第20話
アキ子は部屋に着くとすぐに電気を付けた。普段なら真っ先にテレビのスイッチも入れて部屋を音でいっぱいにしたがるアキ子であるが、今日はそんな気分ではなかった。アキ子は鞄を小学校の時から使っている学習机の横に置き、着替えることもなくベッドに横になった。天井を見ると嵐の二宮君が笑顔でアキ子を見ていたが、それは別にアキ子だけに向けられた笑顔ではない。そんなことは遥か昔に分かっていたことだが、逆にその笑顔がアキ子の心を冷たくした。僻みっぽい人間からすると、時として笑顔すら寂しさや冷たさを感じさせるものになり得るのだとアキ子ははじめて気が付いた。
そうやってアキ子が何もしないでいると、おじさんが話しかけてきた。
「おい、大丈夫か?」
アキ子は数秒ほど謎の間を置き、「うん、大丈夫やで。ただ、しまちゃんがあんなこと言ってうちのこと嵌めてくるとは思わんかったわ」とため息交じりに応えた。
「まあ、女同士やからな。こういうこともあるやろ?お前は慣れてないんやろうけど」
「そうやな。うちはあんまり男を取り合うとかそんな話とは無関係やったな」
そうこう二人が話していると、静かな部屋の中で何かが振動する音が聞こえた。
「あっ、うちのケータイや」アキ子は自分のスマホに通知が入ったことに気付いた。
「ちょっと、そこのカバンの中にスマホ入っているから取ってや」アキ子はおじさんを顎で使った。おじさんはそれぐらい自分で取れよとか小言を吐きはしたが、さっとスマホをアキ子に手渡した。
アキ子はスマホの通知を見ると、先程街コンで出会った啓太からのメッセージだった。
おつかれさまです!
アキ子さん、先ほどはありがとうございました☆
アキ子さんはキャラも面白いし、お話していて楽しかったです!
これからもよろしくお願いします!!
また、ご飯とか行ければいいですね♪
「なんか啓太君からラインきてんねんけど」アキ子はぼそっと呟いた。
「おう、それは良かったやんけ」おじさんは無駄に肯きながら少し慌てて返事した。
「でも、これってうちのこと軽く馬鹿にしてない?」アキ子は怪訝そうな顔で尋ねた。
「見せてみろよ」おじさんが言うとアキ子はスマホを手渡した。
「お前、キャラがおもろいって言われているんが気にくわんかったんやろ?」おじさんはアキ子のスマホの画面を見つめながら言った。
「そらそうやろ?うちだって女子なんやから、しまちゃんみたいに『綺麗ですね』とか『可愛いですね』とか言われたいわ」アキ子はいつもにも増して不服そうな表情を見せた。
「お前、ほんま全然わかってないな。お前がおもろいキャラで話してたんやから、そらそう思われるんは普通のことやろ?」
「でも、だってうちはそんなつもりないもん」アキ子は左斜め上を見ながら口を細めた。
「はぁ、お前は本当に自分のことをわかってないな。街コンであんな態度とかとったらどう考えても可愛いとかにはなられへんぞ。ただ、可愛いとかはなかったけど前半は楽しく話せてたようやったからあれは前より改善した点やな」おじさんは素直にアキ子の改善点を指摘し、首肯した。
「でも、結局しまちゃんに上手いことやられてしまって全然やったわ。なんなんあれ?」アキ子は街コンを振り返り、少し怒りを見せた。
「まあ、島中もコンプレックスの塊みたいなところあるから、お前が男と楽しそうにしているのが気にくわんかったんやろうな」
「なんなんそれ。ほんま腹立つわ。うちが男と楽しく話して何が悪いん」アキ子は目を見開いた。
「でも、お前もそうやろ?人間なんて自分より楽しそうにしてたり、幸せそうなやつ見るの嫌やからな。それを純粋に祝えるほど出来た人間なんてそうそうおらんぞ。300年以上生きている俺が言うんやから間違いない」おじさんは謎の自信を持ち、胸を張って応えた。
「ちょっと、あんた300年ってほんまなん?やばくない?」アキ子はおじさんから衝撃の事実を聞くと、目が飛び出すぐらい驚いたようだった。
「ほんまやぞ。だって、タイムトラベラーは歳とらへんからな。お前だって60歳ぐらいはいってもうてるやろ?」
「ああ、なるほど、そういうことね。それやったらうちもかなり年寄りやわ」
「話が逸れ過ぎたな。とりあえず、今回は島中の邪魔はあったものの前回よりも改善しているし。まだ終わったわけではない。男からのラインにさっさと返事しろよ」
「でも、こんなん全然脈なしやん。メッセージのやりとりしてもあんまり意味ないって」アキ子は諦めた口調で言った。
「はあ、彼氏できひんやつの典型的なパターンやな」おじさんは呆れた。
「ちょっと、ちょいちょいうちのことを馬鹿にするのやめてもらえる?」アキ子はおじさんに人差し指をビシッと向けた。
おじさんはちびまる子ちゃんの丸尾君を思い出しながらも、「いやいや、馬鹿にしてへんよ。じゃあ、どうすんねん?もう一回出逢いの場面からやり直すか?」と尋ねた。
「うん、もう今回のでしまちゃんがどう出てくるかもわかってるからやり直したい」アキ子は力強く応えた。
「わかった。お前がそう言うんやったらしゃーないな。一旦戻るか」おじさんは自分の太ももを叩き、同意の意思を見せた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます