第18話

 レベル上げしますの! と意気込んでいましたのに、道中は何のイベントも起きませんでしたの。

 暖かい日差しに、耳に入ってくるのは川のゆるやかなせせらぎと小鳥たちの声だけ。

 ああ、あと他プレイヤー達のガールズトークなどが聞こえてきましたわね。


 猫じゃらしをぶんぶん振り回しながら鼻歌交じりに青空を見上げていたむいは、


「あふぅ。いいお天気だねぇ……。現実だと真っ暗な夜なのに、ほんと不思議! あははっ」

「はーあ。行く途中、モンスターの一匹も出ないとはね。チュートリアルクエストだからかもしんないけどさー、もうちょっと刺激が欲しいわね」

「……レベル1のままダンジョンに行っても大丈夫なのでしょうか。もう一度、街の前まで戻ってウルフ狩りでもしたほうがいいかもしれませんわ」


 そんなことを言ってましたら、到着したようですわ。

 大盛況といった具合にわたくし達以外の方々が行列を作っていますの。


「見た感じそこまで広くなさそうな洞窟ですわね。それにしても、こんな大勢で入ったらクエストどころじゃなさそうですの。満員電車みたいなことになっていそうで憂鬱ですわ……」


 行列の後ろに並びながら溜め息をついていますと、


「ところがどっこい、ダンジョンに限ってはパーティだけで突入するか、他プレイヤー達とマッチング一緒に行動するか選べるみたいよ」

「そうなんですの? BEO2とは色々と違うんですのねぇ。こういう細かい修正はありがたいですわね」

「ねーねー。みやかちゃん、むい達ってパーティ組んでたっけ? BEO2のとき、組んでたらみんなのHPとかSP見れた気がするんだけど」


 そういえば、わたくし達一緒に行動しているだけで、『パーティ』は組んでいませんでしたわね。


「あっ! そうね、パーティ組めばあたしが攻撃しても二人に経験地入ったかもしれないのに……すっかり忘れてたわ」


 慌ててミラコンを操作するみやか。

 パーティといえば、『最後に倒した人が経験地を獲得』か、『みんなで分配』か選べるはずですの。

 ほとんどは『みんなで分配』にして、敵を倒すことが出来ないヒーラー回復役さんやタンク盾役さんにも経験地を渡せる形にしてますわ。


「どう、ちゃんとパーティ組めてるかしら? あたしがパーティリーダーで、二人とも前方にしといたわ。戦士と盾だからいいわよね」

「うん! みんなの体力ゲージとか端っこに出てきたよ。前方でオッケー! みやかちゃんは後方だよね?」

「もちろん。ガンスリンガーは基本は後方だからね。後方でも『攻撃半減』のデメリット無いし」

「前と後ろシステムは今回もあるんですわね。むふーっ、パーティバトルも期待できそうですわね!」


 パーティを作った際にリーダーが決める、『前方』か『後方』はパーティメンバーをどの位置に設置するか決めることが出来るシステムですの。

 『前方』に位置する人は攻撃、防御、回避が素ステータスそのまま反映されるのですが、『後方』では攻撃が半減する代わりに防御と回避が150%まで上昇されますわ。

 あと、他にも前方のときにしか使えないスキルがあったりだとか、後方はヘイト――敵からの注目度が下がったりとか色々ありますの。


「あら? なにかしら、このパーティ項目の『歌姫』っていうの。こんなのBEO2ではなかったわよね……『前方』と『後方』だけじゃないのね」


 三つ目の『歌姫』? 確かに謎ですわね……。

 みやかのミラコンを覗いていると、隣に立っていたむいがツインテールを揺らして、


「ななよちゃんななよちゃん、視界の端にみんなのHPゲージ映ってる?」

「ええ。映ってますわよ」


 体力ゲージヒット:HPを表す緑色のバー、技ゲージスキル:SPを表す青いバー、そして魔法ゲージマジック:MPを表す橙色のバー。

 最後にピンク色のハート……って、これなんですの?

 わたくしが首を傾げていますと、


「ね! みんなのゲージの横にピンク色の大きなハートがあるでしょ」

「ほんとだわ。あら? よく見るとハートの中に小さな二つのハートが入ってるわね」


 大きなハート、その中に中くらいのハート、またまたその中には小さなハート――ワケが分りませんわ。


「な、なんですのこれ……。『歌姫』もよくわかりませんし、説明が欲しいですわね」


 この場にリッスンさんがおりましたら訊けましたのに。

 なんて思っていますと、わたくし達の番が来たようですわ。


「ま、いいわ。新しいシステムはあとで調べるとして、このダンジョンくらいは普通にクリア出来るでしょ。ぱっと行きましょ!」


 ウィンクしてダンジョンの入口へと歩いていくみやか。そして、ぴょんぴょんジャンプしながら楽しそうに入口へと消えていくむい。

 なるほど、ここにダイブするんですのね……と。わたくしは入口部分を手の平で触ってみますの。触れば触るほど水溜りのように波紋が広がっていきますわ。


「えい、ですのっ!」


 目を閉じて、むいみたいにぴょんとジャンプしたのですが……ひゃわわわわ!


「急転直下ですわぁあ~~!!」


 ドスッ! という鈍い音とともに、わたくしどこかに転落してしまったようですの。

 ううん、なにがなにやら……くらくらする頭を振りつつ、立ち上がろうとしたのですが。


 むにゅ。

 ……なんですの、この感触。つるつる、ふわふわ、もちもちな何とも甘美な感触ですの。

 ダンジョン内なのでしょうか、暗くてよく見えませんわ。

 あら? でも薄っすらと何かが見えてきました……。


「ウサギちゃん……?」


 カラフルなピンク色と水色が合わさった子どもっぽいおパンツさんと目が合いましたの。

 無垢な瞳でわたくしを見上げているウサちゃんの視線に耐えられずにいますと、


「……ちっ、なんなのよ。βテストだからってテキトーに転送しやがってぇ。いたたた」


 ウサちゃんおパンツの主が起き上がりましたの。

 み、みやかってば、キャラに似合わずあのようなお子様チックな下着を……こういうときどんな顔したらいいのか分りませんわ。

 誰か知っている方がいましたら、教えてくださいまし!


「ななよ? どーしたのよ、真っ赤な顔して」

「な、な、なんでもありませんわ!」

「だったら目を合わせなさいよ……」


 訝しそうにみやかがわたくしの顔を覗いてきましたわ。

 だ、ダメです、笑っちゃいそうになってますの!


「ごめんなさいですのーっ!」


 その場で顔を隠して座り込んだのですが、


「ひぇえーん! い、いいから二人ともむいの上からどいてよぉ~!!」


 わたくし達の足の下。

 女の子とは思えない格好で(あえて語りませんわ……)潰れているむいを見て、慌てて退きましたのっ!


 ☆ No.2 クエスト【ウルフの洞窟を踏破せよ!】――開始!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る