第六章ノ序 国家権力

 ラピナの国は「商議会」、「農議会」、それを束ねる「貴族議会」、と「軍議会」、最終決定を下す「大四司議会」で政治が成り立っている。

 大四司とは、風の司、水の司、火の司、大地の司の四人であり、この四司が合意すれば直属の、「光暁の賢者」と「闇夜の賢者」の力を行使することができる。

 魔術六元素、風、水、火、大地、そして光と闇。それぞれ魔力で頂点に立つ者が、国家権力の頂点でもある。

 通常は貴族議会と軍議会で国内外の政治的な決定は事足りるため、この六人は政治の表舞台には現れない。

 しかし、ここ数ヶ月の間、内密に大四司は頻繁に会議を開いていた。

 ラピナの首都カルヤラの中心に、大四司議会堂がある。四つの尖塔の中心にドーム型の大きな建物があり、その最上階で会議は秘密裏に開かれていた。


火の司「風よ、霊を逃したとな」

風の司「……じきに捕える」

火の司「大地よ、そなたも」

大地の司「霊の力はまだ弱い。焦りは禁物だ」

火の司「水よ」

水の司「霊の捕獲より、破壊の使についての探索が先だ」

風の司「サヘリア家の保護にあるトラピスタリアの少年は」

大地の司「幼年科の魔術も使えぬそうだ。使とは思えん」

火の司「破壊の使、その探索は闇夜に任せればよい」

水の司「火よ、そなたは霊を既に手の内に収めたも同然。闇夜に手を貸してはどうだ」

火の司「闇夜、あれは単独を好む。任せておけばよい。それよりも破壊の使が現れる前に我等の力を堅固にするべきだ。千年に一度の大役、しくじることがあってはならぬ」

水の司「東国ティクリートの動きを軍は正確に把握しているのか」

風の司「我等の正義を貫くには、ティクリートよりも先にトラピスタリアを抑えねばならん」

大地の司「ウルファ平原へ光暁を向かわせてはどうなのだ」

火の司「今はまだその時ではない。世界の均衡を脅かす破壊の使を、正義の鉄槌で倒すべく、我等の霊による力を……」

 静かにではあるが、四人の老人は目を合せることなく、互いを牽制し、合意には至らない。

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