第36話 そろそろ俺はイチャイチャしたい②

※割と強めの性的表現があるので、苦手な方はご注意ください




「ふぇっ!? んぐっ!?」


 彼女の頭を片手で押さえ、口の中に舌をねじ込む。

 ティアラの琥珀色の瞳が驚愕で見開かれるのを確認しながら、舌で歯列をなぞり、口の中を蹂躙じゅうりんする。


「――んっ」


 ティアラが洩らした短い吐息は、俺の鼓膜を震わせ、激しい衝動を胸の奥から突き上がらせる。


 俺は彼女の口を激しく貪り食いながら、唾液を流し込んだ。

 こくり、とティアラの喉が鳴った瞬間、俺の一部が彼女の中に入ったという歓喜が、全身を走り抜ける。


 俺はまたその感覚を味わいたくて、彼女の中へ唾液を送り込み続けた。

 何度も、何度も。


 やがて息苦しくなってきたのか、ティアラが身体を少し捩り始める。

 だがその姿を見て、俺の中に秘められていたサド魂に火が付いた。


 俺はやめることなく、さらに彼女の口腔を激しく攻め続ける。


「ん……んんんっ!」


 突然、ティアラが勢い良く首を横に振った。

 俺の舌は、あえなくティアラの中から引き剥がされてしまう。互いの口からは、銀の筋が糸を引いていた。


 彼女は肩と濡れた口で荒い呼吸を繰り返しながら、涙目で俺を見つめる。

 どうやら本当に苦しかったらしい。


「窒息、しちゃうかと、思ったよ……」


 まだ整わない息で何とか声を出したティアラは、そこで頬をぷくっと膨らませてむくれる。


 何この可愛いすぎる生き物。

 これは国が総力を上げて保護するべきだな!


 ……いや、よく考えたらそれもう実行してたわ。俺を含め。


「……ごめん」


 くだらない考えはさておき、とりあえずここは素直に謝っておこう。


 俺を責めるような表情をしていたティアラだったが、その謝罪の言葉の聞いた途端、仕方ないなぁという心情が読み取れる微笑へと変わった。


 その表情の変化に、俺の心臓がきゅんと鳴る。

 ティアラの手首を押さえつけていた俺の手は、彼女の胸元へ。


 片手にすっぽりと収まるなだらかな丘を優しく掴み、ゆっくりと、でも激しく揉みしだく。


「やっ――。んっ……」


 可愛らしい嬌声が俺の下腹部を刺激し、熱くさせる。

 彼女も気付いているはずだ。太腿に押し付けられている感触に――。


 本来なら、この小さな胸をもっと愛撫するべきなのだろう。

 だが、二ヶ月も待たされた俺はもう色々と限界がきていて、はやる気持ちを押さえることができなくなっていた。


 俺の手は胸から腹へ、腹から太腿へするすると移動していく。

 そして薄いワンピースの裾まで辿り付くと、その裾を一気に腰まで捲り上げた。


 レースの重なった白色の愛らしい下着があらわになり、ティアラの顔がまた朱に染まる。


「あっ――。み、見ないで……」

「やだ」


 今の俺の顔は、凄く意地の悪いものになっているだろう。

 Sっ気たっぷりのその表情にティアラがどん引くのではと少し怖くなったので、俺は顔を隠すように慌てて彼女の口を塞いだ。


 様々な角度から彼女の唇を優しく噛みつつ、下着の上から秘部に指を這わせる。

 直後、ピクリとティアラの全身が跳ね、指に湿り気を感じ取った。


 ……いける。

 彼女の反応を確かめた俺は、いよいよ秘部を守る(というには頼りなさすぎる)薄い下着の上部に指をかけた。


 苦節二ヶ月。ついに、やっと、ようやく――。


 夢にまで見た瞬間を目の前にして、俺の心臓は笑えるほど早鐘を鳴らしていた。


 情けないことに手が少し震え始めるが、ゆっくりと、でも確実に下着を下にずらしていく。

 そしてもう片方の手で自分のベルトを緩め――――。


 そこで突然空気の流れを感じた俺は、勢い良く扉へと顔を向ける。


 そして――――――目が、合った。


 昼過ぎに帰ってくるはずの、金髪の侍女と。


「……………………」

「あっ……。えーと、その……。お、お邪魔しました……」


 ――――――パタム。


 静かに閉められた扉を、俺はしばらく呆然と眺める。

 ティアラは潤んだ瞳のまま両手を胸の前でぎゅっと組んで、はわわわと変な声を洩らしていた。


 やがて波が引くように、俺の頭の中はみるみるうちに冷静になっていく。下腹部に集まっていた血もさようなら状態だ。


 今俺達が見られてしまった光景が、今後の生活にどのような影響を与えるか――を瞬時に予測した俺は、即座に緩めたベルトを締めなおし、ティアラを置いて超速度で部屋を飛び出した。


