第22話
「ジャン、ジャン、ワン、ツー、スリー、フォー!」アキ子はテレビから流れるAKB48のヘビーローテーションのPVに合わせて歌い、踊っている。
「アイ・ウオンチュ~アイ・ニージュ~」と、アキ子は熱唱し上機嫌ではしゃいでいるのだった。アキ子の部屋全体がまるで揺れているようで、それがまたアキ子のテンションの高さを表していた。
「マックス~ハイテンション~」というフレーズと共にアキ子はAKBの如く両手をあげて左右に小刻みに動いた。
振り付けも歌詞も完璧に覚えており、本人いわくいつでもAKBに入ることは可能のようだ。
おじさんはチェダーチーズ味のポップコーンを食べながら、その様子を温かく、そして呆然と見守っていた。
「ヘビーローテーション~」と大島優子がテレビの画面上で鍵穴から顔を覗かせると、アキ子もそれに合わせ、彼女と同じポージングをとった。
いつもおじさんは最後のこの部分で若干の吐き気を覚えるが、なんとか堪え、ポップコーンを飲みこんだ。
「やっぱり、優子ちゃん、可愛いわ」アキ子は大島優子のことをいつも通り褒めちぎった。
おじさんはポップコーンを慌てて飲みこんだせいで若干の違和感を喉に覚えた。そのためペットボトルのコーラを一気に喉に流し込んだ。
「ゲッフ」おじさんはげっぷをし、なんとか落ち着いたようだった。
「ちょっと、あんたうちが機嫌よく歌って踊っているのに、げっぷとかやめてもらえる」アキ子はまるで肉食動物のように睨みを利かせ吠えた。
「すまん、すまん、ただ、流石にきついぞあれは」おじさんはまだげっぷを完全に抑えきれない様子であった。
「ちょっと、何がきついんよ!」アキ子は声を荒げた。
「いや~」とおじさんが言葉を濁し戸惑っていると、アキ子のスマホが震える音が聞こえた。
「おい、ケータイなっとるんとちゃうか?」
「あっ、ほんまや」アキ子は学習机の上にあるスマホを手にし、通知を確認した。
おつかれさまです!
アキ子さん、昨日はありがとうございました☆
アキ子さんはキャラも面白いし、お話していて楽しかったです!
これからもよろしくお願いします!!
また、ご飯とか行ければいいですね♪
「ちょっと、どうなっているんよ」アキ子は目を見開き、おじさんに啓太から来たメッセージを見せた。
「おう、なんやなんか問題か?」おじさんはメッセージを読んだ。
「『おう、なんやなんか問題か?』じゃないやん!前と全然変わってないやん」アキ子はさらに勢いを増して応えた。
「お前、どんな風になることを期待しててん?」おじさんは思わずあきれ顔になった。
「あんだけ楽しい感じやったし、しまちゃんの妨害も乗り越えたんやから、もっと具体的にご飯とか誘ってきてもいいやん。『また、ご飯とか行ければいいですね♪』じゃなくて、いついつ行きましょうやん」アキ子は目に力を込め主張した。
「それは流石に難しいんとちゃうか?」おじさんは鼻で笑った。
「ちょっと、うちのことバカにしんといてもらえる」
おじさんが小バカにしたように笑ったのでアキ子のマックスハイテンションはいつの間にか怒りの方へ向きを変えた。
「あー、ほんまあんたの言う通りにしても別にモテへんやん」アキ子は引き続きおじさんを責め続けた。
「お前さあ、そうやって自分がモテへんのを他人のせいばっかりにしているから、なんの進歩もないんやろ?大体お前、他人の何倍人生やってきてんねん」
アキ子は痛いところを突かれたせいで、少し顔が歪んだ。
「ふん、もうええわ」アキ子がおじさんから視線を外し横に向くと、またしてもスマホに通知が入った。
アキ子はベッドの上に置いてあったスマホを荒々しく取り、通知を確認した。
お疲れ様です。
最近、あっちゃんって彼氏できたん?
