第12話

 リッスンさんに言われたとおり明滅しているリングをくぐると、


「あ、ななよちゃーんっ! わーいっ!」

「もーっ、遅いわよななよ!」


 ナガジョの制服姿のお二人が飛びついて来ましたわ。


「すみません、ちょっとサブクラス設定に戸惑ってしまいまして」


 ふよふよと浮かびながらむいとみやかの顔を見たのですが……。どうしたことでしょう、目を合わせてくださいませんわ。


「あ、あんたさぁ。服の装備ぐらいしてから来なさいよね」


 頬を赤く染めて言うみやか。

 服……?

 わたくし、おそるおそる自分の体を見てみますの……って、なんですのこれ!? 下着姿じゃありませんのっ!


「な、ななよちゃん、またおっきくなったんだね。むい、ちょっとショックかも」

「赤い下着って……。ななよ、あんたそういうキャラだったの……」

「ち、ち、ち、違いますの! 普段はふりふりの可愛いリボンのついた白い下着をつけてますのよっ! きょ、今日はたまたまお姉様が赤い勝負下着にしなさいと無理やり……ハッ!」


 勝負下着って、まさか今日わたくしがβテストに参加すると知ってのこと!?


「す、全てはお姉様の手の平の上ってことですの!? キーッ、くやしいですわっ」


 わたくしが下着姿のまま頭をぶんぶん振っていますと、


「あははっ。ななよちゃんのお姉ちゃんって相変わらずなんだね。メガネもヘッドホンもちゃっかりカバンに入れてるし」

「ていうかさ、あんたカバンの中身いつも見てないワケ? 教科書出すときにヘッドホンなんて入ってたら普通気付くでしょ」

「……わたくし、教科書はいつも机の中に置きっぱなしですの。それに、お弁当派ではなく学食派なので……カバンは一応持ってきてるだけで使うことはあまりないんですの」


 二人は顔を見合わせて、


「えっへへ。なんか安心しちゃった」

「憧れのお嬢様投票ナンバーワンの歌雨様が置き勉してるとはね。まったく、意外ねぇ」

「そんな投票知らねーのですわ」


 ぶつくさ言いつつ、目の前に表示されているメニューを開いて服のタブをクリックしますの。

 パッと現れてすぐに『装備』されるナガジョの制服。

 防御力は……そもそもついてないようですわ。なるほど、これはあくまで服ということで鎧などとは別の括りなんですのね。


「そういえば、なんでわたくしの服がゲームに反映されているのでしょう」


 普通はゲーム用のキャラクター……アバタープレイヤーの分身を作るんじゃありませんの?

 そう首を捻っていますと、むいが深~いため息をついて、


「……ななよちゃん、やっぱりむいの手紙読んでないでしょ」

「手紙?」

「今朝、下駄箱に入れといたんだよっ! ネットで調べたMROの情報についてだとか、もしテストに参加してもいいよって気になったらお昼休みに噴水の前まで来てね、とかとか!」


 げっ。

 思い出してみましたら、みやかの家で会ったとき『絶対来てくれるって信じてたよ!』とか言っていましたわね……。

 そんな手紙読んでいませんでしたわ……。


「あっ、そんな手紙読んでいませんでしたわって顔してるっ!」


 ギクッ!


「だ、だってしょうがないじゃありませんの。朝登校しますと、必ず下駄箱の中がお菓子や色んな方々のお手紙でぎっしりなんですもの。いちいち読んでいられませんわ! 第一、直接口で言ってくださればよろしいのに」

「言おうとしても、いっつもたくさんの人がななよちゃんの周りにいるんだもんっ! 近づくだけで殺気むんむんだしっ」

「……うぐぅ」


 何も言い返せずにいますと、みやかが呆れたようにサイドテールをくるくる弄ってましたの。


「はぁ。いい加減にそろそろ先進めたいんだケド。ななよのアバターを作らないのって疑問について、むいちょっと説明してくれるかしら」

「うんっ! MROはねアバターとか無くて、自分の姿そのままでゲーム世界に入るみたいなの」

「えっ……」

「ま、あたしはこのままで全然構わないわ。キャラメイクなんて面倒なだけだし」


 そりゃあ、みやかは可愛いしスタイルも美しいからいいですけど……。

 でも、わたくしは自分のちんちくりんな姿にコンプレックスですの。やっぱりキングのようなガチムチの漢キャラにしたかったですわ……。


「むいも、BEO2のときは女の子アバターでやってたし別にいいかなー。プレイヤーの名前が決められないのがちょっぴり残念かもだけど」


 そう言ってペロッと舌を出すむい。


「名前ねぇ。設定が完了次第アイドルネームってのをもらえるんだっけ」

「アイドル……ハンドルネームとかじゃないんだよねー」

「アバターもプレイヤーネームも自由に決められないなんて、本当に生まれたてホヤホヤのテスト版って感じですわねぇ」 


 そんなことを口々に言ってましたら、


『Listen! 楽しそうにキャッキャウフフとお喋りしているところすみませんが、そろそろ先に進んで欲しかったりします』


 少しだけ怒った口調のリッスンさんの声が響きましたわ。


『……目の前のメニュー画面をタッチしてステータスボーナスの振り分けをして下さい。とっととして下さい。早急に。はよ、と。私は女の子らしく少しふてくされながら貴女たちに行動を促します』


 なんでふてくされているのかよく解りませんの……。

 とりあえずわたくし達は慌ててステータス画面を呼び出しましたの。

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