 今はとにかく、あの侍女をシメる。

 何が何でも口外させてはならない。


 あいつは俺達の関係を知っているし今まで誰にも洩らしてはいないのだが、念には念を、だ。

 それに何か前にもあいつに邪魔された気がするし、とにかく八つ当たりさせろ!


「ちょっと待てやタニヤアアアアアアアア!」

「ひぃっ!?」


 凄い形相と速度で廊下を疾走してきた俺に、タニヤは振り向きざま悲鳴を上げて硬直した。


 俺は壁際にタニヤを追い込み、彼女の顔の横に両手をダンッ! と付いて睨みつける。

 逃げ出さないように片足も壁に掛ける。人間製の檻といったところか。


 傍目から見たら俺はすげー変な格好をしているだろうが、今はそんなことはどうでもいい。


「ごっ、ごめんって! 邪魔するつもりはなかったんだって!」

「本当かよ!? そもそもお前、帰ってくるのは昼過ぎって言ってたろーが!? 早すぎんだろ!?」


「葬儀の片付けもほとんど終わったし、それに私は会ったことのない親戚だったから故人について別に話すこともなかったし、早く帰ってきたのよ!」


 タニヤは絶叫しながら早口でまくし立てた。

 丁度その時、通りかかった食堂の従業員らしき男が、何事かと俺達を一べつしながら歩いて行く。


廊下ここじゃ目立つから、とにかく戻るぞ」

「…………」


 俺はタニヤの首根っこを捕まえ、ズルズルと引き摺りながらティアラの部屋へ戻るのだった。






「いや、でも最初に部屋に入ったのが陛下や大臣じゃなくて、私で良かったんじゃない? 鍵も掛けずにラブるなんて何考えてんのよ」

「ぐっ……」


 さて、どんな文句でタニヤを攻め立ててやろうかと思っていたのだが……。


 俺が文句を言うより一瞬早く、タニヤが先制パンチをくらわせてきた。

 その口撃こうげきに、俺は思わず呻き声を洩らしてしまう。


 ちなみに今俺達は、ティアラの部屋の寝室で声を潜めながらこのやり取りをしている。

 ティアラが勉強のため、熱心に本を読み始めたからだ。


 まぁ、確かにタニヤの言うことはもっともで、俺に反論の余地はない。

 浮かれすぎてそこまで考えが及んでいなかったことについては、俺も大いに反省しなければならないだろう。


 ――が、それはそれ、これはこれだ。


 俺は頭の中にずっとあった、ある疑問をタニヤに率直にぶつける。


「お前こそ、どうしてノックしなかったんだ」

「あ…………」


 あ、じゃねーよ! やっぱこいつ――!


「いや……。まさかこんな朝からいたしてたとは、夢にも思っておらず――」

「関係ねーだろ。ティアラの部屋に入る前には、絶対ノックをするだろお前」

「…………」


 しばらくわざとらしく目を泳がせていた金髪侍女だったが、俺が軽くおでこにチョップをくらわせた事で観念したらしい。

 小さく息を吐きながら、彼女は口を開いた。


「……ごめん。最初は聞くだけのつもりだったんだけど、姫様が身悶えている可愛らしいお姿を、どうしても見たくなっちゃいました。えへっ♪」


 そこでタニヤは自分のひたいをピシリ! と叩いた。


「いやー、我慢できなくてすいやせん兄貴」みたいな表情をして誤魔化そうとしても無駄だ!

 可愛らしく舌を出しても俺は騙されない!


