第24話ガラクタは島価格で高い値段になるらしい

「これで全部かブフー?」


 八戒は魃の家から彼女の祖父が残したという秘密兵器とやらを運び出し、大八車に載せていた。


「んーこんなもんでえんでにーの?」


 魃は荷物がずり落ちないよう、布をかぶせ、綱で縛る。


「では行ってくるんだブフー」


 八戒は見送りをするアイリーシャと優曇華院に手を振ると。


「例のどこにでもいける宝貝をお願いするんだブフー」


 とミッドナイトアイに要求した。

 ミッドナイトアイは持っていた白い石ころを掲げると軽く念じる。それだけでよかった。

 彼女と八戒。魃とその荷物を載せた大八車はアイリーシャ達を村に残し、白い光に包まれ、その光が小さくなくなって消えると、彼女達の姿はその場から忽然と消えた。

 次の瞬間八戒が目を開けると。


「ここ。楼蘭の大都じゃないブフー」


 そう。ここはミッドナイトアイが貨客船に乗り込んだ山西の港である。


「転移石は一度行った事のある街や城。厳密には登録したポイントにしかワープできない仕組みだからね。じゃあ新しいの買ってくる」


 ミッドナイトアイはそう説明すると船着き場の周辺にゴザを敷いて果物や土産物などを売っていた露天商に向かった。

 そう。『いつもしているように』。である。


「あれ?売っていない?」


「何を当たり前のことを言っているんだブフー?」


「そのような貴重な宝貝がそこらの露店で買えるわけがないじゃないですかぁ。そういうものを造れるのは崑崙山の仙人くらいなもんですよぉ?」


「崑崙山・・・?」


 魃が口にした地名を聞き、ミッドナイトアイはこの央原の地に来てから感じて違和感の正体に気づき始めていた。

 おそらくは。いや。間違いなく。彼女の仲間達を含めて、その事実に気づいたのは彼女が一番最初だったはずだ。

 なぜ、今まで歩いてきた農村が麦畑でなく水田地帯だったのか。

 通りすがる農民などの大半が黒髪黒目の黄色人種。東洋系の人々が圧倒的多数を占めていて、彼女の仲間たちのような金髪碧眼の白色人種。この央原の地に住む住人達が天主教の人々と呼称する国から来た民族が少ない理由。

 ミッドナイトアイは自分の荷物袋の中から薄い青色の液体の入った薬瓶を取り出した。これは先週の土曜、ワゴンセールをやっている人がいたのでつい買ってしまったものである。


「ねぇ。ここらへんでこういうものを買えるお店ってある?」


 魃は薬を受け取ると、手に持ってよく見定めた。


「これはそれなりに値打のある品のようね」


「凄い物なのかブフー?」


「呑むと、しばらくの間体に受けた傷が徐々に自然に治るようになるのわ」


「それは凄い仙薬だブフー!一体どんな偉大な薬師が調剤したんだブフー?」


 回復量5秒ごとに1000ポイント。60秒間効果が持続するそのポーションは西梁国では大変価値のある品らしかった。ミッドナイトアイが元々居た地域(エリア)では、金貨十枚でまとめ買いできる代物である。


「さぞや値段が張ったことでしょう?」


「・・・まぁね。転移石も買った物だけど、ここにはそういうものを売っている店はなさそうよね」


「ブフ?お薬を売っている店ならあるんだブフー」


 八戒がポーションを露店に並べている老人を見つけた。


「おじいさん。これはどんな薬なんだブフー?」


 八戒は老人に尋ねた。


「おお。お若いの。これはどんな傷でもたちどころに癒してしまう仙薬なのじゃ。しかし最近ではめっきり戰もなく。かといって妖怪変化の類が暴れるという事もなく。こういう薬の買い手はおらぬでな。まぁ国が平和なのは良いことじゃ。西梁の女皇様に感謝せねばなるまいて」


「ならオイラ達が買うんだブフー。たぶん使う事になるんだブフー」


 ミッドナイトアイはそれを見たことがあった。回復量10万ポイント。中堅クラス以下及び無化金ならまぁ一瞬で回復するレベルだ。


「何言っているの。あたしお金持ってないわよ?」


 ミッドナイトアイはそう言って、購入を断ろうとした。


「あるじゃないですかぁ。貨幣と魔法石がぁ~」


 魃がミッドナイトアイの荷物袋を本人の許諾なく勝手に開封し、中から財布と魔法石を取り出していた。


「これでお薬が買えるんだブフー。おじいさんこれで薬を売ってほしいんだブフー」


「おお有り難い!まるひと月船着き場で店を開いた甲斐があったわい」


 老人は金貨を100枚を受け取ると薬瓶10本を八戒に渡した。その金貨は、もちろんミッドナイトアイのものである。


「後はこの石で楼蘭の大都まで向かうだけだブフ、あれ。色が違うブフー?」


 八戒は緑色の魔法石を手にしている。


「あ、それは攻撃用の魔法石よ。だからローランとか云う街には行けないから諦めて」


「何言っているの。あれ重力軽減の宝貝じゃない。使ったらなくなるでしょうけど」


 ミッドナイトアイは思った。なんでお前中途半端にこっち側の魔法の知識持っているんだよと。


「どういうのかブフー?」


「八戒。荷物に向かって石をぶつけてみて」


 八戒は魃に言われるまま、積荷を満載した大八車に緑色の魔法石を叩きつけてみた。すると大八車が地上1メートルほどの高さに浮遊し始めたではないか。


「これは凄いんだブフー!まるで重さを感じないないんだブフー!!」


「そら宙に浮いているからね」


「これなら一日で楼蘭に到着できそうなんだブフー!!では出発なんだブフー!!!」


 八戒は大八車を引き始める。魃はその大八車の上に、ミッドナイトアイの全財産と引き換えに買った回復薬10本を載せて乗り込んだ。

 ついでにミッドナイトアイの荷物袋も放り込んでいる。


「どうしたの。あんたも早く乗んなさいよ」


 ミッドナイトアイは黙って八戒が引っ張る大八車に跳び乗った。

 大八車は西梁一。いや央原一の力持ちの豚に牽かれ、文字通り宙に浮くような速度で楼蘭の大都に向かって突き進んでいった。

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