第19話
「もうっ、むいってば! いい加減に機嫌を直してくださいまし。わたくし達、むいのことを踏みたくて踏んでいたわけじゃありませんのよ」
「そうそう。不可抗力だったんだってば~」
「ふーんだっ。二人がいっぱいむいのこと踏むからHPが20ポイントも減っちゃったよ」
盾役だからというのもありますが、むくれ面で先頭をずんずん歩いていくむい。
と、その時。前方の暗闇から二匹のウルフが飛び出してきましたの。
「ウルフか……あたしは回避に徹するわ。むいっ、やれるわね!?」
「うんっ、任せて!」
即座に腰からロングソードを抜いて、構えるむい。
光る刃を見たのでしょうか、むいへと襲い掛かるウルフに、
「ごめんね……らいらい、『
横薙ぎ一閃。雷を纏った刃によって一撃でウルフは消滅しましたの。
『雷迅』というのはロングソードに雷属性を付与した際に武器につく特別スキルのことですわ。
その武器を装備したときしか使えないのですが、どんなクラスでも使えるのが強みなんですの。消費SPが少なめというのもポイントだったり!
「やるじゃ~ん! むい、カッコよかったわよっ」
「えっへへー。もっと褒めて褒めて! むいむいっ!」
ぴょんぴょこ飛び跳ねながら三本指のスリーピースを両手で決めるむい。
指が六本、むいの名前も『六』だからと小学生のときにむいが自分で決めたポーズですの。
本当にあの頃から全然変わっていませんわね。ま、機嫌が直って良かったですわ!
なんて。喜ぶむいをニコニコと眺めていましたら、
「げっ、もう一匹そっち行ったわよ! ななよっ!」
って、わたくしですの!? そういえば、まだ残り一匹いましたわね……!
サッと、背中に担いだ斧を取り出したわたくしは――わたくしは。
あ、あら……?
「あーっ!! 素手のまま来ちゃいましたのっ! 露店で武器を買うの忘れましたわぁああ」
ひえぇえ、激昂したウルフが物凄い勢いで向かってきますわ!
あ、あっち行ってくださいましっ!
「ダメ。ななよちゃんを傷つけないで……」
やけに低いむいの声。
「えっ?」
驚いて聞き慣れない声の方へ視線を向けると、
「らいらい、『
ゆらりと、むいが気だるそうにロングソードを振り上げた直後、剣先からとてつもない電撃が
紫色の電撃……な、なんて迫力ですの!?
その巨大な紫電撃は一瞬でウルフを黒こげにしちゃったのですが――いえ、それよりも何ですのあの眼は!
「む、むい……。あんたその眼どうしたの?」
「はぁ、はぁ、はぁ……っ」
みやかの質問には答えず、ただひたすらに肩で息をするむい。
HPゲージは減っていませんの、でもスキルポイントは空になっちゃっていますわ。
「ななよ、あんたもあの輝く眼を見たわよね?」
「え、ええ……」
確かに見ましたの。一瞬だけむいの紫色の瞳に火花が散ったかと思うと、キラキラと明滅し始めたのを。
こ、こんな不気味に眼が光り輝くスキルなんてありましたっけ……。
「ふ~。危なかったね、ななよちゃん……。あれれ、二人とも怖い顔してどうしたの? 先、行こーよっ」
と。満面の笑みでわたくし達へと振り返るむい。
も、もしかして気付いてないのでしょうか……? みやかと不思議そうに顔を見合わせたのですが、答えは出るはずもないですの。
むいの言うとおり、とりあえずは先に進みますわ!
◇◇◇
暗くてジメジメした洞窟内を三十分くらい歩いた頃、一際明るい広場に出て、わたくし達は一斉に座り込みましたの。
「ひえー。いっぱい狩った気がするぅ。なんだかんだでむいのレベル4まで上がっちゃったもん」
「わたくしもヘトヘトですわ……。素手でウルフを狩るのがこんなにキツイものだったなんて……トホホですの」
「だから引継ぎすれば良かったのにさー。んじゃ、ちょっとここいらで休憩しましょ」
簡単なダンジョンかと思って、アイテムも買わないまま来たのが間違いでしたわ。
せめて五個くらいポーションを買っておけば良かったですの。あと、VRMMOなのでお腹も空きますし、喉も渇きますから料理とか飲み物も必須ですわね。
とりあえず座ってしばらくすればHPだけは回復しますし、それまでゴロゴロと――
「あ、あれ!? みやかちゃん、ななよちゃん、ミラコン見て!」
「なんですの……急に。あっ!!」
見てびっくりですの!
