第6話

 薄い扉一枚だけなのでお風呂場でもよく聞こえますわ。


「知ってますの。だから別にどーでもいいんですわ」

「ふぅん。どーでもいいのに、もう一時間もお風呂で悩んでるのはどぉしてかしらぁ~?」

「よ、余計なお世話ですわ!」


 もうっ。お姉様ったら、いっつも意地悪なことばかり言いますの。

 βテストの招待状だって隠しちゃいますし……。

 ま、まあ、別にわたくしには必要ないものですから構いませんけど!


「ふふっ。分りやすくてかーわいいなぁ、ななよちゃんは」

「きゃっ!?」


 いきなり後ろにお姉様が現れましたの!


「はぁあ。姉妹で入るお風呂ってとっても癒されるのよねぇ~。このおっぱいの感触、一日に一度は味わっておかないと疲れがとれないわぁ」


 もにゅもにゅとわたくしの胸を鷲掴みしているお姉様に、


「や、やめてくださいまし! いくら姉妹でもこういうのはおかしいのですわっ」

「そう? みーんなやっていることよぉ。それに、こぉんな劣情を催すようなエッチな身体してるななよちゃんもイケナイのよぉ~?」


 笑顔のままなんてこと言いやがりますの!?

 昔からヘンタイだとは思っていましたが、最近ますますエスカレートしていますわ……。


「それはそうとぉ。ななよちゃん、あの封筒のこと気にならないのぉ~?」

「……うっ」


 お姉様は小悪魔ボイスでわたくしの先っちょを弄りながら、


「だってぇ。とっても面白そうなゲームじゃなぁい。なぁんかぁ、女の子しか遊べないみたいだとかぁ、噂だとぉヴァーチャルアイドル計画とかぁ、歌って踊る新感覚バトルだとかぁ、色んな衣装に着替えられる魔法少女アニメによくあるよーな変身が出来たりだとかぁ~? あはん、とっても楽しそうなのよぉ~?」

「きょ、興味ありませんわ! 大体、なんですのヴァーチャルアイドルって……。VRMMOとアイドルなんて合わせたところで面白くもなんともねーですわ。どうせすぐにサービス終了することになりますの」


 ぷいっとそっぽを向いてやりますの。

 でも、お姉様はまったく諦めない様子で、


「……まぁたそんなこと言ってぇ。体は正直なのよぉん」


 つつーっと、指がわたくしのお腹、いえ……もっと下の方にきたところで、


「いい加減にしてくださいましっ!!」


 べコン! っと、洗面器で頭を殴ってやりましたわ。

 ダブルピースをしたまま、頭に巨大なたんこぶを作って湯船にぷかぁ……と浮かぶお姉様を睨んで、


「絶対絶対絶対、ずえぇったいやりませんのよ! MROなんて!」


 すぐに着替えて部屋に戻りましたの。

 なにが、アイドルですの……。なにが、歌って踊る新感覚VRMMOですの!


「でも……」


 そのとき、ぽわわんと頭の中に可愛いふりふりの衣装を着た女の子達がいっぱい現れました。

 きゃぴきゃぴと短いスカートから生足を出した女の子だらけのハーレム世界――

 わざわざそのようなギルドを作らなくとも、メイン広場に溢れる女の子の山! いえ、むしろ海!? 


「ぐっひぇっひぇ、泳ぎ放題の大天国ですの。じゅるり……。あら? アレはもしかして……」


 ベッドの上に橙色の封筒がありますわ。


「…………」


 ヨダレをパジャマの裾で拭いて、わたくしは扉をそーっと開けましたの。

 お姉様はまだお風呂場で気絶していることでしょう。

 ごくり、とわたくしの喉が鳴りました。


「ちょっと見てみるだけなら……。べ、別にアイドルとかダンスとか歌とかふりふりとか気になったわけじゃねェですのよ!」


 誰にともなく言い訳をしてから、封を切って中の橙色の紙を見てみましたの。

 そこに書いていたのはやはりと言いますか、むいの紙と同じ文面。

 いえ、ちょっと待ってくださいまし……な、なんですのこれは!

 わたくしは最後の一文、小さく書かれていたそれに驚愕してしまいました。


『なお、このβテスターの招待状につきましてはBEO2のファーストサーバーからフィフスサーバーの上位ランカー百名の方たちだけに送っております』


 どういうことですの……。上位ランカー、と言いますか。5鯖の第1位だったわたくしと、第2位のあの美人さんならテスターに選ばれるのも当然のことでしょう。

 でも、これではおかしなことが一つありますわ。だって――


「むいは一ヶ月前に始めたばかりのはず。どうしてあの子のところにMROの招待状が届いてますの……?」


 一つのサーバーに数十万人ものプレイヤーがいますのに――初心者のあの子が100位以内!?

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