第43話

「ふあーっ、楽しかったですわぁ~」


 何時間ぶりの現実世界でしょうか。

 メガネを外してベッドで大きく伸びをするわたくしに、


「お・は・よ、ななよちゃん。本当に長かったわねぇ~。大丈夫よ、体が固まっちゃわないようにずっと凝りをほぐしてあげてたから」

「!?」


 どうして、お姉様がわたくしの部屋に……!?


「それにしてもぉ~。寝汗ぐっしょりで凄かったわよぉん……。ななよちゃん、もしかしてお風呂で汗をかいていたのん? それとも他のことで汗をかいちゃったのん?」


 にじり寄ってくるお姉様を持ち上げて


「いーから出ていってくださいましっ!!」

「あーん。ななよちゃんって相変わらず力持ちなんだからぁ……ねぇねぇ、ゲームばかりじゃなくてたまにはお姉ちゃんとも遊んでよ~」

「おあいにく様ですわ、ご飯食べてお風呂に入ったらまたダイブするつもりですの。お友達が待っていますわ」

「そんなぁ~! MROのバカバカッ!!」

「はいはい。大学生にもなって駄々こねないでくださいましっ」


 ポイッと、部屋から追い出してやりましたの。

 ……まったくもぅ。せっかくの休日なんですから、妹にばっかり構っていないで少しは遊びに行けばよろしいのに。

 お姉様の場合、わたくしのような中身は廃ゲーマーのエセお嬢様ではなくて、本物の超絶エリートお嬢様ですわ。


 勉強もお裁縫もお料理も……全てにおいて完璧というまさしく完璧お嬢様。

 お母様もお父様も仕事の都合で海外に行ってしまい、もう五年近く経ってしまってますが、その間わたくしをたった一人で育ててくれたのもお姉様ですわ。

 ちょっとたまにわたくしに構いすぎではありませんの? と思うこともありますし、過度なスキンシップに疲れるときもありますが……こう見えてもわたくし、お姉様のことが大大大好きですの。


 なんて言葉にして伝えてしまうと、何をされるか分かったもんじゃねーですから、こんなこと口が裂けても言えませんけれども。


「ママ、ぼーっとしてるですぅ。しゃのがカーテン開けてやるですよぅ」

「……あら。ありがとうございますわ。まだお日様が高いですわね。お昼の一時半ですか……ふわぁ~あ、ですの」

「ななよちゃーん、昨日の夜ご飯抜いちゃってゲームしてたでしょう? これからお昼ご飯を作るけど、なるべくご飯の時間には戻ってきて欲しいわぁん」

「いえ、もったいないので昨日のご飯を温めたものでいいですわ。着替えたらすぐに降りていきますの」

「ななよちゃんってエコ可愛いんだからぁん! おっけー、かしこまんまん~」


 ……ほんと、もったいない限りですわ。

 一歩外に出れば誰もが目を見張るほどの美人ですのに。素敵な殿方の一人や二人くらい居てもおかしくねーですわ。

 なのに、そんな浮いたお話など一つも出ることもなく。いっつもわたくしのことばかりですの。


「あ、ななよちゃんー。体操服のゼッケンが外れかけてたから直しといたからね~」

「ありがとうございますわ。お姉様」

「てやんでぇい、いいってことよぉん」


 はあ……。

 わたくしだってもう中学生なんですのよ。それくらい自分で縫えますのに。

 いつまでもお姉様にお母様代わりしてもらわなくてもいいですわ。


 そりゃ、わたくしなんてお料理もお裁縫もお勉強も全然まだまだですけれど。それでもお姉様の背中をずっと見てきたんですの、真似っこレベルくらいなら出来ますのっ。

 そうですの。わたくし、いつまでも子どもじゃありませんわ! 立派なレディになるんですのっ!


 モヤモヤする思考を頭の中で巡らせつつ、着替えを終えたわたくしは食卓へと向かいましたの。


「ううっ。それにしてもぉ。ゲーム内で食べても、現実世界ではそうもいかないんですのねぇ。お腹ぺこぺこですの……ん? この香り、もしかして!」


 きゃあーっ!! 見てくださいまし、お目玉焼きハンバーグですわっ!!

 わたくしの大好物ですのーっ!!


「ママ……ヨダレが垂れてるですよぅ」


 呆れるシャノンを尻目に、わたくしいそいそと椅子に座りましたの。

 それにしても、これを作ってくださるなんて珍しいですわね。

 普段は中々作ってくださいませんのに(過去にわたくしがハンバーグを食べ過ぎて入院した為、作るのを控えるようにしてるみたいですの)、何か良いことでもあったのでしょうか……?


