかった。
清春と汐は理系、伊吹と千洋が文系だ。清春は理系は勿論文系科目もそれなりにそつなくこなす。千洋は典型的な文系で、数学はあまり得意な方ではない。
だから清春は千洋に苦手科目である数学はしっかり勉強して欲しいのだ。特別頭がいいわけではないが、人に教えるくらいにはできる。だったら自分のものを貸した方がいい、と清春は思っている。
もっとも伊吹にそこまで考えている清春のことが伝わっているかは微妙だが。時々鋭いからな、と思いつつ、清春はページをめくる伊吹を見た。
「伊吹、三章からだよ」
「千洋さんきゅー!」
「範囲くらいちゃんと把握しときなよ」
「把握してたら次の日は雪かな」
「否定できないけど酷ぇ」
返しながら、伊吹はページをめくる手を止める。三章の文字が見えたためだ。半分は聞き流すように聞いていた授業の教師の言葉を思い出しながら、伊吹は問題集を解いていく。
時折手が止まるのは『明日』のことを考えているからではなく、純粋に問題がわからないだけ。この分ならなんとか勉強はできそうだ、と思った伊吹は完全に頭を切り替えた。とにかく勉強、である。
そうして一度集中してしまえば早い。長針が六と七の間を示しているのに気付いた千洋たちが帰るのを見送り、夕飯と風呂を済ませる。自室に引っ込んで勉強机に引っ張り出したルーズリーフを乗せた。一度大きな深呼吸をしてから、手に馴染んだシャープペンシルを握る。
日付は十一月の二十七日。時間は、そうだ午後三時四十九分。
『一回目』は居眠り運転による交通事故、死んだのは汐と清春。『二回目』は工事現場の足場の落下事故、死んだのは汐と清春と千洋。
『一回目』も『二回目』も、通った道は違う道だ。同じ道は通りたくない。ぶち当たるのは『二回目』と同じ壁。早く行くか遅く行くか、通らないかの三択。もう一本だけ、道がある。『一回目』も『二回目』も通らなかった道。
『明日』はその道を通ろう、と決めて、あまり書き込んでいないルーズリーフを千切ってゴミ箱に捨てた。この状況をループ、と呼ぶことにし、伊吹は勉強もそこそこに布団に潜り込む。
多分違う道を通ろう、と言えば、文句を言いながらも汐たちは着いてきてくれるだろう。
十一月二十七日、午後三時四十九分。
その時刻を乗り越えられれば、伊吹の勝ち。『明日』こそ絶対に、乗り越えてみせる。
翌十一月二十七日のロームルーム終了後の自販機前のベンチ。
一人、他の三人を待ちながら、伊吹はバッグの重さに辟易していた。流石に持って帰らないと、汐と清春に本格的に怒られる。
それを避けたいために詰め込んだ教科書や問題集の重さがずっしりと肩にかかった。『一回目』と『二回目』は教科書しか持って帰っていないため、問題集の重さが増えているのだ。
筋トレになるかな、と前向きな考え方を心がけていると、呼ばれた名前に伊吹は顔を上げた。
「伊吹、ごめん」
「いやそんな待ってねえし。あれ、汐は?」
「あれみんないる、ごめん!」
「あ、汐。遅かったね」
「担任に捕まって。伊吹、教科書とかは?」
「持った! たまには違う道帰ろうぜ」
「いいけど、どの道?」
「雀荘がある通り」
いいじゃんいいじゃん、と同意を示した汐の言葉に伊吹は内心で安心した。
時刻は、午後三時四十一分。残りはあと八分。
ぞろぞろと四人で歩き出し、何となく伊吹と汐、清春と千洋で前と後ろに分かれた。『一回目』と同じ並びだ、と気付いてどきっとするが、あの時と道が違うから、きっと大丈夫だ。
午後三時四十五分。
車通りは程々、人通りは少ない方だがゼロではない。ガードレールが車道と歩道の間に設置されていて、歩道沿いに工事現場があるわけでもない。
時計を見る。午後三時四十八分。
「伊吹、さっきから時間気にしてるけどどうかしたの?」
「いや、なんでもねえ」
時刻は、午後三時四十九分。
「そう? ならいいけど……」
声にならない悲鳴が聞こえた気がしたのは、その直後。振り返ると崩れ落ちるようにして倒れた清春、その隣で知らない男と対峙している千洋の脇腹から、何かが生えているのが見える。その周りに滲むのは赤、ふと視線を下げて足元に目をやると、夥しいくらいのなにかでてらてらと濡れて光っている。
