第37話

 途端、凄まじい水しぶきをあげてスライムが飛び出してきましたの。

 マスカットグリーン色の美味しそうなぷるぷるモンスター。全長20メートルくらいでしょうか。ウェアウルフさんよりは小さいですわね。

 ま、それでも巨大ボスモンスターには変わりありませんけど。


「先行、行きますわよっ! でぇえりゃああ、【蠢く大地】!!」


 レベル10で覚えたばっかりのお馴染みウォーリアー遠距離攻撃スキル。

 スライムさんがわたくし達の前に着地した隙に――!

 

「……わぁ、ぴったりの位置なの」


 ティエチナさんが感嘆の声をあげたと同時に、森に亀裂が走って鋭い岩が天へと向かって突き出されましたの。

 真ん中の赤いコアを潰され、黄緑色のゼリーを撒き散らしながらしぼんでいくスライムさん。

 よーしっ、ベストタイミングでしたわっ!  


「つよーいつよーい!!」

「さすがです、歌雨様」

「……ふっふっふ。とーぜんの結果ですの~!! おーっほっほっほっ!」

 

 なーんて。一応えっへんポーズで高笑いを決めておきますが。

 ――ま、まさかたった一撃で倒せるとは思ってもみませんでしたの。

 せっかくれいらさんのラーニンググローブの能力を見るつもりでしたのに……。わたくしの、おバカ、おバカ!!

 

 まぁ、とはいえ相手はVRMMOのザコ代表のスライムさんですからしょーがねぇですの。

 きっとレベルはミノタウロスキング、いえ、ウェアウルフさんよりも低いでしょう。そりゃ弱点のコアを突かれたら一撃でやられてもしょうがないですわね。

 ちょっとだけ出番の遅かったスライムさんに同情していると、ティエチナさんがわたくしに尻尾をふりふりしながら抱きついてきましたの。


「わんわん、お姉ちゃまカッコいいなのーっ」

「ふふっ、ありがとうございます……」

 

 うおっしゃあ! お姉ちゃま呼びおっしゃぁあですの!!


「……ティエ。歌雨様に懐いたみたいです」

「あらあら、まあ。それはとても光栄ですわ。それより、ティエチナさん。服を着ないと風邪をひいてしまいますわよ」


 よーしよし。良い調子ですわ。

 こっからはあくまでも紳士的に接していかねーと……と思い、素っ裸の彼女に何かを着せようとした次の瞬間。


「否定。その必要は無いようです、歌雨様」

「ふぇ?」 


 わたくしがおマヌケな声を発したと同時に、


「――来る! ティエ、歌雨様を氷で包んで」

「……あい、ご主人ちゃま! 【フローズンベール】っ!」


 わわっ。なんですの!?

 いきなり氷のボールに包まれてしまいましたのっ。

 これって、もしかしてティエチナさんの魔法なのでしょうか?

 よ、妖精さんが魔法を使えるなんてビックリですの……。


「きゃあっ!?」


 と、呆けていましたら何かが目の前で破裂しましたわ。

 氷の壁でよく見えませんが、紫色の液体――いえ、ジェルでしょうか?

 当たったところからモクモクと煙が出ているところを見ますと、酸のようなものだったり……げげっ!

 

「お、思い出しましたの……! れいらさん、これはスライムの第二形態ですわっ!」


 わたくしが氷の中で叫ぶと、前に立ったれいらさんは小さく頷いて、


「はい……スライムはやられても夜の間、それも満月の夜にだけ変化する形態があります。それは――ゴーストスライム」


 ゴーストスライム……通称ゴスライム。

 BEOで冷遇されていたボスのスライムがBEO2でテコ入れされた形態ですの。

 MROでもそれが引継がれていますなんて……でも、本当にあのゴスライムだったら少々、いや、かなり厄介ですわよ。


「……お、大きいかも」


 れいらさんの目の前に巨大な紫色のスライムが浮遊していましたの。

 頭には天使のような黄色い輪っか。

 コアを失った不気味なスライムは、飛び散ったゼリーを掃除機のように一瞬で吸うと、ますます巨大になっていきましたわ。


「れいらさん気をつけてくださいまし、そのモンスター……前作と変わっていなければ物理攻撃は効きませんわよっ! それどころか下手に殴ってしまいますと、十倍の属性攻撃でカウンターされていまいますのっ」


 ですが、わたくしが叫んだところで時すでに遅し。

 れいらさんの黒い爪がゴスライムに深々と突き刺さっていましたの……。

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