「ふふっ。いただきます、ななよちゃん」

「い、いただきますですの……」


 ぺロリと久々の大好物を平らげて至福の余韻に浸っていますと、お皿を洗いながらお姉様がぼそりと呟きましたの。


「ねぇ。ななよちゃん、MROってどう? 楽しい? 痛くなかった?」

「ええっ、ゲーム内では確かに怪我しちゃいましたし、痛覚もBEO2より遥かにダイレクトにきましたが、リアルでは全然なんともなってねーですわよっ」


 ミノタウロスキングに掴まれて叩きつけられたところは覚えていますの。

 その際に肩や膝を痛めたり、血が出たりもしましたが……別に大丈夫みたいですわ。あ、ちょっとだけ皮がむけちゃっているかも、ですの。


「……そう。調べてみたら命に関わることはないけど、ちょっと危ないゲームって感じだったから。お姉ちゃん心配で……でも、よかったわ。ななよちゃんが楽しんでるのなら、お姉ちゃんはとっても嬉しいわ」


 困り気味の笑顔に、わたくしちょっぴり胸が締め付けられましたの。

 ……お姉様は、やっぱりお姉様ですの。ゲームで遊んでるこんな不肖ふしょうな妹に、そんなお優しい言葉をかけてくださるなんて!


「わ、わたくしも洗うの手伝いますわっ」

「まあ。良い子ね、ななよちゃん……撫で撫で」

「えへへ~っ。トーゼンですの~っ!」


 お姉様に褒められて上機嫌のわたくしに、ぷくっと頬を膨らませて不満げなシャノン。


「もうっ。ママの甘えん坊さんめ~ですぅ」


 わたくしの肩に乗って足をぶらぶらさせながら言うシャノンに、


「失礼なっ……べ、別に甘えてなんかいませんのっ」


 と反論しますが、


「なぁに。ななよちゃんなにか言った?」

「い、いえ。なんでもありませんわ……おほほほっ」


 あぶねーあぶねーですの。

 お姉様にはシャノンの姿が見えていませんのに、わたくしってば。

 これ以上いらない心配はかけるべきではないですわね……。


 ◇◇◇


 それからわたくしは約束の時間まで宿題をしたり、テレビを見たりと。のんびりとおうちで過ごしましたの。

 そうそう、お風呂もちゃんと入りましたのよ。温泉に入ったとは言っても、あれはあくまでゲーム世界でのこと。

 むしろ、リアル世界では汗をかいてしまって大変でしたの。髪もベトベトに張り付いていましたし。

 

「あ、そろそろお部屋に戻りますわね」

「……もう夜の七時なのね。ななよちゃんとの時間はあっという間ねぇん。なるべく早く戻ってくるのよん」

「わかっていますの~」


 手をひらひら振りながら階段を上るわたくしの背中に、


「……惑わされないよう気をつけてね、ななよちゃん」


 お姉様のいつもとは違う声色。

 不思議に思ってお姉様のことを見たのですが、いつものニコニコ笑顔で紅茶をすすりながらファッション誌のページをめくっていましたの。


「ま、いいですわ」


 それよりも、と。

 わたくしパソコンを開きましたの。

 これからあの凶悪難易度のギルティメイズに挑むんですの……みんなのステータスやアイテムをちゃんと確認しておかねーと、ですわ!


「えーっと、まずはわたくしのステから」


 名前:ピース

 称号:無し

 クラス:『ブラッディウォーリア<戦士>』 LV.14

 サブクラス:『デバッファープリンセス<弱体>』

 HP<ヒットポイント> 470/470

 SP<スキルポイント> 40/40

 MP<マジックポイント> 0/0

 STR<腕力> 73+15

 DEF<耐久> 20

 AGI<俊敏> 25

 MAG<魔力> 0

 DEX<器用> 18

 LUK<幸運> 3


 残りステータスポイント:13


 総攻撃力:323 <限界9999>

 総防御力:20 <限界9999>

 総回避力:30 <限界999>

 総致命力:13 <限界499>


【パッシブスキル】パワープラスⅠ(STR+15)

