第31話
『ああ、フィフスキング……なんて美しく神々しい姿なの。さあ、私に見せてごらんなさい。堕落する前の――全盛期の貴方を!』
「ブフフッ! マダウゴケルノカ! ブフッ! オモシロイゾ小娘ッ! マダマダ、イタブリガイ、ガ……」
あァ~……。
シャットダウン、シャットダウン。
「うるせェなァ。実にうるせェよお前らァ。ごちゃごちゃと頭ん中で、うるせぇんだよォ……なんだァ、レベル39のミノタウロスキングだァ~ア~?」
ビートなんたらを引き寄せた俺はそれを肩に担いで、視界に映る牛のステータスをチラリと見てみる。
名前:怒りのミノタウロスキング LV.39
HP<ヒットポイント> 8500/8500
SP<スキルポイント> 400/4000
MP<マジックポイント> 0/0
STR<腕力> 1070+1070
DEF<耐久> 550+550
AGI<俊敏> 320+320
MAG<魔力> 0
DEX<器用> 459+459
LUK<幸運> 55+55
へぇ。こりゃまあ大層なステータスだねェ。
……よっと。
「ブフフッ! ワガハイハミノタウロスキング!! キング様ノコノチカラニ、怖気ヅイタ――カ……?」
跳躍。
手の中にあるビートアックスに流れる橙色の属性オーラが最大限まで跳ね上がっていくのを感じる。
やがてミノタウロスの全身よりも大きく膨れ上がったビート……いや、オーラアックスを振り上げ、
「キングキングキングってさァ!! わからねェかなァ……キングは俺だよ、俺様なんだよォ! いい加減、バグってんじゃねェぞォ、みのちゃんさァアアア!!」
脳天めがけて力任せにぶった切ってやる。
「バ、バカナ……ドォシテ、小娘ガ、コンナチカラヲ……!?」
「テメェ如きがキング語ってんじゃねェよ……。この俺様こそが
「ブ、ブフッ……。ワガハイ、コソ、キン――」
次の瞬間、王冠の先端から遅れて迸っていくオーラの刃によって頭からパックリと真っ二つに割れるミノタウロスキング。
血しぶきの代わりに、大量のマニラとアイテムを周囲にぶちまけるそいつのあっけない二つの亡骸の中央で、俺は髪をかきあげて笑った。
「あーあ、ざまァねェ姿だねェ……。俺様の可愛いシャノンを泣かせた罰だ」
橙色のまとわりつく電流と、バチバチ音を鳴らして興奮している巨大なオーラアックスを一つ振り、元の斧へと戻す。
「ちっ、なァにがキングだ。しけてんな」
そいつから出たたくさんのドロップをミラコンをかざして回収していると、急に視界が明滅し始めました……ぜ。
「んう……あ、あら?」
なんですの、この視界の右上で減っていってる数字は。『残り24秒』って。
「マ、ママ? 元に戻ってるですぅ?」
怯えた表情で壁の陰から顔を出すシャノン。
「どうしたんです、シャノン。わたくしの顔に何かついてますの?」
乾いた目をこすりながら言うわたくしに向かって、
「ふえぇええん、色んな意味でスゲー怖かったですぅ~!」
ぴゅーっと飛んで腕に抱きついてくるその子にわたくし驚いてしまいましたの。
よくわかりませんが、とりあえず撫でておきますわ。
「あら? そういえばミノタウロスキングさんはどこへ行ったのでしょう。ミラコンから反応が消えていますの」
☆ No.8 クエスト【ミノタウロスキングの怒りを静めろ!】――クリア!
「クリア……?」
どうして怒りが静まっているんですの?
そういえばアイテム欄がいつのまにかパンパンに……わわっ!
「はやく外に出るですよぅ! 暴走したままダンジョン内に留まると危ねーのですぅ!」
「な、なんですの……そんなに引っ張らないでくださいまし」
まあ別にアンチコンフュは大量に手に入りましたし、別にこのダンジョンに用はありませんの。
シャノンに引っ張られるがまま、外へ出た瞬間――右上の数字が『残り0秒』と点滅したかと思うと、
「あ……ら……?」
ぐらっと体が揺らぎ、視界が『エラー』『タイムオーバー』『強制神経接続カット』『ビーストオートプログラム移行スタンバイ』などの意味不明な赤い文字の山で埋め尽くされていきましたの。
手足の感覚が……なんですの、チカラがまったく入りません、わ……。
「ななよっ!? いおっ、出てきたわよ!」
「……や、やっぱりセブンスが発動しちゃってる! 姫ちゃん、お願い! ななよちゃんを助けてあげてっ」
こ、この声は……。
むいと、み、やか?
「ママを助けられるですぅ!? ピンクの綺麗なおねーしゃん、しゃのからもお願いするですよぅ!」
「わぁ、可愛らしい妖精さんにゃ……。ま、任せちゃってくださいです。うん、まだ暴走が始まってない――これなら
ふわっ、と甘い香りと柔らかい感触がわたくしを優しく包み込みましたの。
黒いセーラー服を着た女の子に抱きかかえられているようですわ……誰でしょうこの方。
目が霞んできて……ぼんやりとしか見えませんの。
「あの、こ、これを歌雨さん、ちょっとだけ苦いですけど我慢して飲んじゃってくれたら嬉しいにゃって」
試験管のようなものに入った白い液体を口に流し込まれましたわ。
うえ~っ、苦くてドロっとしてますの。
ネバネバと喉に絡み付いて飲みにく……い……。
「……寝ちゃったわね。ありがと、いおっ! 恩に着るわっ」
「姫ちゃん愛してるーっ!!」
「え、えへへ……みんなのお役に立てて嬉しいにゃって。あ、でも、一応安静に出来る場所を探した方が……いいかもにゃって思っちゃったりです」
「そうね、リバランカの宿屋へ連れて行きましょ。あたしはれらをおんぶして行くから、ななよはむいが運んで!」
「うんっ!!」
よっこらせとわたくしをおんぶする感触が伝わってきましたの。
なんだかとっても眠いのですが……でも、むいの横顔を見たら眠気よりも涙がこみ上げてきましたの。
「むい……」
「ななよちゃん? 起きちゃダメだよ。寝てていーよ」
「むい、むいぃいいっ」
ぎゅう~っと抱きつくわたくしに、
「よしよし。もう怖くないからねー。いやぁ、甘えん坊だな~、ななよちゃんは」
「にはは。一度むいも言ってみたかったんだよね、このセリフ」と、嬉しそうにわたくしの髪を優しく撫でるむい。
そんな温かい背中を全身で感じながら、そこでスッと意識が飛んでしまいましたの……。
「今度こそ本当に寝ちゃいましたね……皆さんが言っていたように、とっても可愛らしい人だにゃって」
「でしょぉ? ななよはリアクションが可愛くて面白いから弄り甲斐があるのよねー」
「うう。それにしてもこの背中にあたる巨大マシュマロおっぱい――女の子として凄いショックかも。また大きくなったみたいだし。ふええーん……残酷すぎるよぉ、こんなの」
「むいはまだマシな方でしょ……。ったく、いいからとっとと行くわよ!」
「みやかしゃん何怒ってるですぅ~?」
「怒ってないわよっ、あんたバグってんのォ!?」
「ひえーん!? や、やっぱり怒ってやがるですよぅ~!」
……も、もうちょっと静かにして欲しかったりしますわ。
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