第8話

「はあ、今日は猪瀬君のこと久しぶりに見られて良かったわ」アキ子は帰宅後、さっそくベッドの上で横になり呟いた。

「確かに結構なイケメンやったな」おじさんは猪瀬君を思い浮かべながら言った。

「やろ?うち見る目あるやろ?」アキ子はさっと身体を起こし言った。

「見る目あるかはまだその猪瀬っていうやつがどんなやつか知らんからわからんけど、顔はジャニーズやな」

「そうやねん。あの顔ジャニーズにおっても全然おかしくないやろ?」アキ子は目を輝かせた。

「そうやな。まあ仮におったとしても違和感はないやろうな。羨ましい限りや」

「あんたみたいなルックスやとそら羨ましいやろ。体型もメタボやし」

「でも、お前と常に一緒におるのは、そのメタボおやじやぞ」おじさんは笑いながら言った。

「ほんまそれやで。なんでうちはあんたなんかとずっとおらなあかんのよ」アキ子はため息をつき、肩を落とした。

「まあ、俺らの関係はお前が俺と契約した時間、2020年ごろまで続くからな」おじさんは応えた。

「はあ、ほんま最悪やわ。なんであんたなんかと契約してもうたんやろ」アキ子が頭を抱え後悔しているようだった。

「せっかく、こんなおっさんに付きまとわれてまで過去に戻っているわけやから、その猪瀬君と恋でもしてみたらどうや?前は付き合うまで行かんかったんやろ?」

アキ子はおじさんに言われてはっとした。そう何のために私は過去に戻ってきたのか。自分は結局、山本先輩の未来を変えようとして努力はしたが、自分自身の未来を変えるために何の努力もしていない。

「そうや。うち自分の人生を変えるためにまだ何にもやってなかった」

「そうやな。7年近くも過去に戻ってせっかくやり直しているんや。お前が後悔している恋愛にそろそろ取り組んでもええちゃうか?だいたい23歳の女って言ったら結構需要あるしな」

「23歳って結構需要あるん?」アキ子は身を乗り出しておじさんに聞いた。

「お前、そんなんも知らんで一回目の人生やってたんか?」

「そんなん誰も教えてくれへんかったし。学校でも教わってないで」

「はあ、もう恋愛を小学校、中学校の義務教育に入れるべきやな。知っていると思うけど、2020年の出生率とかもう少しで1を切りかけていたからな。お前らみたいな恋愛できないやつらが少子化に拍車をかけている面もあるしな」

「ちょっと、日本の少子化をうちらのせいにしんといてよ」アキ子は声を荒げた。

「まあ、そうやな。日本の少子化対策は大したことないからな。子供が三人目産まれた人には月に数万円援助とかそんな感じやしな。市とかによっても違うんやろうけど」

「ほら、うちが彼氏できひんのも日本の政策があかんからや」アキ子は胸を張って応えた。

「あはは、ほんまにそうか?お前一度でもこの市の政策やと子供作っても負担増えるだけやから、この人と付き合っても無駄とか思ったか?そうじゃないやろ?」おじさんはアキ子の目をしっかり見て正論を返した。

「確かに日本の政策は関係ないわ」アキ子はおじさんの主張を認めた。

「そう、お前らが恋愛できてないのは傷つくのを恐れすぎとんねん。振られるなんてもん大したことない。お前、人生29歳までやってみて分かったやろ?傷つきすら経験したことないって逆に寂しいやろ?」

「なんかあんたにそこまで言われると流石にちょっと腹立ってきたわ。あんたは恋愛したことあるん?」

「あるに決まっとるやろ。俺なんか小学校のころには彼女おったぞ」

「ちょっと、なんの冗談なんよ。小学校から付き合うとか意味わからんねんけど」アキ子は明らかに慌てているようだった。

「お前にはわからんやろうな。大体小学校の時に俺は一通りこなしている」おじさんは何故か胸を張って応えた。

「一通りって…ちょっと、あんた何言っているんよ」

「お前が今想像した通り、全て経験済みや」

アキ子が恥ずかしそうにしているのも気にせずおじさんは話を続けた。

「まあ、とにかく俺が言いたいのは今のうちに恋愛をしろっていうことやな。さっき言ったように23歳の女は需要ある。昔やったら女はクリスマスケーキと言われていたからな」とおじさんは昔を懐かしむように言った。

「ちょっと、何それ?全然わからんねんけど」

「そうか、お前らぐらいの世代やとそういう言葉も知らんねんな」おじさんはおでこをおさえ呆れた。

「知らんよ。ちょっと、教えてよ」

「じゃあ、クリスマスケーキっていつ売れるかわかるか?」

「22日とか23日あたりちゃうん?あと、24日もイブやから結構売れるかな」

「そういうことや。今のお前の年齢は23歳。ちょうど売れるときやな」

「なるほど、確かに今のうちは売れ時や」アキ子は小躍りしているかのように喜んだ。

「ということは、クリスマスイブやクリスマスの25日が終わったらクリスマスケーキはどうなると思う?」

「ちょっと、やばくない。25日過ぎたら大安売りに決まっているやん」

「そうや。もう29やったら店頭には並んでない。どちらかというとお正月ムードや」おじさんはどこからとってきたかわからないイチゴ大福を頬張りながら言った。

「えっ、うちもうお正月に入ろうとしてたん?」

「そうやな。」おじさんは口をもごもごさせながら応えた。

そして、おじさんはお茶でイチゴ大福を流し込みながら、「ただ、今は23やから間に合う。とにかく、前回いい感じやったイケメンの猪瀬君と付き合えるよう頑張ることやな」と応えた。

「わかったわ。でもどうしたらいいん?」

「おい、お前どうしらいいんじゃないやろ?前回付き合う前まで行っているんやろ?とりあえず、その状態まで持って行って、そこで告白させる流れにするなり、告白するなりすれば付き合えるやろ」

「確かに。じゃあしばらく前回の人生通りすればいいんやな?」

「そうや。付き合う前まで行っていたんならいけるはずや」おじさんは強く断言した。

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