第32話
「んんっ。あら、ここは……どこですの?」
むくりと上半身を起こしたわたくしは周りを見渡してみましたの。
ふかふかベッドに天井プロペラ(確かシーリングファンというみたいですわ)、テーブルの上にたくさん乗っけられたフルーツの山。
暗くてよく見えませんが、おそらく宿屋さんでしょうか……それにしても、とても豪華なお部屋ですわね。
「うーん、記憶がハッキリしませんわ」
頭がフラフラしますの。何か飲み物でも頂こうかしらと、ドアに手をかけたとき、
「あ。気付かれましたか?」
「ママ~!」
シャノンと一緒に女の子が入ってきましたわ。
「う、歌雨さん。何か冷たい飲み物でも持ってきましょうか? それとも温かいほうがいいですかにゃ?」
「……う、あっ」
な、なんという美しさですの!?
ぷっくりとした桜色の唇に、ほんのり赤みがかったほっぺ。
やわらかな髪は唇と同じ優しい桜色をしていて、れいらさんよりは長いミディアムヘアなのですが……やや乱雑にカットされていますわね。
あぁ。残念なことに毛先がボロボロじゃありませんのっ! せっかく美しい髪なのにもったいないですわねっ……!
「あ、あのう?」
「チッ! よく見えませんわっ、明かりをつけますわね!!!」
「にゃ、にゃにゃっ!? そ、そんなに見つめないでぇ……」
ガタガタ震え、真っ赤な顔でわたくしを見るその方に顔をぐいっと近づけて、
「くんかくんか。ほうほう……なるほど、ですわ」
「ひぃ!?」
今にも泣き出しそうなウルウルの瞳は透き通ったエメラルドグリーン色をしていますの。
涙が宝石に変わって高く売れるなんて設定があっても不思議じゃないくらい綺麗な瞳ですわね……。
次に目についたのは可愛らしいヘアバンドですわ。
あと白い長マントもカッコ可愛いですわね!
腰につけたカラフルなポーションの数々を見るに……クラスは『
「中の服は……っと」
金色の刺繍が入った赤いブレザーに白いシャツ、そして凝った形の緑色リボン。
それよりも目立つのはスカートの短さですわね……。上着と同じような金の刺繍入りの白いスカートなんですが――
「ごめんあそばせ。ちょいと、めくらせて頂きますの」
ああ、そういうことでしたの。一応中にはふりふりの桃色ペチコートを穿いてるんですのね。
「ひゃあっ!? な、なんでめくってるにゃあ!?」
にしても。こんな制服の学校ありましたっけ。
「分からないですの。わたくしとしたことが……くっ!」
ログアウトしたらさっそくネットで調べるしかねーですわっ。
なんて、その女の子のあちこちを夢中で観察していますと、
「え~ん! 恥ずかしいぃいよ~! もうイヤにゃあぁっ」
あ、あらら……? 今にも泣き出しそうとは思いましたが本当に泣き出してしまうなんて。
「す、すみませんついついわたくしってば……探究心が前のめりになってしまいましたの」
「ふえぇ~んっ!」
「えっと、えっとっ! ですから前のめりに……。な、泣き止んでくださいまし」
あたふたしているわたくしに、
「やっぱりこうなったかですぅ……。ママ、ママ。このピンクのおねーしゃんは
呆れ顔で耳打ちしてくるシャノンが言うには、この方は極度の恥ずかしがり屋さんらしいですわ。
そんでもって照れ屋さん、泣き虫屋さん、引っ込み思案屋さん……と。
とにかく、とーっても内気な子みたいですの。
ううっ。そうとは知らず、つい普段のノリでやってしまいましたわ。
「ひっぐ、ひっぐ……」
「あーあ。こうなったら大変だってみやかしゃんが言ってたですぅ。しゃの、知らねーですよぅ」
ま、参りましたわね……。
「いお~っ。ななよ起こしてきた? 今ならお風呂で花火が見れるみたいよっ! みんなの分のイベントチケット買って来たから一緒に――って、あんた達なにしてんの?」
バスタオルと着替えを持ってきたみやかが交互にわたくし達を見ましたの。
すぐに状況を飲み込んだ様子で、
「はぁ。ななよぉ、あんたまた変態行為したでしょ……。ちょっとむいとれらを呼んでくるから大人しく待ってなさい」
「し、失礼なっ! わたくしは変態なんかでは――んむっ!?」
指で唇を押さえられてしまいましたのっ!
みやかは溜め息交じりにジト目でわたくしに顔を近づけると、
「いーから、それ以上いおに触らないで。みんなが来るまで
「ふ、ふぁい……でしゅの」
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