知らない男が、千洋の腹から何か、を引き抜いた。瞬間溢れる赤色。力なく倒れ込んだ千洋には目もくれず、男は伊吹と汐向かって赤く染まった何かを突き出してくる。
通り魔だ、と思った時には、汐が男に向かって自身の鞄を思い切り放り投げていた。油断していたのかなんなのか、攻撃を食らった男は持っていた何かを取り落しよろめく。我に返った伊吹は男の顎をめがけてバッグをフルスイングすると、意識を失って倒れた男の手と足をテーピングでぐるぐる巻きにした。
「……い、ぶき」
「清春、ちひろっ」
「きゅ、きゅーしゃ」
「喋らないで清春。伊吹救急車!」
「千洋……?」
「伊吹!」
ぐったりとしたまま、千洋は返事を返してくれない。誰かの悲鳴と、救急車を呼ぶ声が、伊吹には遠く聞こえた。
意識のあった清春はまだ大丈夫だと踏んで、汐が千洋の傍に動く。汐がその横に座り込む伊吹に構わず、近くに落ちていた誰のか分からない鞄の中からタオルを取り出し、赤が流れ出す腹に押し当てるのを、伊吹はぼんやりと眺めていた。
赤が、止まらない。次から次へと溢れてきている。
「い、ぶき」
苦しげな清春の声に呼ばれて、やっと我に返った。辺りを見回して適当な鞄からタオルを取り出す。手を伸ばした清春にタオルを渡して一緒に止血をしながら、もう片手でアスファルトの道路に投げ出された千洋の手を握った。
「千洋、千洋」
『今日』もまたダメだったのか。でもまだわからない。まだ千洋は死んでいない。だって手は、まだこんなにも温かい。
『一回目』も『二回目』も、事故が起きてからすぐに意識を失っていた。だから、事故のその後というものを伊吹は知らなかった。それに今回の『三回目』は、事故ではなく事件だ。
救急車が来ても手を離さなかった伊吹は千洋と一緒に救急車に乗り込んだ。清春には汐がつく。意識のない千洋が心配だった。また助けられないのが、怖かった。
段々と冷たくなっていく千洋の手を、必死にさすった。モニターに刻まれる心拍数は、病院に近づくにつれてゆっくりになっていく。それでも、ひたすらに千洋の命を信じた。それしか伊吹にはできなかった。信じて名前を呼ぶことしか、できなかった。
病院に着いて、治療室へと運ばれる千洋の手が離れる。十一月も終わりに近い冷たい空気がふわりと伊吹の手を包み込んで、微かになってしまった千洋の温もりを逃さないようにぎゅっと手を握った。
立ち竦む伊吹の横を、追いかけるようにしてきていた清春を乗せたストレッチャーが走っていく。伊吹の横に、清春と同じ救急車に乗っていた汐が立った。
清春と千洋の血で染まったまま、伊吹も汐も何も言わずに閉じられた扉の前で立ち尽くすしかできなかった。
扉を一枚隔てた向こう側から、医者や看護師の怒鳴り声がする。時折出入りするスタッフの隙間から清春と千洋の姿を探す田、周りには医者や看護師が密集していて見えても手だけだったり足だけだったり。
伊吹も汐も座る気になれず、また血だらけのまま座るわけにもいかないと思って、ずっと立っていた。するとぱっと扉が開いて、清春を乗せたストレッチャーが通り過ぎていく。
行き先を尋ねるとオペ室、けれどより状態が酷いように見えた千洋はまだ治療室の中。それを尋ねる間もなく、清春を連れたスタッフは早々にオペ室に向かってしまう。
「……伊吹」
「俺、ここにいる」
「……じゃああたしが清春の方に行くから。伊吹、」
しっかりしてよ。
そう言って清春を追いかけていった汐の背中を見つめた。汐も辛いはずなのに、自分がこんなんだから負担をかけてる、と思う。だが、だからと言って立ち直ることも難しかった。
目の前で、襲われた。伊吹がしっかりと周りを気にしていれば、避けられたはずなのに。
あの時刻、午後三時四十九分に、何かが起きることは伊吹にとって予想できて当然のことであって、だとするならばもっと対策は立てられたはずだった。
安心、したのだ。
