第31話実際、彼らにとっては最後の迷宮であったろう

 天主教徒のニホンジン達が突入した紅鎧城は砦というよりも宮殿的色彩の強い、平城であった。

基本的に階段のような段差もなければ、物見の塔もない。天主教徒達が知らぬことであったが、そのような軍事的色彩の強い設備は、すべて街中。厳密には街の東側に存在していた。


「妙だな。城の中だというのに兵隊がほとんどいない」


「というより正門で俺達が戦った連中が最後だぜ?」


 人間がいない。廃墟云うわけではない。

 つい先ほども高級そうなドレスを着た女性とすれ違ったし、白衣を着た料理人らしき男が米だか小麦だかわからないが穀物の入った袋を担いでいるのを見た。


「貴族女性レベル20!」


「コックレベル30だ!倒せば食い物が手に入るかな?!」


「食材ドロップしたらどうするんだ?!廊下で調理すんのかよ?」


 長い廊下をあてもなく進みながら、若いのに杖をついた天主教の青年が何かを思いついたように口を開いた。


「そうだ!彼らを殺すのではなく、情報を聞き出したらどうだろう?」


「なに?どういうことだ?」


 仲間のその他大勢の一人が尋ねる。


「彼らはこの広大な、広い宮殿のような場所で暮らしているはずだ。この広大な城で何不自由なく暮らすためのには、この文字通り迷宮の様な建物の構造を頭に叩きこんでおく必要があるんだ」


「それはつまりどういうことなんだ?」


「さっきからすれ違う貴族の女性や、コックは、どこにトイレがあるかとか、風呂があるかとか、そういうことを知っているから生活ができるんだ。そうでなければこの城の中で迷い、廊下の真ん中で餓死して、白骨死体がころがっているはずだ」


「なるほど。だが、それと情報を聞き出す事とどんな関係がある?」


「決まっている。この城の構造を熟知しているのならば、この城の主である国王がどこにいるのかも当然知っているはずだ」


「凄い!やっぱりあんたは天才だっ!!」


 さっそく彼らは情報を聞きだすべく、人を探す。

 すぐそばに開いた木製の扉があった。

 そこは談話室のようであり、三人の女性が御茶を飲みながら談笑していた。

 白い壁紙に、漆塗りの家具。西洋の騎士が図柄に描かれたティーセットを彼女たちは用いていた。


「これこれ~。素敵でしょ~。西夷風の着物ですって~」


「こっちのも面白いわよ?天主教の女騎士が身に着ける具足だって」


「そんなのどこで買ったの?」


「輸入品もあるけど、あたしが着てるのは街の着物屋が仕立てた模造品だけどねぇ~」


「あはははあ~~。実は私のもそうなんだ~~~」


「おい。あんた達」


 若いのに杖をついた天主教の青年は談話室にいた女性達に声をかけた。


「この国の国王の部屋はどこだ?」


 女性達は黙って隣の部屋を指さした。そこには天蓋のついたベッドがあった。


「そこ。羅刹っちゃんの寝室だよ?」


「・・・さすがに昼間は起きてるよな?」


「まだ朝方だよな?」


「えっと、聞き方が悪かったな。玉座の間はどこだ?」


 女性達は部屋の窓の外を指さした。そこには大きな池を備えた美しい中庭があり、さらにその向こう岸を彼女は指示していた。


「あそこらへん?」


「あ、ちょっとまって。今地図描くから」


 そう言うと、『西洋鎧』を来た女性は、毛筆と紙を取り出すと、さらさらと簡単な地図を描いて天主教徒のニホンジン達に渡した。


「はい」


「どうもありがとう」


 地図を受け取ると、若いのに杖をついた天主教の青年は部屋から出ていく。


「おい。倒さなくていいのか?」


 仲間の一人が尋ねる。


「倒す理由がないな。どうみても味方っぽいし、」


 若いのに杖をついた天主教の青年は前方30センチほどの何もない空間を指で突く。


「全員レベル1。友好的だ。ラストダンジョンに出てくるお助けNPCなんだろう」


 お助けNPCとはなんのことであろうか。

 それを理解できるものはこの西梁の国には、広い央原の地のどこにも、いやこの世界のどこにもいないだろう。

 いやもしかしたら異世界人ならわかるのやも知れないが。

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