第29話立ち昇る絶望の光を越えて
総勢262名の天主教国の者達が一斉に空へと飛び立つ。なんたるチート能力であろうか。
彼らは一斉に楼蘭の都の城壁に。
向かわない。
その一部、33名は真っ直ぐ南に飛んでいく。
「何人か全然違う方向に行っちゃうよ?」
屈強な戦士は報告した。
「敵前逃亡する気だな。やはりクシャナ殿下は正しかったという事か」
「誰それ?」
「無事日本に帰れたら自分のアニメ見ろ。パヤオが監督やった奴だけでいい!!」
「意味わかんないよ?」
「うちらの大将は戦闘前にみんなに食事を取らせたかったんだよ。まっ、食料不足で無理だったけどな」
一緒に飛ぶ仲間の一人が屈強な戦士に説明してやった。
街を囲む城壁が迫る。その上には当然ながらボウガンを構えた兵士の姿が大勢見えた。
「光源の魔法を投げつけろ!」
若いのに杖をついた天主教の青年の合図と共に、一斉に彼らは仙術、いや魔術を唱え、光の弾をその掌に産み出した。
その光球弾はボウガンを構えた城壁の兵士達の顔面で破裂する。
「ぎゃあああ!!!」
「ぐあああ!!!」
あくまで目つぶし。若いのに杖をついた天主教の青年はこの場を素早く通り過ぎるだけのつもりであった。
だが。
門の上空にとどまり攻撃魔法を撃ち続ける者達がいる。
「何をしているっ!?」
「俺らがこうやって敵を仕留めれば後から歩いて来る連中が楽できるじゃねぇぐああああああーーーー!!!!」
彼らを狙うように門を守備していた楼蘭の兵が連弩を放つ。
遠目に見て八本は突き刺ささったのと、落下して槍で突かれて止めを刺されたのを確認できた。
「俺達の魔力防御結界はボウガンは防げないのを忘れたのか。馬鹿めッ・・・」
死んだ仲間に対し、若いのに杖をついた天主教の青年は侮蔑の言葉を思わず口にした。
壁門の内側は敵兵の数が多すぎる。これでは死体のそばに近寄り、蘇生魔術を試みる事など不可能だろう。
「そういえばどうして俺達の防御魔法はボウガンが防げないんだ?」
「バランス調整だよ!最初に実装された時は魔法、近接、遠距離物理すべてを防ぐマジATフィールド状態だったけどあまりに強すぎるって誰かが運営に文句言ったら翌週のメンテで遠距離物理は無効化できなくなったんだ!!」
「矢よけの魔法があるからそれでバランスは取れてますだとよっ!!!」
「ざけんな運営!!!」
「運営会社なんて名前だっけ?」
「たしかシャーロット・エンターテイメント・ジャパン。だったはずだ!」
「よし。無事日本に帰れたらリアルでオフ会やるぞ!運営会社の入ったビルの前に全員集合だ!謝罪と賠償を要求するっ!!」
『おおおーーーっ!!!』
ウンエイ、とは何のことであろうか。彼ら天主教徒が奉ずる神の名前であろうか。
そういえばこのような話が遠く西梁の国にまで伝わってきている。
天主教の国々では四十過ぎの無職童貞。いい歳して働きもせず、家の仕事も手伝わず、年がら年中遊び惚けている男が突如通りに飛び出し、荷車に轢かれて死ぬ。
そして呼ばれもしないのに天界に行くと、
「俺様がこんな人生を送り、死に方をしたのは神。お前のせいだ!だから次の人生では金持ちか王侯貴族の息子に生まれ変わらせろ!!そして貴様の持っている神の力をすべて寄越せっ!!!」
と罵声を浴びせながら金属バットで後頭部を殴りつけ、神を殺すのだ。
西夷にある天主教の国々は魔法学科というものが多数存在するが、そこでは魔術を使った生徒同士の殺し合いが絶えないという。
おそらく彼らはみな、無職童貞のまま荷車に跳ねられ、天界に行き、そして神々を殺し、その家に放火し、財産を奪い、もとい力を奪って現世に舞い戻り、悪逆非道の限りを尽くすのだ。
それが天主教徒のニホンジンなのだ。
突如、右斜め下方から閃光が伸びた。
それに丸のみにされた天主教の術者が声もなく燃えていく。
「なんだ?」
若いのに杖をついた天主教の青年を筆頭に、一同は右側を、楼蘭の街の北部を見た。
そこには神社か、寺の境内のような広場があった。実際仏閣であった。
等間隔に並ぶ、四百六拾四人の仏僧。
「・・・滅ぼすのだ」
「十字架の罪人を崇拝し、万物の輪廻も知らず、平気で殺生を行う天主教徒共め」
「天地創造者を名乗り、現世に生きる善良なる人々を苦しめる天主教徒共め」
「今こそ優曇華院大僧正よりお借りした御仏の力を行使する時」
「仏敵共を現世より消滅させ、我らの信仰心を示すのだ」
単眼族。複眼族の仏僧は左右の親指と人差し指を合わせ、逆三角形を造り、そして逆向きにして正三角形にして叫ぶ。
「オンキリキリバサラウンケイソワカッ!!」
正三角形から目もくらむ白い柱が天空を飛ぶ、天主教徒達目がけて撃ち出される。
「ぎゃああああああああああ!!!!」
「ぐえええええええええ!!!!!」
光の柱に貫かれた天主教徒は次々と炎に包まれていく。
「レ、レーザー級だ!!」
「どうしてレーザー級が中世ファンタジー世界にいるんだよっ!!?」
「知るかっ!!」
レーザー級?そんな変な名前ではない。彼らは単眼族。或いは複眼族。
一つ目だったり、四ツ目だったりするが、二つ目の人間と変わらない立派な知的種族。
言葉を話し、文字を書き、道具を使い、
食事をし、詩を読み、花を愛し、
そして何よりも優曇華院大僧正様の説く仏教の教えを信奉する信心深き立派な者達。
それをあたかも化け物のように扱うとは。
やはりニホンジンの天主教徒は碌でもない連中だ。
「全員硬度を下げろっ!建物の陰に隠れてレーザーを避けるんだ!!」
若いのに杖をついた天主教の青年は的確に命令を下す。それは正しい判断であった。
閃光に怯え、高度を上げてしまった仲間はかえって狙い撃ちにされ、青空高い場所で燃える花となる。
仏僧の制裁を逃れた者達は赤い壁が正面に見える場所まで辿り着いた。
「あの壁の向こうが城かっ!」
「お先に失礼!」
「おいまてっ!何があるかわからないから全員一斉に」
抜け駆けしようと速度を上げた者がいたことは、全員にとって幸いであった。
壁を越えるため、高度を上げた次の瞬間、その天主教徒は赤い壁の真上。
見えない何かにぶつかり、砕け散った。
先ほどの仏僧の放つ光に当たったわけではない。
仲間が空中で激突死した瞬間、確かに一瞬ではあるが、空中に壁らしきあるものを、生き残りの天主教徒達は見た。
「全員その場で止まれっ!!」
若いのに杖をついた天主教の青年は、仲間達に止まるように命令を下した。
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