ガードレールが自分達と車道を隔てていたこと、周りに工事をしている場所がなかったこと。『一回目』と『二回目』が違う理由で死んだのだったら、『三回目』である今回だって何か他のことが起こったっておかしくはなかった。それなのに、伊吹はそこまで考えもしなかった。
どうしてあの並び順になってしまったのだろう。どうして、伊吹がせめて後ろにいなかったのだろう。
汐や千洋よりは伊吹と清春の方が体力はある。だから、もしかしたら、刺されたのが千洋ではなくて伊吹だったら、あるいは助かったのではないか。
弱気になってしまう。
ここで千洋がまた助からなかったら、伊吹は迷わずループする。それだけは譲らないし、譲ることはできない。誰かひとりでも欠けてしまってはダメで、四人で揃って笑いあえる日が来るまで伊吹はループを続けるつもりでいる。
けれど、自分にそれができるだろうか。
伊吹はバカだ。それは自覚しているし、自覚するくらいにはバカだ。運動面は恵まれているが、勉強面に関してはからっきしである。
そんな自分が、ちゃんと四人で笑いあえる『明日』を迎えることができるのか。誰ひとり欠けることの無い『明日』を、間違えることなく選び取ることができるのか。
例えば汐なら、きっと何とかして考えて、もしぎりぎりだったとしてもハッピーエンドな『明日』を贈ってくれる。例えば清春なら、伊吹達の中で一番回転の速い頭でしっかり筋道を立てて考えて、危なげなく『明日』を導いてくれる。例えば千洋なら、人一倍優しい心を痛めながらも試行錯誤をして、優しい『明日』を見出してくれる。
では、自分は。いぶきは、どうすればいいのだろう。
汐のように土壇場でもなんとか出来る力があるわけでもなく、清春のように筋道を立てて考えることができるわけでもなく、千洋のように試行錯誤できる頭があるわけでもない。運動神経の良さでなんとかなる問題ならもう何とかなっている。
誰よりも何よりも、伊吹には自分が一番頼りなくて心細かった。
治療室の扉が開く。出てくる医者に駆け寄る。その後ろから千洋がストレッチャーに乗せられたまま出てきて、清春と同じ方向に向かっていった。刺された辺りから医者の手が伸びていて、何かを隠すように白いタオルがかけられている。
千洋、と叫んだ伊吹の声は届かない。
腕に繋がる何本もの管、看護師が吊り下げている点滴のパックと輸血のパック、足元にセットされている小さなモニターにはゆっくりな波形が示されていて、まだ千洋の命が尽きていないことを表している。
案の定オペ室に向かった千洋を追って、伊吹もオペ室に向かう。その前に立っているのは汐で、伊吹が来たことに気付くとぎこちない笑みを作ろうとして失敗する。
清春は、まだ終わっていないらしい。
扉の向こうに吸い込まれるようにしていった千洋に伸ばす手は届かない。どこにやればいいのか分からなくなった手は、汐が握った。お互いの体温に安心し、堅く閉ざされた扉を見つめる。
「……伊吹」
汐が名前を零した。それに応えることなく、伊吹はただひたすらかみさまに祈る。汐も返事を求めていたわけではないから、繋いだ手に力を込めてぎゅっと目を瞑っていた。
一時的に清春の意識が戻ったのは、伊吹と汐が学校をサボって清春と千洋についていた、翌日の朝十時半のことだった。
それでもただ単純に意識が浮上したに過ぎず、医者を呼ぶ間もなくすとんと眠りに落ちてしまう。その隣のベッド、機械と管に埋もれて眠る千洋の状態はお世辞にも安定しているとは言えず、夜中も何回もモニターが警告音を鳴らしていた。
オペが終わった後、ICUに入れられた二人をガラス越しに見つつ、伊吹と汐は四人の両親と対面した。清春と千洋の両親に謝り倒し、持ってきてもらった服に着替えて警察に話をして、気付いたらもう夜も遅くなっていた。帰る気はなかったからこれ幸いと汐と二人居残ることを決めた。
気を使ってくれたのか、病院のスタッフは追い出すようなことはせず、寧ろ毛布を貸してくれたりペットボトルのお茶をくれたりと、比較的好意的に接してくれた。両親はICUの前に齧りつく伊吹と汐を無理やり連れ帰ることはしなかったから、二人は家に帰っていない。
