第34話

「ステータスゼロもそうですが、な、なんですのこの薬師くすしってクラスは」

「みやかちゃんが言うにはBEOにあった初期クラスみたい」


 初期クラス。お姉様から聞きましたが、BEO2の前作となるBEOでは2次クラスシステムがあったらしいですわ。

 例えばウォーリアーをしたい場合は、最初はファイターを育てないといけませんでしたの。

 ファイターがある一定のレベルまで上がったらウォーリアへとクラスアップ出来るのですが……どうしてBEOの初期クラスがMROに? 

 BEO2から初期クラス制度は撤廃されて、MROでも2次クラスから始まるものとばかり思っていましたの。


「姫ちゃんね。それが原因で酷い目にあったんだよ。パーティ誘われてもクラスがおかしかったりステータスゼロだからって気味悪がられたり、『アルケミーだと期待してたのに、使えない人だから組んでいてもしょうがない』って、強制的にパーティから外されたり」

「使えないって、そ、そんな! それは、たまたま本気プレイの人たちとあたっただけですのっ! そうじゃないのんびりプレイの人と組めば――」

「ななよちゃん……このゲームさ。どういう人たちが選ばれたか覚えてる?」


 どういう人たちってBEO2のランキング上位の人が……あっ!


「確かにやさしくてまったり派な人と組んだら違ったかもしれない。そういう人も居るとは思うよ。でもね、ランカーばっかりってことはそれだけこのゲームに本気な人が多いってことなんだよ」

「じゃあ、いおさんはそういう人たちに何度も……」

「うん。無視や罵倒は当たり前。ブラックリスト通信拒絶入れられたり酷いときにはバグチート利用してるって運営に通報されたりしたんだって……だから、パーティに入るのが凄く怖かったみたい……。あ、れらちゃん」


 ガチャリと扉が開いてれいらさんが出てきましたわ。

 彼女は無表情を保ちつつむいの隣に立つと、


「……でも、このゲームが大好きだから。自分の作ったアイテムで喜ぶ人の顔が見たいから。姫様はログインしては街でずっと拾ってくれる人を待つようになった。こんな使えない自分でもお役に立てるパーティに出会いたい、と」

「れらちゃん。みやかちゃんに聞いたの?」

「肯定。隠してもしょうがないことだからと。仲間なら皆に正直に話しておくべきだって……歌雨様にもあとで話すと言ってました」

「そう、ですの……。でも、ステータスやクラスは抜きにしても、ちゃんと錬金術師をしていると思いましたわ。だって、ポーションの調合も武具生成も出来るのでしょう?」


 わたくしが訊ねるとれいらさんがミラコンに触れましたの。

 黄色い立体画面。いおさんのステータス――お金部分を指して、


「残りがたったの3千マニラ。彼女は膨大なマニラを溶かして無理やり調合していると推測」

「薬師の場合、下位クラスだから調合成功確率が極端に下がってるみたい。ななよちゃん達が飲んだ薬ね。みやかちゃんが確率計算してみたら一個150万マニラくらいするとか」

「なんて大金ですの!? わ、わたくし達のために、そんな貴重な物を……」

「……二人で300万マニラ」


 わざわざ自分のお金を削って……。

 しかもみやかがさっき言ってた話ですと、格安でアイテムを売っていたと――それは、みんなの喜ぶ顔がみたいから?

 あんな酷い目にあったのに、ほぼ無償で冒険者に提供して――


「歌雨様……。第2位様の話では、もうお金がなくなっちゃうから今日でログインするの最後にするつもりだって――そう言ってたみたいです」

「さ、最後って……そんな」


 わたくしとれいらさんが俯いていると、むいが真剣な眼差しをこちらに向けて、


「ねえ、ななよちゃん。れらちゃん。改めて聞くね。ステータスゼロの姫ちゃんをむい達のパーティに本当に誘っていい、かな?」

 

 ――わたくしの気持ちは最初から変わっていませんの。

 むしろ、いおさんのような素晴らしい人に出会えて幸運だったと感謝したいくらいですわ。


「愚問ですわね……。聞かなくてもわかりますでしょう、もちろんイエスですの」

「……バグってるのに?」

「バグってようがなんだろうが、関係ねーですわね。一緒にあの方と冒険したいですの! それだけの理由では答えになっていないでしょうか?」


 ぐっと拳を握って顔を上げるわたくしに、


「……私も一緒。歌雨様と姫様とみんなで遊びたい、のです。ステータスゼロなら私が姫様を……守ります」

 

 そっと手を重ねるれいらさん。ふふ、無表情ですが目の奥に熱い気持ちを感じますの。

 微笑かけてみますと、顔を赤くして目を逸らされてしまいましたわ。


「うーっ! ななよちゃん。れらちゃん……だーいすきっ! 愛してるっ! 二人とお友達になれて、むい幸せだよぉ~! モフモフーっ!!」

「きゃっあ!?」

「……く、苦しいです、空宮さん。モフらないでください……」


 もう、ここぞとばかりに抱きついてきましたの。

 でも。確かに良い機会ですわねっ!


「れいらさん、わたくしも仲良くなれた証にモフらせていただきますのっ!」

「う、歌雨様まで……!?」

「ずるーい! むいだって、れらちゃんモフモフするもんっ!」


 三人でギューギューと抱き合っていますと、


「あっ。花火イベントまでに探さないと……です」


 あっさりと抜け出すれいらさん。

 

「探すって、なんのことですの?」


 わたくしの胸に顔を埋めてくるむいを引き剥がしながら訊きますと、


「私の妖精さんです……。水浴びをしに行って、まだ帰ってきません」


 ふぉおお、妖精さんですって!!

 シャノンのように可愛らしい子なのでしょうか? いや、どんな妖精さんよりもきっとシャノンが一番可愛いとは思いますが(どうぞ親バカと罵ってくださいましっ)……。

 そっと扉を開けてみるとシャノンはいおさん達と楽しそうに談笑しているみたいですの。

 連れ出すのもかわいそうですわね。パタン、と扉を閉めて、


「では、僭越ながらわたくしもお供させて頂きますわっ!」

 

 目を輝かせて言い放ちましたの。

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