第14話
泡に入った瞬間、橙色だった海が紫、青へと次々に煌き、やがて目の前に素敵な風景が広がりました。
飛び交う、楽しそうなテストプレイヤー達の声。そのプレイヤーを呼び止めるパン屋さんや道具屋さんの声――ノンプレイヤーキャラクターにしては本物そっくりで凄いですの。
まるで映画に出てくるような西洋風の町並み。
そんなBEO2よりも格段にリアルさを増したVR世界に、わたくし達は言葉を忘れてただひたすらと口を開けて周りを見渡していました。
……あら?
どこからか美しい鐘の音色が聞こえてきましたの。何かイベントでもやっているのでしょうか。
むいもみやかも気付いたのでしょう、
「なんか鐘の音が聞こえるわね」
「すっごいねー。学校のチャイムの音とは全然ちがうよぉ~」
「そりゃ、そうですの……。とりあえず、景色を堪能しながら鐘の鳴っているところまでお散歩してみません?」
わたくしの提案に「さんせ~い!」と両手をあげてバンザイするお二人。
しばらくキョロキョロしたり、周りの人の雑談を盗み聞きしながら歩いていますと、やがて時計塔らしきものが見えてきましたの。
その建物には真ん丸い巨大な時計が二つ設置してあり、そのてっぺんに白い鐘がありましたわ。音の正体はアレですわね。
「わーっ、白くて大きくてかっくいー!!」
「立派なもんねぇ……。あたし、本物の鐘ってヤツ初めて見たかも。って、これ一応ゲームの世界だったわね」
「わたくしもVR世界だっていうことを忘れそうになりますの。頬を撫でる風、焼きたてパンの香ばしい匂い、暖かいお日様のぬくもり……。全てがゲームとは思えませんの」
それにしても、二つの時計ってどういうことなのでしょう。
二つのうちの上側の時計は午前七時二十分を指しているからいいのですが(BEO2でも現実世界とVR世界では昼夜逆転されていましたので)、下のもう一つの時計がよくわからねーですわ。
一体なんの時間を指しているんですの? そもそも時間ではなくてもっと別の――
「ななよちゃん、はい! これあげるー」
ぼーっと考えていましたらむいがチョコバナナをわたくしにくれましたの。
「あら。ありがとうございますわ。わたくし、バナナ大好きですのっ」
「えへへ、ななよちゃんちっちゃい頃からバナナ好きだったもんね。だからこれ買ってきたのー」
「覚えていてくださったんですのね……感激ですわっ! 早速いただきますわね」
受け取って一口食べたのですが、
「は、はふぇえ~……」
あまりの美味しさにお口の端からヨダレがだらだら垂れてしまいました。
凄い、凄いですのこのゲーム! わたくし、バトルよりも食べ歩きを専門にしたいくらい感動を覚えましたわ!
「な、ななよ、あんただらしない顔してるわよ……。ていうか、バナナを咥えながらヨダレ垂らすんじゃないわよ」
何故か赤面しているみやかがハンカチでわたくしの顔を拭いてくださいましたの。
「にしても。鐘は鳴っているみたいだけど、特に何のイベントも起きていないみたいね」
パイナップルのかけらを刺した串をむいから受け取りつつ、近場のベンチに座るみやか。
わたくし達もそれに倣って腰を下ろしたところで、
「なんかね、昨日調べた情報だと最初のクエストは街の外にいるウルフを30匹倒すんだってさ」
イチゴの刺さった串から一個をつまんで口に放り投げているむいに、
「結構多いですわね。倒すにしても、わたくし
「とりゃっ」
ペロペロとチョコ部分を舐めていますと、隣に座るみやかからチョップを食らいましたの。
わたくしの目の前やや上らへんに出てきたHPとSP、MPゲージのうち水色のHPゲージがちょびっと減りましたわ。
HP:49/50
「いたた。いきなり何をするんですの……。最初のダメージがみやかなんてショックですわ」
「あ、あんたがそんなはしたない食べ方してるからよっ、バカ!」
「酷いですのっ。またわたくしの初めてを奪いましたのね……責任をとってくださいまし」
ぽとりと落ちてしまったチョコレートのかけら。それを見つつ、頬を膨らませてみやかに言ってやりましたの。
するとパイナップルの一欠けらを口に入れた彼女は不思議そうに、
「また? あたしななよに何かしたっけ?」
あっ!
わたくしの初めて――
「なんでもありませんのよ、なんでも!」
「ん? ななよちゃん武器を持ってないって引継ぎはどうしたの?」
「!!?」
むい、なんてタイミングで……!
「そういえばそうねぇ。BEO2から引継ぎしたなら武器があるんじゃない? あとレアカードと
お金も……? あ、だから露店から果物串を買えましたのね。
でも、どこにお金があるのでしょう……と、スカートのぽっけに手を突っ込んだとき、変なものが入っているのに気付きました。
なんですの、これ。小型で楕円形のスマートフォンのようなものがついたブレスレットが出てきましたの。
「視界の端にメニューが映っていたBEO2とは違って、メニューを開くのはミラコン端末からするようになったのよ。おかげで視界がクリアになったわ」
み、ミラコン? そういう仕様変更があったとは知りませんでしたの。
わたくしがそのミラコンと呼ばれたブレスレットを装着すると、
「そっか。ななよちゃん手紙読んでなかったもんね。それはミラーコンパクトっていって、メニュー開いたり着替えたり、装備変更したりアイテム使ったりログアウト……全部をそれ一つで出来るみたい」
なるほど、ですわ。
ミラコンの画面にタッチしてみると、薄いオレンジ色のメニュー画面が立体的に出てきましたの。
それを弄っていますと、隣で同じようにミラコンを操作していたみやかが、
「ねっ、せっかくだからみんなのクラスとかステータスとか見せ合いっこしましょ!」
可愛らしいウィンクを飛ばしてきましたの。
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