恐らく帰っても眠れなかったと、伊吹はいつもより回転の遅い頭で考えた。あの光景が、嫌というほど目に焼き付いている。それは汐も一緒で、例え二人の意識がなかろうと四人でいなければ気が狂ってしまいそうだった。
朝、日勤のスタッフが出勤してから部屋を移され、伊吹と汐は漸く触れられるようになった二人の身体にずっと触れていた。様子を見に着た清春と千洋の両親がおにぎりをくれたが食べる気になれず、せめてと渡されたゼリー飲料を何とか腹に収める。
あとはひたすらに無言。何かを話す雰囲気には、なれなかった。
果たして、もう一度あの神社に行かなければならなくなるだろうか。
多分行くことになる、と伊吹は千洋の手を握りながら考えていた。千洋がICUから出られる状態じゃないことは、何となく理解していた。それなのに、こうして清春と同室になっている。それに、看護師の話を偶々聞いてしまっていた。
千洋は助からない。だからせめて、最期は四人で。
四人が幼馴染だということを知った医者が、汐と清春を同室にして、四人で一緒にいられるように計らってくれたのだ。汐はそれを知らないが、恐らく聡い汐のことだ、何かしら察してはいるだろう。伊吹ですら清春と同室になったことに疑問を感じていたのだ。汐に分からないはずがない。
窓越しに空に視線を向ける。空は白を刷いた灰色。はっきりしないその色にもやもやとした気分を覚えた。こういう時間が一番嫌いだ、と思った時だった。
千洋のモニターから警告音が鳴り響いて、それまで表面上穏やかに流れていた時間が終わったことを、実感した。
ナースコールを押す間もなくからからとドアを開けて医者や看護師が入ってきて、その後ろから泣きそうな千洋の母親とその肩を支える父親の姿も見える。千洋の手を握っていた伊吹は看護師から押し退けられるようにその手を離され、その場に立ち尽くした。
隣に立った汐が自身の手を握り締めた伊吹の手を包む。その手に段々力が入って言って、けれど伊吹は泣き言ひとつ言わない。
もう既にたくさんの機械や管に囲まれている千洋が、もっとたくさんのそれらに囲まれていくのを、見ているしかなかった。あくまで伊吹達は幼馴染で、千洋の治療方針に口出しはできても決定権はない。そもそも伊吹も汐も、口出しできるほど頭が回っていなかった。
「もうっ」
堪えきれなくなったのか、そう声を漏らした母親に聞くともなしに耳を傾ける。言葉の先を言うことなく崩れ落ちた母親の言葉を、父親が引き継いだ。
「もう、やめてあげてください」
静かなのに、痛かった。悲痛な叫び。やりきれなさそうに、医者が動きを止める。汐が飛び出そうとするのを、伊吹は身体を張って止めた。
清春はまだ、目を覚まさない。
それでいい。唇の端をぎゅっと強く噛みしめ、伊吹は握る手に力を込めた。
千洋の心臓が止まって、医者が死亡を告げると同時に伊吹は病室を飛び出す。廊下には清春の両親も、仕事に行っていたはずの伊吹と汐の両親までもが揃っていたけれど、その間をすり抜けて走った。誰も追ってこないのをいいことに、看護師の制止する声を無視して出口まで走る。
『二回目』である前回は、自分が怪我をしていたのもあってタクシーを使った。だが今は怪我はしていない。お金もないしタクシーを捕まえることが面倒で、伊吹は病院を出るとその足で神社を目指した。
誰かの『死』と、ちゃんと向き合ったのは今回が初めてだ。傍から見たら冷静に見えるかもしれない、けれど内心酷く動揺している。
モニターの警告音と千洋の心拍を刻む音が、頭からずっと離れなかった。もう嫌だと叫んでしまいたい。でもそんな場合ではない。
また繰り返す。そして絶対に、誰ひとりとして欠けない未来を見つけ出す。
冷静に見えるのは、多分やることがひとつしかないと分かっているからだ。
気力だけで神社まで辿り着いた。敷地に入るなり地面に倒れ込んで咳き込みつつ、息を整えようと躍起になる。
大丈夫、大丈夫だ。今度こそ、やれる。
――――だから、かみさま。
また助けてくれよ。何度だって頑張る、だからかみさま、もう一度。
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