第11話
波の音。小鳥の声。そして、心地良い音楽。
海のような空間の中でわたくしは目を覚ましましたの。
「……はふ。暖かくて気持ちいいですわ~」
BEO2のときはすぐにメイン広場へと転送されて、そこでキャラメイクしたのですがMROでは違うみたいですわね。
『Listen!』
いきなり聞こえた女性の声にビックリしましたの。
透明な海を泳ぎながら周りを見渡してみたのですが、誰も居ませんわ。
『データの引継ぎを行います。BEO2でプレイしていたアカウントIDとパスワードの入力をお願いします』
目の前に薄ピンク色のキーボードのようなものが現れました。
こういうところは変わってませんのね。ええと……これでよし、ですわ。
『フィフス・サーバー所属のLV99ナナシ様でよろしいでしょうか』
YESのボタンをクリックすると、
『本人認証に入ります。虹彩データをスキャン開始……。パターンオレンジ……一致いたしました』
その途端、透明だった海が橙色に輝きはじめましたの。
わたくしの目がオレンジ色だったからこの色になったのでしょうか。
『Listen!』
「こ、今度はなんですの」
このリッスンってのちょっと心臓に悪いですわ……。
『神経接続チェックに入ります。正しく動けるかどうか、そのまま光を目指して向かってください』
神経との響きにちょっと違和感を覚えましたが、とりあえず明るい方向へと進んでみますの。
緩いバタ足で最奥の光のもとへとたどり着くと、
『Listen!』
「はいはい、聞いておりますわ」
『正しく接続がされていることを確認しました。それでは、
ちょ、ちょっと待ってくださいまし。
「あのう、まずプレイヤーの名前を決めるのではないのでしょうか? ナナシはあまり使いたくねーですの……」
と。リッスンさん(勝手に命名してやりましたわ)に問いかけてみたのですが、
『んーと。βテストなのでプレイヤーの名前は決めることは出来ません。全ての設定が完了次第、こちらから貴女に相応しいアイドルネームを付与します』
えっ、なんですのそれ。βテストなのでって意味が分かりませんわ。
まあ……別にみやかに第1位とバレなければなんでもいいのですが。
とりあえず、メニュー画面をタッチしてみますの。ええと、クラス選択は……っと。
「ヴァルキリーナイト、シャドウウォーカー、ストーンアルケミー、エーテルサモナー、フォレストハンター、ブラッディウォーリア……ああ、ありましたの」
ブラッディとか変なのがついてますが、多分これが戦士のはずですわ。
装備可能武器は――剣、槍、爪、斧。
OKですわ! とりあえず斧が使えればそれでいいので、ぽちっと選択しますの。
『次にサブクラスを選択してください』
「さ、サブクラス?」
これは新要素ですわね。
とりあえずどんなものがあるのか見てみますわ。
「アタッカープリンセス、ディフェンダープリンセス、ヒーラープリンセス、バッファープリンセス、デバッファープリンセス。この五つだけですの?」
『はい。プリンセスモードに変身したときの主要効果をあらかじめ設定することでスムーズにかつ有利にバトルを進めることが出来ます』
なんですのプリンセスモードって……。
プリンアラモードとかいうお菓子の名前みたいですわね。
『Listen! それはどんなお菓子なのですか? 私は女の子として大いに興味があります』
「な、生クリームを乗せたプリンの周りにフルーツを盛ったお菓子のことですわ……って、リッスンさんわたくしの思考読みましたの?」
『神経接続オールクリア。思考がハッキリクッキリ伝わってきております。あ、今ドン引きされたのも大いに伝わりました。私は女の子としてショックを隠しきれません』
「…………」
こりゃ、とっとと決めて早くダイブした方が良さそうですの……。
「とりあえずプリンモードがなんなのか解りませんけど、不人気なプリンはどれですの? 性能がイマイチだけど、扱う人によっては使えなくもないとか、クセのあるプリンにしたいですわ」
わたくし、ネットゲームに限らずゲームをやる際は一番不人気なもので遊ぶことに決めてますの。
職業などは万遍なく遊ぶからアレですけれど、武器や防具とか魔法とかそういうのですわね。
だって攻略サイトなどでコレさえ使っとけば無難で強いよ! 的なのを使っても全然おもしろくねーですの。
『あーそういうタイプなんですかぁ。うーん、衣装で決めるというのも有りですよ、と私は女の子としてお勧めしてみます。それぞれ露出具合が違ってたり、可愛いのからカッコいいものまで色々と……』
「おあいにく様ですが、キョーミありませんわ。わたくしは着るより見る専門ですの」
『そ、そうですか。私は女の子としてしょんぼりしながら、デバッファーをお勧めします。すでに四十名弱がダイブしていますが、誰一人このモードを選んでおりません』
「じゃあ、それで構いませんわ」
海の中で腕組みをしながら答えてやりますの。
わりと時間がかかるものですわね……むいとみやかはすでに決めてダイブを終えているのでしょうか。
『お友達のお二人でしたらステータスボーナスの振り分けシーンで貴女のことを待っているみたいですよ』
「えっ!? ど、どーしてそれを早く言わねーですの!」
のんびりしちゃってましたわ! と橙色の海を右往左往するわたくしに、
『だって聞かれなかったんだもん、と私は女の子らしく可愛らしい返答をしてみました』
「よ、よろしくって……そういうのは同姓には逆効果というものですわよっ!」
と、リッスンさんに怒ったその時ですわ。
目の前に光る斧とカードが急に現れましたの。
ビックリして目をパチクリしているわたくしに、
『唐突ですが、BEO2から貴女が持つ最強の武器と最強のカードを引継ぐことになります。この二つでよろしいでしょうか』
ほ、本当に唐突ですわね。
ちょっと眩しくて見えねーですが、これは確かに
どちらもレアリティは最高のXR。久々に見ましたわね……。ちょっぴり懐かしさを感じますの。
『こちらをそのままお使いになる場合はそのまま装備してください。装備出来ない場合はアイテムボックス行きとなります』
「あー……。わたくし、ちょっと事情がありまして、お二人に第1位だったとあまりバレたくないんですの。この引継ぎは出来ればやめたいのですが」
もったいないのは重々承知ですの……苦渋の決断ですわ。
『では、そのままMROの世界にポイ捨てさせて頂きますが宜しいでしょうか』
「えっ!? ど、どうして捨てるんですの! そんなもったいない……というか、誰かが拾ったらどうするのですっ」
『その時はその時です。フィールド、ダンジョン、街、どこかにランダムに転送されます。もし、貴女がこの二つの『最強』を欲する瞬間が来ましたら、武器やカードの名前を呼んでください。すぐにご主人様のもとへ飛んで来ることでしょう』
呼べば飛んで来る……?
わたくしが眉を寄せた次の瞬間、サーバインとウェザー・リポートが光とともにどこかへ消えて行ってしまいましたの。
『引継ぎ設定完了。それではそのまま光るリングのところへと進んでください。お友達が待っていることでしょう。そこでステータスボーナスを振り分けたらいよいよダイブ完了となります』
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