【アクティブスキル】★草陣:SP全て ★オーラアックスモード移行:SP30 ☆蠢く大地:SP5


【デバフソング】拘束の歌-ヨルムンガンド-:SP10 氷帝の歌-ニヴルヘイム-:SP10


 所持マニラ:59万3千M


「次にみやかとむい……」


 名前:スター

 称号:【女王蜂】

 クラス:『ガンスリンガー<銃士>』 LV.15

 サブクラス:『アタッカープリンセス<攻撃>』

 HP<ヒットポイント> 360/360

 SP<スキルポイント> 40/40

 MP<マジックポイント> 0/0

 STR<腕力> 20

 DEF<耐久> 5

 AGI<俊敏> 53

 MAG<魔力> 0

 DEX<器用> 30

 LUK<幸運> 18


 残りステータスポイント:14


 総攻撃力:2113 <限界9999>

 総防御力:5 <限界9999>

 総回避力:330 <限界999>

 総致命力:193 <限界499>


【パッシブスキル】トリプルトリガー(一回の攻撃で三発連続発射……ただし弾は回数分消費します)

【アクティブスキル】☆チェインショット:SP10


【アタッカーソング】??? ???


 所持マニラ:3万4百M


 名前:ハッピー

 称号:無し

 クラス:『ヴァルキリーナイト<盾士>』 LV.6

 サブクラス:『ディフェンダープリンセス<防御>』

 HP<ヒットポイント> 230/230

 SP<スキルポイント> 28/28

 MP<マジックポイント> 0/0

 STR<腕力> 19

 DEF<耐久> 52+15

 AGI<俊敏> 5

 MAG<魔力> 0

 DEX<器用> 10

 LUK<幸運> 10


 残りステータスポイント:0


 総攻撃力:399 <限界9999>

 総防御力:177 <限界9999>

 総回避力:20 <限界999>

 総致命力:43 <限界499>


【パッシブスキル】ディフェンスプラスⅠ(DEF+15)

【アクティブスキル】★雷迅:SP7 ★迅雷:SP14 ☆バニッシングフラット:SP0


【ディフェンダーソング】??? ???


 所持マニラ:999万M


「ふうむ、なるほどですわ。むいは盾を買ったから防御力が上がっているんですのね。最後にれいらさんといおさんは、っと」


 名前:トゥインクル

 称号:無し

 クラス:『フォレストハンター<狩人>』 LV.10

 サブクラス:『アタッカープリンセス<攻撃>』

 HP<ヒットポイント> 175/175

 SP<スキルポイント> 35/35

 MP<マジックポイント> 10/10

 STR<腕力> 18

 DEF<耐久> 13

 AGI<俊敏> 55

 MAG<魔力> 1

 DEX<器用> 38

 LUK<幸運> 4


 残りステータスポイント:9


 総攻撃力:733 <限界9999>

 総防御力:13 <限界9999>

 総回避力:254 <限界999>

 総致命力:288 <限界499>


【パッシブスキル】スピードプラスⅠ(AGI+15)

【アクティブスキル】★ラーニングタッチ:SP0 ☆ダブルアロー:SP5 ☆バーストアロー:SP15


【アタッカーソング】??? ???


 所持マニラ:10万M


 名前:ピュア

 称号:無し

 クラス:『ケミスト<薬師>』 LV.8

 サブクラス:『ヒーラープリンセス<回復>』

 HP<ヒットポイント> 15/15

 SP<スキルポイント> 0/0

 MP<マジックポイント> 0/0

 STR<腕力> 0

 DEF<耐久> 0

 AGI<俊敏> 0

 MAG<魔力> 0

 DEX<器用> 0

 LUK<幸運> 0


 残りステータスポイント:0


 総攻撃力:0 <限界9999>

 総防御力:0 <限界9999>

 総回避力:0 <限界999>

 総致命力:0 <限界499>


【パッシブスキル】なし

【アクティブスキル】なし


【ヒーラーソング】??? ???


 所持マニラ:2千M


「ふうむ。いおさん、相変わらずバグったままですわねぇ……あら?」


 アイテム欄に目を移して、わたくし気付きましたの。

 そういえばガチャチケットを貰ったんでしたわ。すっかりわすれてましたの。

 ミノキング討伐の際に貰ったものと今日のログインボーナスを合わせて計14枚ですわ。


 これについてはログインしてからじゃないと使えないみたいですわねぇ。ダイブしたらみやか達と一緒に回してみましょう。

 この手のランダムゲットものにはあまり期待しておりませんが……。

 あ、もう約束の時間ですわね。さっそくダイブしちゃいますのっ! 

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