第35話

 森のざわめき。川の流れる音。満天の星空。

 涼やかな夜の風景にわたくし感動してしまいましたの。

 

「あーんっ、自然の香りがしますわぁ~。すーはすーはっ」


 両手を広げてくるくる回りながら森の中を進むわたくしに、


「……歌雨様。地面が湿っているので、そんなにはしゃいでると転んじゃうかも――」

「きゃあっ!!」


 ズザザーッとずっこけてしまいましたの!

 あいたた……ヒザをすりむいてしまいましたわ。

 まあ、このくらいのダメージなら別に平気ですけれども、と。

 すぐに立ち上がろうとしたのですが、心配そうに駆け寄ってくるれいらさんに、わたくし良いことを思いつきましたの。


「んっ、こほん……」


 少しだけ喉の調子を整えてから、


「ふええーんっ、痛いですの~っ」


 ぺたんと地べたに女の子座り。

 子どものように泣きじゃくってやりますわ。


「う、歌雨様っ」


 ふっふっふ。もちろんこれは嘘泣きですの。

 れいらさんの反応を見たいから、ちょっとだけからかってみますわっ!


「ヒザ、血が出てる……。待っていて、ください」


 ポーションでも飲ませてくださるのかしら? と、嘘泣きしつつチラリと窺っていますと、


「あった……です」


 れいらさんはミラコンではなくご自分のスカートのポケットに手を入れて、わたくしのヒザにぺたりと何かを貼ってくださいましたの。


「これ。バンソウコウ……?」


 可愛らしいアニメイラストのついたそれにキョトンとしていますと、


「……肯定。ティエチナ用に買ったものです」


 ティエチナって……もしかして妖精さんの名前ですの?

 このようなものが妖精さんにどうして必要なのでしょう……。妖精さんは体がミニサイズですから、これは使えないと思うのですが。

 バンソウコウに描かれている魔法少女いっかちゃんのアニメイラストをジッと見ていると、森の奥で誰かの声が聞こえましたの。


「もしかして妖精さんかもしれませんわっ!」

「あ……歌雨様、もう大丈夫なんですか?」

「バンソウコウですぐに治りましたのっ! とにかく行ってみますわよ、れいらさんっ」

「こ、肯定……」


 早く妖精さんを見てみたい、見てみたいですのっ!

 不思議そうに首をかしげているれいらさんの手をギュッと握って奥に進むと、ぱぁっと視界が開けましたの。

 リバランカから五分程歩いた先にある『フレーデの森』の奥深くに――その妖精さんはいました。


「きゃっ、きゃっ!」


 空に浮かぶ星空にまんまるのお月様。

 そんな淡いブルーライトに照らされて煌く美しい湖……その中央でリスさんや小鳥さんと戯れる一人の幼い女の子。

 プラチナブロンドの綺麗なロングツインテールを夜風になびかせながら裸の幼女が踊るように遊んでいましたのっ!


「きゃっ、くすぐったいのぉ……もうっ、やったなぁ~?」


 むいの赤毛ツインテールはミディアムヘアーだったからぴょこぴょこ揺れて可愛いのですが……この長さも素敵ですわね!!

 お腹をつんつん突いてきた小鳥さんに水をかけようとするティエチナちゃん。

 や、やばいですの! ぶっちゃけクッソ可愛いですわ!!

 まあ――でも。シャノンのほうがもっと可愛いですのぉーっ!! 妄想でシャノンを抱いてチューしまくっていますと、


「ティエ。水浴びの時間は終わり……帰ろ」

「あ、ご主人ちゃま!」


 ふおおっ!?

 れいらさんを見つけた瞬間、ティエチナちゃんのウォーターブルーの瞳がキラキラと輝いたのですが……。

 その可愛らしいぱっちりとしたおめめよりも、耳と尻尾に釘付けになってしまいましたの!

 呼ばれたときに、ぴょこっと出てきたふっさふさもふもふのお耳と、これまたふっさふさもふもの尻尾。

 ワンちゃんのような獣耳と尻尾。それはもう、もう――可愛さ大爆発の反則ですのーっ!!


「あの……歌雨様。全部聞こえてます」

「あ、あらごめんなさいまし。どうぞ続けてくださいな」

「……はい。ティエ、お友達の小鳥さんにバイバイしてこっちへ泳いできて」


 その途端、ティエチナちゃんの足元に水色の魔法陣が出てきたかと思うと、ぽちゃんと水の中へ落ちて、


「はーいっ、バイバイなのーっ!」


 小鳥さんに手を振り、犬かきで、「えっほえっほ!」と泳いできましたの。

 リスさんはどうしたのか気になったのですが、頭にちゃんと乗っていましたわ。


「到着ーっ、ご主人ちゃま。一回も止まらないで泳げたのーっ、褒めて褒めて~!」

「……良い子良い子」

「わんわんっ!」


 無表情に撫でるれいらさんに、尻尾ふりふりの笑顔で抱っこ抱っことせがむ妖精――いえ、幼女さん。

 胸がちょこっとだけ膨らんでいますから、人間世界では小学生二、三年生あたりでしょうか。

 それにしても全部丸見えの無防備ですわね……まあ、このゲームに殿方は居ないからいいのでしょうけど。

 

 そう、わたくしがニコニコしながら見ていますと、


「……っ!?」


 ビクッと耳を立てたかと思いますと、すぐにれいらさんの後ろに隠れちゃいましたわ。

 ――わ、わたくしもしかして警戒されているんでしょうか?

 もしそうだとしたら、スッゲー悲しいですの……。

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