ミラコンには、『☆ No.2 クエスト【ウルフの洞窟を踏破せよ!】――クリア!』と表示されていました……でも、そのすぐ下に、
『☆ No.3 クエスト【ウェアウルフを討伐し、妖精を解放せよ!】――開始!』
ウェアウルフって、あの狼男のことですの!?
BEO2ではもっと後半に出てきたと思うのですが……まさかこんな序盤で出てくるなんて。
「なぁるほど、そういうことね……。ざんね~ん。二人とも、休んでいる暇は無さそうよ」
愉快気に笑いながら立ちあがるみやかは、何かを見上げていましたの。
あれは……鳥カゴですの? 空中に不思議な鳥カゴが浮かんでいますわ。
「……妖精さんだ! あの娘を解放するんだねっ」
むいには見えるんですのね……わたくしには中の妖精さんまでは見えませんわ。
唇を噛みつつ、さてどうしたものでしょう……と鳥カゴを見上げているわたくし達の前に、金色のふわふわしたワタ飴のようなものがたくさん現れましたの。
「な、なんですのこれ!?」
「……むい。あんた確かBEO2の情報、ほとんど頭に入っていたはずよね。ウェアウルフのことについて知ってる?」
「うん! 実際に遊ぶよりプレイ動画みたり攻略サイトを見て覚えるほうが好きだったから、大体のことは頭に入ってるよ。えっとね、ウェアウルフはBEO2だと、3時間以内に狩られたウルフの数だけ強くなって巨大化するはず……この金色のモヤはウルフの魂だよ!」
そ、それってまさか――
「……さあて、ここで問題。あたし達、今まで何匹ウルフを狩ったかしら? 来なさい、『火蜂』……!」
手を空にかざして火蜂を呼ぶみやかの額に、冷や汗が浮かんでいましたわ。
かなり広いこの空間でさえも、窮屈に見えてしまう程のウルフの魂。
それらが鳥カゴの周りへと吸い込まれるように集まったそのとき。
巨大なキバが鳥カゴを咥え――そしてわたくし達の前にその姿を現しましたの。
「おいでなすったわねぇ、エリアボスの『ウェアウルフ』さん……!」
金色の狼。
全長50メートルは余裕でありそうなその狼は、緩慢な動きで鳥カゴを咥え直すと、わたくし達を睥睨しましたの。
「……くっ! みやかちゃん、ななよちゃんを『後方』にさせて!」
「パーティリーダーじゃなくても隊列は変えられるわ! ななよ、ミラコンのパーティタブから『後方』を選んで!」
「りょ、了解ですわ!」
すぐに言われたとおりミラコンを操作すると、わたくしのゲージの上にある名前……『ピース』の文字色が『前方』の白から『後方』の黒へと代わりましたの。
「出来ましたわ! す、すみませんが、今回だけ盾役をお願いしますの……むい!」
「にはは……盾は持ってないけど、ライソでなんとか弾いてみるよ」
むいがライソ――雷のロングソードを構えた直後、ボスの体力を示す赤いゲージが視界の上部に現れました……って、なんですのこの長さ!
「そりゃトーゼンよねぇ。かる~く1000匹は倒しちゃったんだから」
「えへへ……これってきっと、最高の段階まで強化されちゃった狼男さんだよね」
二人ともなんでそんなに楽しそうですの!?
あわあわと、みやかの後ろに隠れたわたくしは、ちらりと見てしまいましたの。
ウェアウルフの尻尾が巨大な鎖へと変化する瞬間を!
「みやか、むい! 尻尾に要注意ですのっ! BEO2のウェアウルフとは一味違うみたいですわ!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます