第41話

 隠しクラスの『魔法少女』……BEOではたった一人、BEO2では二人だけ存在したと言われる幻の女の子。

 クラス設定の際にウィッチ、もしくはウィザードを選んだとき、超超低確率で『魔法少女』へと変化するとBEO2の攻略本に記載されていましたわ(最初は嘘ネタだとネットの掲示板で疑われまくってましたわね……)。

 このゲームには属性というものがありまして、それは六つありますの。

 火、氷、風、地、雷、水――火は氷に強くて水に弱い、地は雷に強くて風に弱いというベタなものですわ。


 女性アバターが魔法使いをしようとしたときは『ウィッチ』になるのですが、それは風、氷、水の補助魔法メインの三種類までの魔法しか使えませんの。

 対して男性アバターの魔法使い枠である『ウィザード』は地、雷、火の攻撃的な三種属性ですわね。


 魔法使いじゃない他のクラスには一つだけ属性が解放されるんですの。わたくしの場合、ウォーリア【地】でしたわ。

 同じウォーリアでも地ではなくて、火もあれば水もありますの。

 ダイブした際にデータを取られて、勝手に設定されるこれを適応属性というんですが……このMROではそれがあるのか分かりませんの。

 

 まあ、それよりも魔法少女についてなんですが、簡単に言ってしまえば魔法職最強クラスということですの。

 六色全属性を使えることが出来るといったチート職。補助魔法バフ、デバフも使えて、攻撃魔法も当然、さらには回復魔法なんてのも……。

 それにMAGとMPは当たり前のようにカンストする上限までいくらしいですわ。


 そう。『らしい』、ですの。

 なんせわたくし、ネットや本で知った程度で本物を見たことがありませんの。

 フィフスサーバー5鯖には魔法少女が生まれませんでしたもので……だからこそ、わたくしこうして今モーレツに興奮してますの!!


「あの方が幻の魔法少女……素敵ですの。あ、あら?」


 んんっ、上手くホックが外れませんわ。

 早くしなければ、みんな着替え終わっちゃいますのっ!

 未だに腕組みをしながら、うーんうーんと唸っているシャノンに、


「シャノン、すみませんが後ろの金具を外して頂けません?」

「……はいですぅ」

「ありがとうございますわ。にしても、どうしてそんなに考え込んでいますの?」


 訊ねてみますと、シャノンはロッカーにわたくしの下着を運びながら、


「だって、MROでは魔法少女というクラスはもうすでに二人いるですぅ」

「じゃあ三人目じゃありませんの?」

「それはねーですよぅ……隠しクラスの魔法少女はMROでも上限が『二人』だけのハズなんですぅ。しかもその二人はBEO2から引継いで二枠なんですぅ」


 といいますと、つまりMROでは引継ぎ以外で魔法少女は生まれないってことですの?

 そう訊ねたのですが、「三人のうち一人が存在するハズの無い『魔法少女』ということになるですぅ。だとしたらレベルゼロのあの方が一番怪しいですよぅ。ゲームマスターにバグ報告するべきですかね……」と、ぶつぶつ言いながらまた考え込んでしまいましたわ。


「もうっ、いいから脱いでくださいまし! またあの方に会ったとき訊いてみればいいだけですのっ」


 指でつまんで白いワンピースをぺろんと脱がしたのですが、あ、あの……ちょっと待ってくださいまし。


「シャノン……貴女、はいていませんでしたの?」

「んゅ?」


 ふわふわの長い水色のくせっ毛を揺らしながら首を傾げる妖精さん。

 妖精さんには下着という概念が無いのでしょうか。

 

「い、いえ。なんでもありませんの。今度新しいお洋服でも買いにいきましょう、シャノン」

「いくですいくですぅ~! わーいっ、ママ大好きっ」


 パタパタと嬉しそうに羽を動かしながらわたくしの顔に抱きついてきましたわ。

 MROのことになると別人のように真面目になりますが、やっぱり無邪気なシャノンが一番可愛いですわね。

 でへへへ、と。抱きつかれながらニヤニヤしていますと、


「あんた達、なーにやってんのよ。置いていくわよ~」

「あ、みやかしゃん!」

「もう……ちったぁ、隠すぐらいしなさいよね。ほら」


 呆れ顔のみやかがハンカチをシャノンの体に巻いてくださいましたわ。

 パステル調の可愛らしいタヌキさん柄のハンカチに、「タヌキさんだぁ、こんにちはですぅ!」と、大はしゃぎなシャノン。


「ありがとうございますわ、みやか」

「子が子なら、親も親ね……。あ、あんたも下くらい隠しなさいよねっ!」


 みやかが顔を真っ赤にして言いますが、わたくし。わたくし、ここぞとばかりに反論してやりますの!!


「どうして女の子同士なのに、隠す必要があるんですのっ!? わたくし、みやかとはお友達だと思っていましたのにっ」

「い、いや、だって友達だからってそんな全開にはフツーしないでしょ……」

「いいえ。みやかはさっきわたくし達に『たった五人だけの仲間なんだから、気兼ねなく素っ裸で接して欲しい』と言いましたわ!」

「あんたバグってんのぉ!? は、裸とまでは言ってないわよっ!」

「……いいんですの。所詮、みやかはその程度の気持ちでしたのね。わたくしはみやかに全てをさらしたのに、みやかはわたくしのことなんて……およよよ、ですの」


 がっくりとうな垂れるように四つん這いになってみますと、


「違うわよ……っ! あ、あたしだって、ななよのことは大事に思ってるわよ。でもそれとこれとは……」


 大事に思ってるって……まあ、みやかってば!

 いえいえ、ここで手を緩めてはいけませんの。あともう一押しですわっ。


「みやかはわたくしなんかと裸の付き合いはしたくないと、そういうことですのね」

「わ、わかったわよぅ! ほらっ、これでいいの!?」


 バサっとバスタオルを開いてわたくしに裸をつきつけるみやか。

 まあまあ。ゆでダコのように耳まで顔が赤くなっていますわ。

 ふふふっ、初々しくて可愛らしいですわねぇ。


 サイドテールを解いており、さらさら金髪ロングな珍しいお姿もあいまってか……実にお美しいですわねぇ。

 ほんと、お胸は控えめですが、くびれのラインが素敵ですの。お尻もきゅっと突き出ていましてスタイルバツグンですわ。

 普段の戦闘狂なところとのギャップがまたそそると言いますか――


「歌雨さんー、綺羅さんー。あ、いたいた。花火始まっちゃいますよ~。露天のお風呂があるようなので、そこに入りながら見ちゃい……きゃわ!?」


 あっ。


「ほらほら、もっと近くで見ればいいじゃないっ! これがいいんでしょっ!?」

「み、みやかちゃん。なにしてるの……?」

「綺羅……楽しそうかも」


 …………。

 裸を見せ付けるみやか。うな垂れるわたくし。立ち尽くす三人。

 沈黙が流れる更衣室の中、数秒後にみやかの悲鳴が響き渡りましたの。 

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