「ちょっと、次はなんなんよ。昆虫からなんでラインなんかくるんよ」アキ子は今にもスマホの画面が割れそうな勢いでメッセージを睨み付けた。
「はあ、次はなんやねん。いちいち騒がしいやつやな」おじさんは頭をポリポリと掻いた。
「ちょっと、これ見てみいよ」アキ子はおじさんにスマホを手渡した。
おじさんはスマホの画面を見ながら少し考え込み、真剣な眼差しで語り始めた。
「なんか今回の時間軸は割と大きな変更点が発生したみたいやな」
「ちょっと、どういうことよ?」
「俺も具体的な原因はまだわからへんけど、お前はこの街コンを3回繰り返したやろ?前の2回は少なくとも昆虫からメッセージはきてへんな?」
「うん、来てたら今みたいに騒いでるに決まっているやん」アキ子はなぜが胸を張って応えた。
「おう、そうやな。でも、今回は違う。お前が変えた行動によって、昆虫からメールが来るという結果が生じたようや。ただ、なんで昆虫がこんなメッセージを送ることになったのかはよくわからんな」おじさんは腕を組み考え込んでいるようであった。
「ちょっと、もしかして今うち思ったんやけど、よくSFとかで主人公の他にタイムトラベルをしていた人間が実はいたとかいうオチの話あるやん。これ昆虫が実は時間移動してたとかいうオチのパターンのやつなんちゃうん?」
「お前さあ、なんで、現実でそんなオチとかつけなあかんねん。でも、あながち間違いではないかもな。お前が今回した行動で昆虫に影響を与えるようなもんはなかったと思うしな」おじさんは冷静に考えを巡らせた。
「あんた以外にタイムトラベルできるやつっておったりするん?」アキ子は身を乗り出して尋ねた。
「すまん、わからんわ。でも、可能性の話やけどゼロではないと思う。おったとしても干渉し合うこととかあるんかなあ」おじさんは頭を抱え、さらに考え込んだ。
「たぶん、ほんまにうちら以外にタイムトラベルしてるやついると思うで。昆虫からこんなメッセージくるとかおかしいやん。やっぱり、昆虫がタイムトラベルしてるんとちゃうの?」
「そうやな。俺も真っ先にその可能性を思いついたわ。ただ、よくよく考えるとお前以外の人間がタイムトラベルしていてなんか不都合あるか?仮に昆虫が時間移動していても特に困らんやろ?」
「あかんって。これ絶対あとあと大問題になるやつやで。ドラマとかよくそういうのあるもん」アキ子は何故か自信満々に応えた。
「お前、感覚で言うなや。ドラマとかであったからってそうなるとは限らんやろ?」
「問題はあんまり放置せずに対処していくべきやと思うわ」アキ子はおじさんの言葉を無視して話を続けた。
「はぁ、じゃあどうすんねん?」おじさんは項垂れながら尋ねた。
「うーん、どうしよう」アキ子は黙り込んでしまった。
「お前、考えもなしに言ってたんかい!」おじさんは思わずツッコミを入れた。
「しゃーないやん!これはめっちゃ難しい問題やで」
「じゃあ、とりあえず手がかりを掴まんといかんから昆虫とメッセージのやりとり続けてヒント探すか」
「えー、うちそんなん嫌なんやけど」アキ子はわがままを言った。
「そんなこと言ったって、手がかりが昆虫以外にないわけやからそうするしかないやろ?」とおじさんが正論をぶつけると、一瞬アキ子はうなだれはしたが何とか納得したようだった。
「でも、啓太君のメッセージを返すことの方が最優先やわ」アキ子は思い出したかのように言った。
「確かに、俺ら以外にタイムトラベルをしているやつを探しつつも、自分の恋愛は続ける努力はせなあかん」おじさんは感心したように深々と首肯した。
「せやで」とアキ子は言ったあとに、自分が啓太を好きになっており暗に狙っていることを言ってしまったと気が付いた。
「いや、でも、啓太君チャラそうやし、どうしようかな」アキ子は思わず恥ずかしさを誤魔化そうと試みたいが、おじさんに「また何言ってんねん。とりあえず、啓太とかいう男とデートできるぐらいもっていけよ」と口を挟まれた。
「ふん、わかっているわ。でも、これはあくまで恋愛の練習みたいなもんで、うちが本気で好きとかそんなんじゃないからな」アキ子はおじさんに顔を近づけた。
「はいはい、わかっているって」とおじさんはあきれ顔になり、「まあ、ちょうどええやん。昆虫と啓太と二人の男とやりとりをすることで若干の余裕にもつながるかもしれん」と言った。
「ちょっと、啓太君はまだしも、昆虫はほんまに恋愛とかじゃなくて捜査なんやから」アキ子はいつもの倍以上強く主張した。
「わかったから、さっさと返事しろや」おじさんはあきれ顔で応えた。
「あんたに言われんでもわかっているわ。ちょっと待ってよ」アキ子はスマホを取り出して画面を見つめた。
「あかん、なんも思いつかへん」アキ子は啓太からのメッセージの返事に頭を悩ませているようであった。
「なんやねん、お前」おじさんは半笑になった。
「とりあえず、啓太君は後でゆっくり考えるわ」と言い、アキ子は昆虫からのメッセージを開いた。
お疲れさま。
彼氏とかできていません。
「返信っと」アキ子は昆虫には一瞬で返事返すことが出来た。
「おい、お前、何やっているねん。一瞬過ぎてわからんぐらいやったぞ。なんて送ってん?」おじさんは慌てた。
アキ子は一切悪びれる様子もなく、スマホの画面をおじさんへ向けた。
「あちゃー」おじさんはおでこに手をあてて困ったような顔をした。
「ちょっと、何があかんかったんよ?」アキ子は真顔で尋ねた。
「いやいや、今自分で言っていたやろ?捜査するって。こんなメッセージやったらやりとり続かんやろ?」
「あっ」とアキ子は言うと、「でも、あれや。これは昆虫が悪いんやで。あまりにも気持ち悪いメッセージを送ってくるから反射的に送ってしまったわ」と取り繕った。
「お前なぁ」とおじさんが言うと、アキ子が慌てて「じゃあ、5分ぐらい過去に戻ろう。それやったら何とかなるわ」とおじさんを説得した。
「なんで5分のためにチャリで坂上らんとあかんねん」おじさんはツッコミを入れた。
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