第33話

「ふうん。ななよの方も大変だったのねぇ。セブンスアイ、か。使いこなせれば最強だけど……」

「むむむぃ……。あのギルティメイズをクリアしなきゃだもんね。さっき寄った酒場でも一層攻略すら無理ゲーだあ! ってすっごい騒いでたよ」


 むいとれいらさんが来てから、みんなでベッドの上に座りながら30分ほど今まであったことについてお話をさせて頂きましたの。

 七眼――わたくしはそのまま『ナナメ』と呼びますけど、ナナメのことについてはすでにいおさんから訊いていたみたいですの。


 実は……わたくしが道具屋さんのクエストを受けたあの時、街の反対側でむいもみやかもログインしていたようですわ。

 みやかは合流前にポーションやリザレク草復活アイテムを大量に欲しくて。むいの場合は盾役なのに盾が無いのはマズイかも、と盾を購入しに。

 でも目ぼしいアイテムが見つからなくてトボトボ歩いていると、ある露店の前でむいとみやかがバッタリ。そして、その露店の方が姫咲いおさんだったと。


 露店というのは街に配置されているNPCのお店からだけではなく、プレイヤー個人同士の間で誰でもアイテムを売ったり買ったりすることが出来る商売システムなのですが、それには売り物の内容が簡単に分かる『看板』というものがありまして。


 電光掲示板みたいに文字を流しているその看板に、『メイズ用の回復、強歌ポーション全種類、リザ草、リターンゲート、お料理もあります。全色属性30%カット盾もお安くなっております。あとパーティやユニットに誘ってくれるお優しい人募集中です……』と書いてあったみたいですの。


 買い物をしながらお喋りをしている間に仲良くなり、募集してるならと、いおさんをパーティに誘おうとしたとき……。

 ミノの集落から逃げてきた人たちが大量に転移してきて、口々に斧を振り回して暴れたわたくしのことや(お恥ずかしいですわ……っ)、ナナメってセブンスアイで暴走したれいらさんのことについて話し始めて――そこで、もしかして! と慌てて集落まで走ってきたようですの。


「選ばれし眼がこんなに厄介なものだったなんて……。助かったです、姫様」


 一息ついたとき、改めてれいらさんが感謝の言葉を述べ、


「わたくしからもお礼させて頂きますの。あの調合薬が無かったら今頃大変なことになっていましたわ。ありがとですの、いおさんっ」


 それに続いてわたくしも頭を下げましたの。

 でも、彼女はニコッと微笑んで、


「ううん。お二人とも無事で嬉しいにゃって。もしどこか苦しいところがあったら言ってくださいね。すぐに良いお薬を用意しちゃいますから」

「だ、大丈夫……です。歌雨様は?」

「わたくしも、このとーりピンピンしてますのっ!」

「……えへへ、やったぁ。お薬がちゃんと効いて良かったにゃって」


 手を合わせてパァっと笑顔のお花を咲かせるいおさん。

 なんてお優しいのでしょう……こんな聖母のような方がパーティに入って頂けるととっても心強いですわっ!

 あ、もちろんいおさんにはさっき丁重に謝罪いたしましたわ。

 でも、ブンブンと首を振って「ううん、すぐに泣いちゃう私が悪いのです……。ごめんにゃさい、歌雨さん」と逆に謝られてしまいましたの。うう、罪悪感が……。


「あの。歌雨さん……。音無さん。も、もしよろしければ私をパーティに――」


 おずおずといおさんが言いかけたのですが。


「はい! オッケー! 賛成、いおさんばんざーい! ですのっ!」

「わーい! ばんざーいですぅ!」

「……姫様万歳」


 ソッコーで手を上げて賛成するわたくしに、続けてひらひら舞うシャノン。そして、無表情のまま何故か敬礼をするれいらさん。

 そんなわたくしたちのノリに、いおさんの眼が再びウルウルしだしましたの!


「あ、ごめんなさいっ! 驚かせてしまいましたわね……」

「ううっ。違う、にゃあ。嬉しいのです。こんな楽しそうなパーティに入ることが出来て、それで凄く嬉しくって。うう、泣き虫でずびばぜん……」

「いおってば、まーた泣いてぇ」

「むふふ。姫ちゃん泣き顔もかーわいいっ」

「……泣かないで、姫様」


 すっかり懐いたように、よしよしと背中をさするれいらさんですが、わたくしはちょっと疑問に思いましたの。

 パーティに入るだけでそんなに嬉しいものなのでしょうか……パーティなんて誰でも気軽に組んでいると思いますの。

 首をかしげていると、むいが手をあげましたの。


「はーい。みやかちゃん、花火イベントまでまだ時間あるよね?」

「あと20分くらいあるわよ。なあに、トイレ?」

「あったりー! お手洗い一緒にいこっ、ななよちゃん!」


 ええっ!? わたくしは別に催していませんわよ。

 

「いいじゃん! つれション、つれション!」

「お、お嬢様がそんなお下品な言葉を使わないで欲しいですの……もう、しょうがないですわね」


 と、部屋を出たのですが。


「…………」

「むい?」


 あら。どうもむいの様子がおかしいですの。

 不思議に思っていますと、むいはとても言いづらそうに、


「ななよちゃん……。姫ちゃんのクラスってなんだか知ってる?」

「え。あれって『ストーンアルケミー』という錬金術師じゃありませんの? 回復も攻撃魔法も使える強いクラスのはずですわ。BEO2のときと変わっていなかったら、ですが」


 そう言うと、むいは扉に背中を預けて、


「そう。アルケミは強クラス。でもね、姫ちゃんの場合はちょっと違うんだ……。パーティにもう入ってるから、ななよちゃんのミラコンでも姫ちゃんのステータスが見れるはずだよ」


 眉をひそめてミラコンを起動したのですが――


 名前:ピュア

 称号:無し

 クラス:『ケミスト<薬師>』 LV.8

 サブクラス:『ヒーラープリンセス<回復>』

 HP<ヒットポイント> 15/15

 SP<スキルポイント> 0/0

 MP<マジックポイント> 0/0

 STR<腕力> 0

 DEF<耐久> 0

 AGI<俊敏> 0

 MAG<魔力> 0

 DEX<器用> 0

 LUK<幸運> 0


 『装備』

 服:大宮女学院中学校の制服

 左手:+10 ウォーターネイル

 右手:+10 ウォーターネイル

 腕:※装備されていません

 体:+10 白のアルケミーマント

 足:※装備されていません

 アクセサリー:+10 白のアルケミークラウン

 指輪:エメラルドリング LV.1


 総攻撃力:0 <限界9999>

 総防御力:0 <限界9999>

 総回避力:0 <限界999>

 総致命力:0 <限界499>


 所持マニラ:3千M


 ど、どういうことですのこれ――全てのステータス値がゼロ!?

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