「見ただけじゃなくて、最初から聞き耳を立てていたってことだよな、それ!?」

「本当にごめんって。反省してるからさー」


 うわっ。言い方が嘘くせー。絶対反省してないなこいつ……。


 もう怒りやら呆れるやら恥ずかしいやらで、俺は頬とこめかみをヒクヒクと痙攣させることしかできない。


「それはそうと、アレクはどうしたの?」

「今日は調子悪くて寝込んでる……」

「あぁ、なるほど。それで……」


 タニヤはそこで腕を組むと、神妙な面持ちでポツリと呟いた。


「欲求不満だったのなら、私達に教えてくれれば良かったのに」

「んなこと言えるか!」


「そもそもとっくに夜這い済みだと思ってたんだけど……。マティウス君て、割とそういうことはガツガツいきそうなタイプだし」


「夜は見張りの兵士が廊下をぐるぐるぐるぐると鬱陶しいほど巡回しているから、無理だったんだよ……」


 憮然としながら俺は答える。

 この城の厳重な警備体制が、俺には恨めしかった。


「あぁ。やっぱり一応実行しようとはしたのね」


 頬に手を当てながらしみじみとタニヤは言った。


 っつーか何でお前は俺の行動をそんなに予測しているんだ。母親か。


「でも本当、私もアレクも協力してあげるわよ? 私、姫様には今のうちに目一杯幸せを堪能してほしいと、本気で思ってるもの」

「…………」


 タニヤの『今のうちに』という言葉に、俺の胸が嫌な音を立てて軋む。


 そう、俺にとってティアラはただの可愛い女の子だが、いずれ彼女は女王としてこの国を治めなければならない。

 そうなると当然、自由な時間というのはほぼ無くなってしまうだろう。


 そして恐らく、貴族か何処かの国の王子やらを婿に迎えなければならなくなる……。


 政略結婚とはいえ、男の方は清楚で可憐なティアラを愛さずにはいられなくなるだろう。

 そして心優しいティアラは、その男の心に精一杯応えようとするはずだ。


 俺以外の男にティアラの愛情が向けられる未来を想像すると、胸を掻き毟りたくなるほど苦しくなる。

 嫉妬で体中の内臓が沸騰してしまいそうだ。


 だが今はまだその『未来』ではない。

 彼女との幸せな未来は約束されていないも同然だが、それでも俺は――。


 と、気付いたらタニヤが俺の目の前で「おーい?」と手をひらひらさせていた。


 どうやら俺は思慮の迷宮に入り込んでボーッとしていたらしい。

 まぁ、それについては考えてもどうにかなるわけじゃないし、今は強引に忘れよう。


「というわけで、これからは相談してよねー? 姫様って凄く恥ずかしがりだけど、君と一緒にいる時はまんざらでもなさそうだしさ。私もアレクも姫様の幸せな顔が見たいんだから」


「いや、でも……」


 ムラムラするからお前ら協力してくれ、なんて言えるわけねーだろうが!

 同性ならまだしも、それを女性二人に申告せにゃならんとかどんな罰ゲームだよ!?


 そもそもお前らに言ったら絶対に覗いてくるだろーが。

 俺はそんなプレイに興ずるつもりはこれっぽっちも無い!


 ――と声を大にして言いたかったのだが、タニヤの目から『ティアラのために』という本気を感じ取っていた俺は、不本意だがこの場で首を縦に振らざるをえなかった。


「わ、わかったよ……」

「よしよし。男も女も素直が一番!」


 いや、性欲に素直な男が一番ってことはないだろ……と一応心の中でツッコんでみる。


 俺の返答に満足したタニヤは、そこでポケットから小瓶を取り出し、それを強引に俺の手に握らせてきた。

 小瓶の中には、白い小さな錠剤らしき物が沢山詰められている。


「さて。それじゃあ私はアレクの容態を見に行くわね」

「え……。ちょっと待て。何だよこれ?」


「お土産の『できない薬』。私の実家、薬屋だから」

「――――!」


 こういうことはちゃんとしとかないとねーと、タニヤはにまりと笑い、熱心に読書を続けるティアラに礼をして、部屋を出て行った。


 ………………。

 まぁ、色々と邪魔もされるけど、なんだかんだで結局あいつは、俺を応援してくれているってことか。そして、アレクも。

 ………………。


 俺は小瓶をジャケットの中にしまってから、ティアラに気付かれないように気配を消して扉の前に移動する。

 そして、音を立てないようにそっと鍵を掛けた。


 これで外からは、誰もこの部屋に入ることはできなくなった。


「……ティアラ」


 彼女の名を呼ぶと、本から顔を上げたティアラが「なに?」と不思議そうに見返してきた。


 俺は静かに彼女の元へ歩み寄るとその両脇に手を滑り込ませ、小さな身体を強引に椅子から持ち上げる。


「なっ!? えっ!?」

「さっきの、続き」


 俺に持ち上げられたまま狼狽ろうばいする彼女に、俺は満面の笑みを向けたのだった。

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