第30話彼にはすべて倒す自信があった

「すまないが、誰か攻撃魔法をあの赤い壁の真上に向かって撃ちこんでくれ」


 若いのに杖をついた天主教の青年はそう指示した。仲間の一人が軽く小さな火の玉を造り、空に向かって投げる。

 先ほど同様、上空に壁のような物が発生し、魔法の火の玉が砕け散った。

 若いのに杖をついた天主教の青年は道端に落ちていた石ころを拾い、同じように投げてみた。今度は何事もなく赤い壁の向こう側に落ちていく。


「どうやらこの赤い壁には、なんらかの魔力的結界が施されているようだな。強引に突破しようとすると、さっきみたいにドカン。というわけか」


「じゃ、じゃあどうするんだ?」


 屈強な戦士は若干うろたえた様子で尋ねる。


「城には人間が住んでいるのだから、入り口があるはずだろう。おそらく正門からなら普通に入れるはずだ。まぁそれでも無理ならゴリ押しだ」


 警備兵をなぎ倒していくのと、魔力結界を強引に突破するのに必要な労力を考えて、若いのに杖をついた天主教の青年は兵隊を相手にした方がまだ楽そうだと判断した。


「それと街の外で時間稼ぎをしてくれている連中に連絡を。俺達がもし失敗したら、各自の判断で撤退をするように」


「もし失敗をしたらって?」


「一応念のためだ」


「で、入り口探すったってどこを探すんだよ?」


「南だ。北にはさっきレーザー光線を撃って来た化け物共がいるからな。できれば連中とは戦いたくはない」


 化け物。なぜそう決めつけるのだろう?

 あの仏閣にいたのは単眼族や複眼族の若者達。彼らは仏教の修行に勤しむ清く正しい者達なのだ。

 この天主教徒のニホンジン達は歩けば半年もかかる遠い祖国から『山賊家業』をするために旅をしてきて、でも『西梁の言葉は完璧に習熟』しているのだ。

 だから話せばわかるのだ。

 そして仏教に改宗してしまえばよいのだ。

 『ニホンジンにはそれが可能なのになぜ彼らはそれをしようとしないのだろう』?

 まったく。わけがわからない。

 赤い壁づたいに南に移動する。曲がり角を左へ。

 十人ほどの兵隊が守護している場所があった。

 間違いない。城の正門である。


「レベル60警備兵が13人だっ!!」


 屈強な戦士は言った。

 ところで、警備兵と人数はわかるが、レベル60というのはなんのことだろう?

 この西梁国で、いや広大な央原の地において、『レベル』などという言葉の意味を解する者は、いやこの世界中どこを探してもいないだろう。

 もしかすると『異世界人』ならわかるのやも知れぬが。


「ボウガンをもっていない!やれるぞっ!!」


 確かに。街壁の防衛についていた者達と違い、正門の警備兵達は皆、槍と剣しか持っていなかった。


「遠距離から攻撃魔法で仕留めろっ!!」


「うぉおおおおおおおーーーーーーっっつつつう!!!!」


 なんたる一方的な攻撃であることか。

 流石はチート能力者。軽く50間(けん)はあろう長距離から法術、いや魔術を駆使し飛び道具による攻撃を加え、紅鎧城の正門を護るという職務を全うしていた前途有望な若者たちを一人残らずあの世に送っていくではないか。

 城の入り口に、門扉はなかった。夜はどうするつもりなのか。

 彼らは知らなかったが、この紅鎧城では二十四時間城の出入りは自由であった。

 夜は夜勤の者が正門の警備をする方式なのだ。

 ゆえに勢いそのまま。天主教徒達は城の正門を通過する。

 いや。独り。その場に立ち止まった者がいる。


「どうした?」


 若いのに杖をついた天主教の青年は、屈強な戦士に尋ねた。


「ここは、入り口が狭いよね?」


「そうだが?」


「それで、赤い壁の上を飛び越えようとすると、魔法の障壁にぶつかって爆発してしまう」


「ああ。でもここは出入り口だからそれがない。だからここからなら城内に突入できる」


「じゃあ僕はここに残るよ」


 屈強な戦士はそう言った。


「何を言っているんだ?お前?」


「壁の上を登ってこれないのなら、仮に敵の兵隊が城の中に入って来ようとすればここの門の入り口を通るしかない」


 屈強な戦士は、他の天主教の仲間に背中を向けた。


「僕は正面180度の回避率を上げるスキル、90度の防御力を上げるそして、30度の範囲の攻撃を無効化するスキルを持っている。全部パッシブ効果で、MPは減らないんだ。だから、真正面から敵が突っ込んでくるのなら、いくらでも時間稼ぎができるはずだ」


「しかしお前一人では・・・」


「行こうぜ」


 若いのに杖をついた天主教の青年の肩に、仲間の一人が手をかける。


「ここはあいつに任せよう」


「・・・すまん。ベルゼルガ。無事日本に戻ったらパインケーキを奢るからな」


「僕、パイナップル嫌いなんだけど?」


「こういう時は素直に承諾しておくもんだぜ?」


 屈強な戦士を紅鎧城の正門に残し、ニホンジンの天主教徒達は城内に向かう。


「そういえば、その世界に来てから初めて名前を呼ばれたな」


 ベルセルガと呼ばれた屈強な戦士は、そう独り言をつぶやく。彼には、南門から近づく青い鎧を着た集団が見えた。


「平均レベル80か。城の門より街壁を護っている連中の方が強いってことか。城内はどうなんだろうな・・・」

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