第36話本当の裏切り者
最初はもうだめかと思った。
だが、案外そうでもなかった。
ベルセルカはとっておきのバフポーションを飲みながらつくづくそう感じていた。
これは、味方に自分自身の能力を底上げしてもらう魔法の効果がある特殊な薬であった。
当然飲んだ魔法薬の効果は、防御力の上昇。
元来の防御力が高かっため、一時的ではあるがかすり傷程度ではほとんど攻撃が通らないほど頑強な肉体となった。
そしてこまめな回復。ベルセルカは魔法が使えない純粋な戦士であるため、これまた薬に頼る事となる。
前後左右見渡す限り敵だらけであるが、それでも大剣を振り回しつつ、薙ぎ払っていけばなんとか対応できなくはなかった。
だが。
「ぐっ!!」
重い一撃。蒼い全身甲冑を着込んだ両手ボウガンの相手から離たれる金属弓。
材質は確認する余裕はないが、石や、鉄ではない。おそらくはミスリル以上の魔法金属で
矢じりが造られているのだろう。
先ほど背中からうっかり喰らった一撃は60万ポイントのダメージを弾き出していた。クリティカルヒットならば軽く100万は越えるはずだ。
たぶん大量のザコ兵士で足止めしつつ、無防備な背中を見せたところでクリティカル狙いで遠距離から狙撃。そういう作戦なのだ。
姑息ではあるが、確実にダメージが蓄積されていく。
なにしろ、蒼い全身甲冑に背中を見せないよう警戒しても、周りのザコを相手をする為にはどうしても大振りな攻撃をする必要があるのだ。その直後を狙い、腕や足を目がけてボウガンを放ってくる。
なんとかして、あの甲冑の弓兵に近づかなければ。
だがどうやればいい。どうすればいい。
そう思っていたところ、ベルセルカの前に予想していなかった人物が現れた。
短い黒髪。黒い革製の手袋と靴。短刀を装備した女性。
「ミッドナイトアイ?!生きていたのか!!」
「私が生きていてはまずいのかしら?」
ベルセルカが葬った西梁国の兵士の死体を踏みつけながら、ミッドナイトアイは訪ねてきた。
「いや。ただあの岩山での戦いの後行方不明になったから、てっきり死んだかと」
「こっちに来てからアンフィヴィアンとかが本物のアンデッドになって暴れ出した時ね。私、いくらなんでも味方に殺されるなんて御免だから。ところで、お手伝いが必要かしら?」
「ああ。頼む。あの両手にボウガンを持った甲冑のやつがこいつらのボスらしいんだが、雑魚が大量に湧いて近づけないんだ」
「わかったわ。攻撃力を上げるポーション持ってる?」
「クリティカル率上げるのなら」
「じゃ、それでいいわ。頂戴」
ベルセルカは攻撃を研ぎ澄ませる魔法薬を渡す。受け取ったミッドナイトアイはすぐさまそれを飲み干した。
「それで作戦はどうするんだ?」
「こういう作戦になってるの」
ミッドナイトアイは唐突にベルセルカの視界から消えた。
左回りに彼の背後に回り込んだ彼女は、両手に所持していた短刀でその背中を切り刻み始めた。
「バックスタブ・・・66回ヒット・・・264・・3823・・・」
わけのわからないの単語と、数字の羅列を、ベルセルカはした。
「・・・気をつけ・・みんな・・・・・・ナイト・・・アイは、裏切り・・・」
背中から夥しい血を流しながら倒れ伏したベルセルカをその場に残し、ミッドナイトアイは両手にボウガンを持った蒼い全身甲冑の傭兵に近づいていった。
「契約通り始末したわ。報酬は守ってくれるのよね?」
『当然だ。こいつのせいで部下が大勢死んでるからな。蘇生魔術の費用も馬鹿にならねぇ。そもそも蘇生魔法つったって必ず成功するもんじゃねぇしな。被害が大きくなる前にとっととくたばってもらった方が有難いに決まってる』
ミッドナイトアイは前方30センチくらいの何もない空間を指で突いた。
「こいつ、チャットで私が裏切者だって言ってるわね」
『ああ。念話の魔術か?心配いらねぇ。鄭国の旦那が頃合いを見計らって妨害の魔術をかけてくれてるはずだ。あんたが裏切り者だってことは誰にもばれてやしねぇよ』
「貴方達以外にはね」
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