第40話
温泉。花火。
女の子にとってどちらも素敵なイベント。
そんな、ときめく二つのワードが合体した至福のひと時に癒される……ハズでしたの。
「もーっ、何よこれぇ~!! どんだけ並んでるのよっ」
「まぁまぁ。順番があるんだよぅ。今度のイベントは遅れないようにしようね~。にはは」
「そうそう! と、とりあえず綺羅さん、蜂さんをしまって欲しかったり……こ、怖いにゃあ」
がるるるっ! と、怒るみやかをどうどうと宥めるむいといおさん。
主人のピンチを察したのか分かりませんが、駆けつけてきた火蜂がさらに状況をカオスにしますの。
「あーあ。こんなにいっぱい人がいるとは思ってもみませんでしたわ」
「だって、今日は日曜日。しかも、時計塔を見ると夜の十二時――つまり現実世界だとお昼の十二時だから、混雑しているのも納得……」
涼しい顔でさらりと仰るれいらさんですが、声色には残念さがにじみ出ていますわ。
「そういえば今日は休みでしたわね……ふわぁ~あ」
わたくしが二度目の大あくびをしたとき、ティエチナさん(ワンちゃんモード)の背中に乗っていたシャノンがぷくっと頬を膨らませました。
「む~。そもそも、首都リバランカでしか温泉へのワープゲートがないというのがおかしいんですぅ!」
「そうなのーっ! 他の街でもゲートを開けばいいなのっ」
「ですですぅ。首都だけだからこんな混んじまうですぅ」
同じ妖精さん同士波長が合うのでしょう、すっかり仲良くなったシャノンとティエチナさん。
「お二人は元気ですわねぇ。わたくし、かよわいお嬢様なのでこういう待ちが長い列には耐性ありませんの……」
わたくし達の位置は、長蛇の列の最後尾あたり。さっきから全然進みませんし、花火に間に合わないですわね、こりゃ。
はぁ。残念ですわ……。
わたくしが着替えを抱えたまま座り込むと、
「ねぇねぇ。ちゃんとクエストは報告したほうがいいよ」
「……え?」
突然後ろから声を掛けられましたの。
大きな茶色い毛布のようなもので全身を包んだ女の子。
ノンプレイヤーキャラクターではなくて、わたくし達と同じプレイヤーみたいですわ……あら、眼帯をしていますわね。
「アンチコンフュ、まだ渡してないでしょ? 渡すとね、良い事があるんだよっ」
「そういえばまだ報告していませんでしたわ……って、どうしてそのことを!?」
「そんなことより花火始まっちゃうよー。見たいんなら早く報告しちゃお?」
は、花火と報告にどういう関係がありますの?
「ボク急ぐから、まったねーっ!」
「あ、待ってくださいましっ」
止めたのですが、手をぶんぶんと振り、
「待てないもーんっ。ちゃおちゃお!」
エメラルドグリーンのポニーテールを揺らしながら颯爽と街の外へ駆けていきましたわ。
「……今の人、不思議」
「で、ですわね。とても活発そうな子でしたわ」
「ちらっと見えた。私たちと同じ制服だったかも……」
「えっ!? でも、わたくし見たことありませんわよ。眼帯なんて目立つものを付けてるのに……」
まあ、もしかしたらMROの装備アイテムかもしれませんしね。
とにかくアドバイス通り、武器屋さんへ向かってさっそく報告してみると、ミリィさんからたっくさんのポーションやリザ草、アイテムを貰いましたの。
それだけではありませんわ、『達成追加ボーナス』として、なんとプレミアムチケットとガチャチケットを頂きましたわ!
「本当にありがとうございました! マリィは今眠っているので、起きたら飲ませようと思いますっ」
「いえいえ。お役に立てて光栄ですの。それよりもこのチケット本当に頂いて宜しいのですか?」
「もちろんですっ! 『迅速クリア』でガチャチケット、そして『怒りのミノタウロスキング討伐』で激レアのプレミアムチケットも追加です。それさえあれば、どんなに混雑していてもイベントを優先して体験することができるんですよ。まさか、貴女がそこまでお上手な冒険者さんだったとは……素敵ですっ」
はて。ミノキング討伐……?
わたくし、倒しましたっけ。ずっと逃げ回ってた記憶しかないですわ。
「わわわ! イベントまでもう残り三分もないですよ。すぐにお使いになりますか?」
「あ、もちろんですの!」
「ではプレミアムチケットをその場で消費させていただきますね」
「はいっ!」
わたくしが慌てて頷きますと、眩しい光と共に新しい扉が出てきましたの。
「その扉はすぐに閉じてしまいます、ユニットメンバーがいらっしゃるのならばお早めにどうぞっ」
時間がないですわ!
武器屋を出て、みんなにプレミアムチケットのことを話すと、
「ええっ、ミノキング倒したのっ!? ななよ、あんたやるじゃんっ」
「さす歌……」
「歌雨さんの勇姿、見てみたかったにゃあ」
「ななよちゃんはいつだってかっくいーんだもんねっ」
う。褒めて頂いてもあんまり嬉しくないですわ。
だってそんな記憶ねーんですもの。
「さぁさぁ、行きますわよ、みなさんっ」
「はーいっ!」
とりあえず、猛ダッシュで宿屋へと向かい、扉を開けて中に入るわたくし達。
虹色に輝く光の粒子に包まれながら、やがて温泉へとたどり着いたのですが……どうしたことでしょう、シャノンの顔色が悪いですわ。
「どうしましたの? せっかくのMROオープニングセレモニーなんでしょう。シャノンが一番楽しみにしていたじゃありませんの」
着替え室に向かいつつ、肩に乗っているその子に訊いてみますと、
「マ、ママ、さっきの人が……」
「ああ、眼帯ポニーテールの方がどうしましたの?」
「えっと、その……。ステータスをちょっと『見』たんですが――レベルがゼロだったんですぅ」
レベルゼロ……?
ログインしたばっかりでもレベル1はあるはずですわよ。
「ううーっ。そ、それどころか、クラスが『魔法少女』だったんです……」
え、えええぇ~!?
魔法少女って、魔法少女って……あの全サーバーにたった三人しか存在出来ないっていう超激レアクラスのことですの!?
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