第7話
翌日、わたくしは帰宅路をとぼとぼと肩を落としながら歩いていましたの。
「結局、むいに聞けませんでしたわ」
夕焼けに染まる空を見上げて深~い溜め息をつきますの。
「はぁ……。あの子がBEO2をやっていたってだけでも衝撃的ですのに。それどころか上位ランカーだったなんて……」
でも、だったら正直に言って欲しかったのですわ。
……まぁ。第2位に正体を隠しているわたくしが言えたことではありませんけど。
「あーっ! 綺羅みやかさん、やっと見つけました!」
あら? 何かアンダーハウスの前で揉め事が起こっているようですの。
とてとてと近づいてみますと、
「ちっ……厄介なのに見つかったわね」
「もう! お嬢様なのに舌打ちはいけませんって何回言わせるんですかっ。まぁた今日も学校を休んでゲームセンターなんかに入り浸って……せめて校則下校時間は守ってください!」
あれは、にこではありませんの。
相変わらず熱血委員長やってますわねぇ。
鳴島にころ。わたくしより長めの超ロングヘアーがチャームポイントな優等生少女。
その藍色のつややかな髪に、これまた藍色のきらやかな瞳(結構つり目かもですわ)は、とっても魅惑的ですの。
ただ……見た目はお美しいのですが、いかんせん性格がド真面目過ぎるんですの。
それに――
「わーかったわかったって。ちゃんと下校時間は守ってるわよぅ……っていうか、帰ろうとしてたところを委員長が邪魔してきたんじゃん」
「じゃ、邪魔ですって!? いいですか、わたしは委員長としてだけではなく、一個人としてもあなた達クラスのみんなが心配だから見回っているんですっ」
「ふうん。あたしみたいな不良なんかほっとけばいいのにさー。ほんと、優等生よねぇ」
「……綺羅さんだからほっとけないんです」
「えっ、なんか言った?」
「べ、べ、別になんでもありません!!」
「? 変なヤツ……」
にこったら、お顔が真っ赤っかですわ。
ド真面目もそうなのですが、こういう素直になれないところもありまして……いじらしいと言いますか、なんともめんどくせェ性格なんですの。
「だ、大体、学校を一歩出ればそこはすでに魔境なのですよ!? 外には男性もたくさんいますし、もしも綺羅さんが変な男性たちに無理やり暗がりや何処かへ連れて行かれなんてしたら、わたしとしては親御さんに合わせる顔が――」
「うっげ~説教タイムが始まっちゃった。こりゃ、当分帰れそうにないわね……お腹すいてたのに」
あらあらまぁまぁ。第2位ってばしょんぼり顔で座り込んでしまいました。うふふっ、ご愁傷様ですわ。
それにしてもにこってば……。よく似合う赤いアンダーリムの眼鏡もあいまってか、まさに『委員長』って感じですわ。
伊達に小学一年生から今の中学一年生まで委員長をやってねーですの。
「……変わってませんわね」
わたくしとむいが幼馴染だったように、にことも小学生の頃はよく遊んでいましたの。
彼女は小学三年生の頃に転校してきたのですが、付き合いの長さからすれば十分幼馴染ですわね。
でも、最近はむいと同じように全然遊んでいませんの。
それもこれもわたくしがVRMMOに夢中になっていたからでしょうけど……。
ううっ。むいとにこは今でも仲良くしているのでしょうか……。なんだかわたくしだけ輪から外れちゃったみたいで悲しいですの。
自業自得ですわ! という、もう一人のわたくしの声を強制シャットダウンして、わたくしはにことお喋りしようと決心しました。
もうBEO2は無いですの、お菓子とお喋りが大好きな普通の女の子に戻りますわ! 自分勝手なのは十分承知ですけれども……でも、わたくしは!
「あ、あのう……っ!」
勇気を振り絞って声を掛けようとした、そのとき。
「鳴。下校時間のリミットまであと三十分しかないかも……と。ぐいぐいスカートを引っ張ってみる」
自分の行動を口にするヘンテコな少女がいつの間にかにこの後ろにいました。
いえ、いつの間にかというのはおかしいですわね。
思い出してみればさっきからチラチラ見えていたような……感情の見えない無表情なその子は、
「鳴。おなか空いたかも……と。鳴のスカートを思い切ってめくってみる」
ぺろん。
その途端、入口付近で談笑していた男性達の動きが止まりました。
みんな唖然とした表情でにこのお尻を――魔法少女いっかちゃんのふかふかおパンツ(教育テレビでやっている子供向けアニメですわね)を見ていますの。
「ん? なにかスースーするような……って、きゃああああ!! ちょ、ちょっと音無ってば、や、やめなさい! なんて破廉恥なマネをっ」
「肯定。やめるかも……と。スカートを持ったまま、鳴をジッと見上げてみる」
いやいや。手を放して差し上げなさいな……。
わたくしと同じくらい小柄なその面白少女をちょっと観察してみますの。
ショートカットの白髪はモミアゲ部分だけが長く、テキトー感MAXといった感じに乱雑にセットされているのですが……それよりもなんとも特徴的なのは気だるげなレモン色の瞳ですの。
こういう眠そうな目ってなんて言うんでしたっけ、ジト目?
ふーむ、と。あごに手をあてながら思案していたところ、
「……あの人。歌雨様が鳴に用があるみたいかも」
音無という少女が無表情を維持したまま、わたくしを指差しましたの。
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