第35話かくて主人公は勝利する

 御自慢の『チート能力』がすべて無効化されてしまう以上、もはや攻撃魔法は、いや身体能力向上系を含むすべての魔術は意味をなさなかった。

 屋根をぶち破って羅刹王母が現れる直前まで玉座に座っていた鄭国は、それを見越した上でニホンジンの天主教徒達に支援バフ魔法をかけろと言ったのだろう。

 残り少ない貴重な魔力を浪費させるために。

 そうすれば回復魔法に使う魔力が必然的に足りなくなってくるであろうと考えて。

 後衛にいた魔術師が攻撃魔法を放つ。

 右手で払いのけながらも羅刹王母は真っ直ぐにこちらに向かって『歩いて』きた。流れ弾を鄭国が大慌てで避けているがこれはどうでもよいことだろう。

 左。右。腕を振るうと、仲間の胴体が上下に別れた。

 正面から仲間が仇を討つべく横凪の一撃を銜えようと剣を振るう。

 ジャンプして回避しつつ踵落とし。事前に羅刹王母本人が天井を粉砕していたので彼女が頭をぶつける事はなかった。

 上空から降りてきた左脚の脚撃に頭骨が粉砕される。

 自分達の仲間に兜を被っている者はほとんどいない。仮にかぶっていたとしても結果は同じであっただろう。

 背後から剣を構え、突進していた別の剣士の攻撃を豊かな乳房が擦れそうな僅かな動きで回避。

 そのまま正面突きで鎧ごとぶち抜く。

 さらに右側からきた振り下ろしの斬撃をバックステップで回避。

 引き続き拳の連打。


「く、くるなっ!くるなっ!くるなああああぶへ!!」


 むやみやたらと剣を振り回す剣士の攻撃を余裕で回避しつつ眼の前まで近づき、手刀の一撃で首を刎ねる。


「そうか。わかったぞ。お前。お前も俺達と同じ、いや。俺達以上のチート転生者だな?」


 仲間達が一瞬にして葬り去られていくのを目のあたりしながら、若いのに杖をついた天主教の青年はそう呟いた。


「ちいと?妾はそんな名前ではないぞ?」


 羅刹王母は、『チート』という単語の意味がわからなかった。


「羅刹王母様。チートとは、天主教徒の言葉でございます」


 天主教の国々に外交官として行った事のある鄭国は、チートという単語の正しい意味を知っていた。


「ほう。そうなのか。では鄭国。『ちいと』とは、天主教ではどのような意味なのだ」


「お答えいたします。『チート』とは、騙す。それが天主教の国々での本来の意味、正しい使い方なのです。ですからこの者は、羅刹王母様を詐欺師呼ばわりしているのですよ」


 鄭国は嘘偽りを何も言っていない。それはすべて真実であった。嘘つきなのは、転生チーターである、天主教徒のニホンジン達であった。


「そうか。戦を仕掛けてきた挙句、民の為によき女皇になろうと働く妾を詐欺師呼ばわりとはな。謝るなら命ばかりは助けてやろうと思っておったが」


 羅刹王母は若いのに杖をついた天主教の青年にゆっくりと近づいた。


「やはりお主も死ね」


 その胸に手刀を入れた。


 天主教徒の青年が着ていた衣服は、布製であった。

 金属製の鎧よりもいとも簡単に突き抜け、血に塗れた女の腕が背中から見えた。

 だが、それを若いのに杖をついた天主教の青年が確認することはなかった。

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