第25話
アキ子は自分の部屋に帰ると、鞄を学習机の上に置き、すぐさま自身の身体をベッドで休めることにした。おじさんは、今日は特に疲れたのか、すぐさま地べたに腰を下ろした。
「ほんまあんだけ悩んでマクドって何よ?」アキ子はかなり不機嫌そうに言った。
おじさんはお腹を震わせながら、「あれはないな」と笑った。
そう、結局昆虫は散々お店選びに並んだ挙句、天王寺駅北口近くのマクドナルドで昼食をとることにしたのだ。
アキ子は歩き疲れていたこともあり、すんなりマクドナルドでランチをすること了承した。しかし、かなり不本意ではあったようだったが。
「しかも、結局昆虫は全然しゃべらんから手がかりつかめへんし、うち普通に昆虫とマクドでランチしただけやん」アキ子は言い放った。
おじさんはケタケタと笑いながら、「そうやな」と応えた。
「ちょっと、笑っている場合じゃないで。うちほんまにムカついたからビッグマックセットにマックシェイクとアップルパイ二個付けてやったわ」
「でも、『付けてやったわ』って言っても別に奢りとかじゃないもんな」おじさんはさらにケタケタと笑った。
「ほんまやで。あれ始めから別会計の気持ちで店入ったよな?」
「ああ、昆虫はその辺は始めからお前に奢る気とかさらさらなかったな」
「しかも、何が『あっちゃん、俺のナゲットひとついる?バーベキューソースやけど』なんよ。頭おかしいちゃう?あれで好感度上げようとしてんの?」
「あはは、あれもなかなか酷かったな」
「今時、ナゲットなんかにつられて好きになる女子とかおらんで」アキ子は力強く言った。
「昆虫の考えていることは良く分からんな。もしお前に気があったらもっとええ店にするやろうし、そういうわけでもないんかな」おじさんは首を捻った。
「あいつ、うちのことを安い女やと思って、弄ぼうとしているんやわ」
「なんでやねん。弄ぶってほどのことされてないやろ。ほんまお前は自意識過剰やな」おじさんはすっかり呆れかえったようだった。
「ちょっと、やめてもらえる?あんな個人的にデート誘ってきてるんやからうちに気があるに決まってるやん。自意識過剰なはずないやん」アキ子は主張した。
「まあええわ。好きに思ってくれれば、お前も誰かに好かれることぐらいあったんやな」とおじさんは言い、一人で何度も必要以上に頷いた。
「ちょっと、またうちのことバカにした。うちだって誰かに好かれたことぐらいあるわ」とアキ子は勢いに任せて言ってみたが、デートを誘われるほど、しっかりした形で異性から好意をもらったことははじめてだったことに気がついてしまった。
おじさんは「マジが?デートとか今までお前は男から誘われたことあったんか?」と純粋な目をして尋ねた。
「ま、うちもそれぐらいはあるわ。ええやんうちの話は」アキ子ははぐらかすように応えた。
アキ子は話の流れがよくないような気がしたので、思い出したかのように真犯人のことについて話題を移した。
「あ、そうや。結局田辺以外に人おらんかったんやんな?」
「そうやな。全然、怪しいやつはおらんかったな」おじさんは当時の様子を思い出しながら首を傾げた。
「それってあんたがちゃんと見てなかっただけちゃうん?結構あべのハルカスに可愛い娘もおったし」アキ子が疑いの目を向けた。
「なんでやねん。しっかり犯人探ししてたわ」おじさんはばつの悪そうな表情で応えた。最もおじさんは可愛い娘のチェックもしっかりしていたので満更アキ子の言っていることが外れているわけでもなかった。
さらに続けて「でも、こうなると怪しいのはあの場所にいた田辺ぐらいか」とおじさんが言うと、アキ子も腕組みをして考え込んだ。
「あの田辺がな」
「ちょっと、うち信じられへんわ。だってうちらのこと観察している感じでもなかったんやろ?」
「ああ、もちろん。あいつは自分自身のことで精一杯やったからな。プレゼント選びかなんか知らんけど」
「田辺がうちら怪しんでいることがに気づいて、そういう演技をしていた可能性は?」アキ子は訪ねた。
「それは流石にないやろ?あいつ俺の姿見えへんねんぞ。しかも財布と携帯パクったときにも反応ゼロやったぞ」
「そうやんな。ほんままた捜査はふりだしやわ」とアキ子が肩を落とすと、おじさんは「ふりだしも何もなんも始まってないぞ」と瞬時に返した。
「確かになんも始まってないな。ほんまデートし損やで。結局なんの情報もなしや」
「でも、これからどうするよ?俺ら以外にタイムトラベルしてるやつなんてほんまにいるんか?」おじさんは諦めた表情で尋ねた。
「ちょっと、うちに聞かんといてよ。タイムトラベル事情に関してはどっちかって言うとあんたの方が詳しいやろ」
二人で考え込んでいると、アキ子のスマホにラインの通知が表示された。
「うあ、昆虫からやわ」とアキ子は画面を確認するとすぐに吐き捨てるように言った。
「で、なんてきたんや?」とおじさんが尋ねると、アキ子は阿修羅のような顔でスマホをおじさんに渡した。おじさんは笑いながらスマホを受け取り画面に目を向けた。
お疲れ様です!
さっきはありがとう!
また、来週末にでもご飯に一緒に行けますか?
「うあ、すごいやんけ。お前」
「ほんま怒りを通り過ぎて、呆れかえっているわ」
「でも、昆虫は割とマジでお前のこと気に入っているみたいやな」おじさんはやや興奮気味に言った。
「そんな昆虫よりも犯人探しの方が大事やで。うちもうデートとかしいひんし」アキ子はぶっきらぼうに応えた。
「そうか、勿体無いな。せっかく彼氏できそうやのにな」
「ちょっと、なんでうちが昆虫なんかと付き合わんとあかんのよ」アキ子は語気を強めた。
アキ子は怒りのあまり帰り道にコンビニで買ったジンジャエールを鞄から取り出し一気に飲み干した。
「はあー、ほんまやってられへん。犯人はどこにいるんよ」アキ子はため息混じりに言った。
「もうさあ、めんどくさいから昆虫に直接聞いてみたら?もしかしたらなんか知っているかもしれんぞ」おじさんは、アキ子の学習机の一番下の引き出しから、ポテトチップスを取り出しながら言った。
「ちょっと、何他人のポテチ食べようとしてんのよ」アキ子は凄い目力でおじさんを睨んだが、おじさんはいつものことなのであまり動じることもなく、ポテトチップスの袋を開け、一枚口に入れるとアキ子にもポテトチップスの袋を向け、食べるよう進めた。
アキ子は「もらうわ」と素直にポテトチップスを食べた。
「でも、昆虫なんかに聞いて大変なことになったらどうすんのよ。真犯人の思う壺なんちゃうん?」アキ子は素直に疑問を口にした。
「いや。もういざとなったら過去に戻ってどうにかしよう。昆虫に聞いたあとソッコーで過去に帰れる準備しておけば大丈夫やろ」おじさんはやや楽天的な意見を述べた。
「そんな対策で大丈夫かなあ」とアキ子は呟いたが、アキ子自身も他に良い策を思いつかなかったため、おじさんの提案に乗るしかないかと考え始めていた。
「わかった。うち昆虫ともう一回ご飯に行ってみるわ。それで思いっきり問い詰めてやる」アキ子は力強く言い放った。
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