第32話玉座に座し、偽りの王
「今来た道を戻ってさっきの角を左。そして最初の角を右」
一同は自分達と同じ天主教の装束に身を包んだ『れべる1』とやらの女性達に渡された地図通りに進んでいった。
そして。
廊下同様赤を基調とした室内。漆塗りの玉座の隣には大きな銅鑼が置かれている。
その玉座に、一人の若い男が鎮座していた。
黒い長髪で眼鏡をかけている。
袖が長く、丈の長い緑色の服を着ている。
「お前が、この国の国王か?」
若いのに杖をついた天主教の青年は問うた。
「国王の定義が汝ら天主教徒と同じかはわからぬがな。政を為す人物と言えば私は国王になるやもしれん」
彼は言った。
「貴様を倒し、この国をよいものとする!!」
「具体的には?」
「はっ?」
「具体的な対案があるのだろう?」
「魔法学科を造って教育を浸透させる!!」
「辺境の村を脅かすゴブリン共を一匹残らず駆逐してやる!!」
「糞尿を利用する!これで農産物の生産効率が上がるぞ!!」
「木を切るんだ!!木炭を造って貿易すれば儲かるぞ!!」
「河川から水を牽いて治水工事をすれば穀物生産量が上がるぞ!!」
国王らしき男は天主教徒の提言を鼻で笑った。
その多くは、既に自分がやっている物であったり、或いは机上の空論の時点でやる価値のない物であったからだ。
が、その説得をするために割く時間は生憎と彼にはない。
そんな事に無駄な時間を費やすのならば、この場の戦いを早々に終わらせ、街に大きな被害を出さぬよう街壁で数千人を越す天主教の山賊団を食い止めている兵士達の応援に向かうべきであろう。
そういう意味では、彼と、若いのに杖をついた天主教の青年の考えは一致していた。
「11人か。まぁここまで来たのならばそれなりに実力のある連中だろうな。ところでお前たち。もう一つだけ尋ねていいか?」
「なんだ?」
「戦闘前に支援バフとやらはかけなくていいのか?」
天主教徒達は互いに顔を見合わせた。
「待ってくれるのか?」
「流石に傷の手当てなんぞはしてやらんが、お前達が私を殺そうとする前に様々な準備をするのは自由だぞ。さぁ支援魔法とやらをたっぷりとかけておけ。それともそのままの状態で戦うか?私は一向にかまわないが?」
玉座に鎮座する男に言われ、天主教徒はわずか。ほんのわずかだけ沈黙する。
「よし、ありったけのバフをかけよう」
命中率上昇。回避率上昇。防御力上昇。攻撃力上昇。
魔法防御上昇。魔法攻撃力上昇。攻撃速度上昇。攻撃回数上昇。詠唱速度上昇。
生命力の自然回復速度上昇。魔力の自然回復速度上昇。
生命力の一時的増加。魔力の一時的増大。
「仕上げに全員にオートリザレクションをかけておくぞ」
若いのに杖をついた天主教の青年は仲間に告げる。
「あれか。一定時間なら一度だけHP満タンでその場復活できるやつ」
「でもゾンビ狩りができるって理由で翌週のメンテで下方修正されて、HP半分連続使用すると減衰状態になって、全能力がリアル時間丸一日低下する仕様になったんだよな」
「運営仕事しすぎだろ」
「支援バフとやらはかけ終わったかな?」
玉座に鎮座する男は尋ねてきた。
「ああ。準備万端だ。これで遠慮なくお前をぶっ飛ばすことができる」
「そうかそれはよかった。実は時間稼ぎをしたかったのは私も同じでね」
「時間稼ぎだと?」
天主教徒のニホンジン達は、あわてて後ろを確認する。長い廊下には、誰もいない。
「安心したまえ。この紅鎧城の正門に置き去りにした君達の仲間は大いにその役目を果たしているようだ。獅子奮迅の活躍をし、正面から無謀な攻撃を繰り返す私の秘蔵の傭兵部隊を追い返すことに成功している。早急に対策を取らせてもらう。が、その前に」
「俺達を始末するってか?」
「いや。君達この紅鎧城の周りを取り囲む壁を、魔法で飛び越えようとして、見事に失敗しただろう?」
「ああ。この玉座に座っていても気づくほど、俺達の仲間の死は重かったか?」
「あの魔法障壁はこの玉座を狙う害意ある者、具体的には君たちの様な天主教徒を自動的に検知し、排除するように張られた八宮九卦陣となっている。さらに攻撃魔法の類も弾き返す。効果のほどは、君達がよく知っての通りだ。だが例外もある」
「例外だと?」
「たとえば、そこの杖を持った天主教の青年。君がおそらくリーダー格なのだろうが、君はこの紅鎧城を取り囲む壁の上を越えるように小石を投げてみたが、どうして『それが爆発しなかったのか』疑問に思わなかったのかな?」
玉座に座る男に言われ、若いのに杖をついた天主教の青年はしばし考える。
「魔法を使わない者は、無条件にあの壁を越えられるのか?」
「それだけでは不足だ。もう一つ条件が設定されている。例えば玉座を奪う意思がある者、例えば私が飛び越えれば自爆してしまうんだが」
言って、長髪の眼鏡をかけた男は玉座から降りた。
「玉座を護ろうとする者ならば無条件に通れる仕様なんだよ」
その瞬間、玉座の間の天井が爆発した。
そして、天井材を構成していた木材と共に、本来玉座に座っているべき人物がその場に降り立った。
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