第23話

「朝よ~。ななよちゃん、おっきおっきの時間よぉん」


 んん~っ。お姉ちゃんの声?

 昨日は徹夜して疲れたのですわ。まだ寝ていたいんですの……。

 お布団をかぶって寝返りを打ったのですが、


「おっきおっきしなくちゃ、めっ! 遅刻しちゃうでしょ~ん?」


 ガバッ! と布団を剥がされてしまいましたわ。

 もうっ、乱暴ですわね……って、な、なんなのでしょう?

 固まった笑顔で凄く見つめられていますわ。


「……もうっ、そんな生まれたまんまの格好して。真っ白のすべすべモチモチのお肌に、可愛らしいピンク色がちょこぴんっ……。お、お姉ちゃんを試しているのぉん? ……ハァ、ハァ」

「げっ!?」


 しまった、ですわ!

 あれからみやか達にバイバイして帰ったあと、すぐにパソコンをいじっていたもので……。


 BEO2からMROにシステムアップデートしたり、色々設定を変えたりヘッドセットを改造したり。

 なんやかんやでお風呂にも入れませんでしたわ。

 そして最後には眠気に負けてパジャマへ着替える途中で力尽きたんですの。


「ねぇ~え? どうせだったら、その邪魔な赤いおパンツも取っちゃいましょうよぉん……。っていうかぁ~赤い色っていうことはもうそういう意味・・よねぇ?」


 ニコニコ笑顔のままにじり寄ってくるお姉ちゃんの手からおたまを奪って、ぽこんっ! と、頭に一撃をお見舞いしてやりましたの。


「着替えるからあっち行きやがれ! ですのっ!!」


 首根っこを掴んでわたくしのお部屋からポイ~ッと捨ててやりましたわ。

 鍵を閉めたドアの向こうから「あ~ん、ななよちゃんから誘ったくせにぃ」とか何とか言ってやがりますが、赤い下着を無理やり着せたのはお姉ちゃんの方なのですわ!

 まったく、朝からもうっ……あら?


「そういえば、わたくしさすがにブラジャーは着けたまま寝たつもりなのですが」


 と、部屋を見渡してみましたら――赤いブラジャーが部屋の隅に落ちてましたの。

 フロントホックの金具部分がブチ切れておりましたわ……。

 無言でわたくし、自分の胸をむにゅりと持ち上げて、


「……また大きくなったみたいですわぁ。まさかMROで遊んだから? なんちゃって……ですの」


 トホホと肩を落としましたわ。って、いたたっ! 胸の重さでずっこけてしまいました……。

 く~っ、こんな邪魔なものいらねーですの!!

 ベッドに怒りのヘッドバンキングを叩き込んでいますと、


「あら……? これは、なんでしょう」


 パソコンのモニターに何かが点滅していましたの。


【ピース様、おめでとうございます! メロガチャチケットを7枚進呈します!】


 ああ、確かMROの公式サイトにログインしたままでしたわね。

 なんでも公式サイトに自分のIDとパスワードを入れてログインすると、今まで戦った敵の数や装備データ、ステータス、その他色々がダイブしなくとも現実世界で確認出来るようですの。

 簡易ミラーコンパクトみたいなものらしいですわね。しかも、面白いことに仲間――ゲーム内でパーティを組んだ方たちのステータスやアイテム、装備なども見れるのですわ。


 それはともかく、と。わたくしはサクッと着替えを済ませるとパソコンの前に座って、


「……なんですの。このメロガチャっていうのは。メロはMROの略称でしょうか。でも、ガチャチケットって……? そういえば、公式サイトにログインしたときも何枚か貰った気がしますわね」


 ええと、わたくし『ピース』の詳細情報を見てみますの。

 ああ、ありましたわ。

 カバンアイテム欄の中にチケットが5枚――初回ダイブボーナスの3枚と、デイリーダイブボーナスの1枚、そして3つのチュートリアルクエスト達成報酬の1枚。

 とりあえず整理して12枚になりましたわ。みやか達は……あら? お二人は5枚のままですわね。

 なんでわたくしだけ7枚も多く……? チカチカと点滅しているおめでとうございますの画像をクリックしてみると、


【デバッファープリンセスモードへの変身! 一番乗りボーナスによって7枚進呈させて頂きました。……デバプリ全人口1/1 第1位ピース(貴女です)】


 ちょ、ちょっとどういうことですの!?

 全人口って、たった一人しかいないじゃありませんの!

 いくらなんでもここまで不人気プリンのはずが……。


「今の最新データですとぉ、アタッカーが4割、ディフェンダー2割、ヒーラーが3割、バッファー1割だったはずですぅ。デバッファーは本当にママ一人だけですよぅ?」


 パソコンデスクの端っこにちょこんと座る妖精さんが足をぶらぶらさせながら言いましたの。


「そうなんですの……。サブクラスは固定のままみたいですからバッファー系は気軽には選ばれないんですのね。そりゃ無難なアタッカーとかを選んでしまうのは当然ですの。とはいえバッファーの1割でも相当な人数いると思いますが――って、ええええ!?」


 わたくしの驚愕声にビクッと体を震わせる妖精さん。


「ど、ど、どうしたですぅ!?」


 虹色の光とお花の香りを振りまきながら涙目でおろおろとわたくしの周りを飛んでいますが、


「どうしたはこちらのセリフですわ! なんで貴女が……ゲーム内のキャラクターである妖精さんがこちら現実世界にいるんですの!?」

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