第24話
……はあ、ですわ。
「あ、歌雨様よ!」
「ほんとですわ! 歌雨様ぁ~! ごきげんようですっ」
「あら……。ごきげんよう」
どんより顔で登校していますと、いつもの方々がわたくしの近くに駆け寄ってきましたの。
「どうしたんですの? 目の下の隈がひどいですわ、歌雨様」
「何かあったんですかぁ?」
やっぱり、この方々には見えていませんのね。
――わたくしの肩に座る妖精さんの姿が。
「……本当にシャノンの言った通りですわ」
「しゃの、嘘つかないですよぅ?」
ふわふわのウェーブがかった薄い水色の髪の毛。ピンク色のお花を咲かせる瞳でパチクリとわたくしを見上げますの。
このちっちゃな妖精さんは、『シャノン』ですわ。この子はMRO関連以外は舌ったらずのようですから、『しゃの』って自分のことを呼んでますが。
とりあえず、名前が無いと不便なのでさっきとっさにつけた名前ですの。わたくしの好きなチョコレート菓子の名前ですわ。
この妖精さん、誰にでもついていくのかと言うとそうではなく、総合『A』級以上で『選ばれし眼』とやらを持っていないと現実世界までついて来ないみたいですわ。
どうやってついて来たのか訊ねましたら、神経接続チェックをした人にのみMRネットワークの微弱振動が作用して、それが直接脳内へと干渉しているとかなんとか……正直難しいことはよく分かりませんの。
ゲーム内でしたら解放クエストを達成した時点で、説明キャラクターとしていつでもミラコンから呼び出せるみたいなのですが……どうしてリアルにまでついてくる必要があるんですの?
「ふふふのふ~っ。ママと一緒、一緒! 嬉しいですぅ~」
うぐっ……。
そんな素敵な笑顔を向けられたらあまりツッコんで訊けませんの……。可愛いって罪ですわね!
「そう言えば、確かみやかとむいには見えるんですわよね?」
「ですですぅ。しゃのが特別に表示オフにしてるので、ママのお友達の二人は『選ばれし眼』が無くても見れることが出来るですよぅ。でも、他の人は眼を持っていないと見えないですぅ。その人に妖精さんがついていれば、その妖精さんを見ることも出来るですよぅ?」
「そ、そうですの……」
選ばれし眼、ですか……。
わたくしが何でそんな眼とやらを持っているのか不明ですが、これはきっと喜ぶべきものなのでしょう。
だって『特別』と言われて嫌がる人はいませんわ……うふふっ。
「まあ、大体のことは理解出来たつもりですの。改めてよろしくお願いしますわ、シャノン」
「うん! しゃの、ママだーい好き!」
「あらあら、まぁまぁ……。顔面に抱きつかれては前が見えませんのよ」
なんて。シャノンの可愛さに鼻の下を伸ばしまくっていましたら、
「いつもの歌雨様じゃない……。やっぱり様子がおかしいですわ!」
「き、きっと疲れていらっしゃるのよ」
「成績トップを維持するにはきっとわたし達みたいな平民には分からない大変な努力をされているんですわ」
「ああ、なんていじらしく儚げな歌雨様……」
なるほど、ですわ。こうやって勝手な妄想と噂が広がっていくんですのね。
呆れながら見ていますと、最後には「ごめんなさい、わたし達では歌雨様のお力になれませんわ! 精進してきますっ!!」と嵐のように去っていきましたの。
「ほ、本当に毎度毎度よく分からない方々ですわね……。あら、あれはみやかとむいではありませんのっ! ごきげん……きゃっ!?」
手を振って近づこうとしたとき、誰かにぶつかってしまいましたわ。
「いたた。ごめんなさいまし、お怪我はありませんか?」
倒れてしまった方に手を差し伸べたのですが――
「歌雨様……?」
「あら? 貴女……確か
朝の太陽の光のせいかキラキラ輝く綺麗なショートカットの白髪。そして眠そうなレモン色の眼……と言いたいところでしたが、ビックリしたようにまん丸なおめめになっておりましたわ。
視線の先は、わたくしの肩。シャノンも驚いた顔をしていますの。
「……もしかして、『見える』んですの?」
そう訊ねると、その方はコクリと頷いて、
「肯定」
ギュッと手を握って立ち上がりましたの。
わたくしと同じくらいの身長の彼女はジッとシャノンを見たかと思いますと、無表情に戻った顔をこちらへと向け、
「そう……。歌雨様も選ばれたんですね。私の名前は
れら、ですか。れいらの方が可愛らしい響きですのに。
それよりなんだかこの方、敬語に慣れていなさそうですの。
「わたくし『も』ということは、れいらさんも選ばれし眼とやらをお持ちですの?」
「……はい。昨日ダイブしてチュートリアルをクリアしたとき妖精さんに言われたかもです」
特別って言ってましたのに……すぐに眼を持った人に会いましたわよ。
「眼を持った人たちは惹かれ合うってゲームマスター様が言ってたですぅ」
「……まさかそんな不可思議なこと。現実世界ですわよ、ここ――って、シャノン! 貴女わたくしの心を読みましたわね!?」
「えへ。たま~に読めるですぅ」
「こら! プライバシーの侵害ですのっ!」
捕まえようとすると、キャッキャと楽しそうにひらひら飛びまわりますわ。
もう、遊んでるわけじゃありませんのよっ。
なんて追いかけっこをしていますと、
「あんた達、朝からなあにやってんのよ……」
「わ~い! れらちゃんだ~っ!」
わたくし達に気付いたむいとみやかがこちらへとやってきましたの。
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