第23話狼煙の原因となった集団

 楼蘭の大都の南東にある小さな農村。

 この集落に明らかに農民とは思えない一群が集結していた。そのいずれもが天主教国風の鎧装束に身を固め、腰や背中に剣を差している。


「不幸中の幸いだったというべきか」


 若いのにも関わらず杖をついた天教国風の装束を着た青年はそう切り出した。


「先遣隊の半数以上が生還できた。それに大きな収穫もあった」


「収穫なんてないだろっ!一方的に攻撃されただけじゃないかっ!!」


 屈強な戦士は杖を持った青年に文句を言った。


「いや。わかったことが二つある。まずこの国の王が俺達の想像通り極めて強硬な性格の人間であろうという事だ。そうでなければいきなり一方的に攻撃してくることなどあり得ない」


「じゃあもう一つは?」


「今手当てを受けている仲間の話によれば、自分達の姿を見つけるなり兵士がボウガンで攻撃してきたらしい。これは大きな収穫だ」


「それのどこが大きな収穫なんだ?」


「実はな」


 杖を呑んだ若者は村の中央にある井戸で汲んだ水を飲んだ。泥水よりかは遥かに旨い。喉も潤う。 だが空腹は満たされなかった。主食の米を始めとして、食料品の大半は村人が逃げ出す際に持って逃げて行ってしまったらしい。


「俺達は、魔法でボウガンを防ぐことができないんだ」


 杖をもった天主教国風の衣装を着た青年を少し残念そうに言った。


「魔法でボウガンを防ぐことができない?なんだよそりゃっ?!」


 屈強な戦士はとても驚いた様子だった。当然である。魔法は万能のはずだ。だから魔法なのだ。人が死んだら魔法で治す。自分の国の隣に凄く嫌な国があったら戦略級核魔法で民間人の住む街ごと吹き飛ばす。それが魔法のはずだ。


「いや。今の言い方は語弊があるな。言い直そう。厳密には回避率や防御値を上げて、ダメージを受ける可能性を下げることができるが、魔法障壁でボウガンを防ぐことはできないんだ。あと、オートリザクションの魔法。あるだろう?」


「俺の持っているガッツのスキルと同じ効果のやつか?」


「そう。一回戦闘不能になってもHP半分で自動復活するやつだ。ただ、一度発動すると五分間再使用は不化になるがな」


 厳密には不可能ではない。ガッツやオートリザクレションで復活した直後は病み上がり状態になり、さらに再びガッツ等の自動再生術で蘇ろうとすると自身の能力が大幅に低下するのだ。当然、元の能力が大きい者、つまりこの場にいる『転生チーター』ほど低下値は大きい。

 当然ながら、毒や麻痺など通常の状態異常とは違い、治療手段はない。回復するまで待つしかないのだ。


「だいたいなんで魔法障壁でボウガンを防ぐことができないんだよ?あれって銃弾でも相手の攻撃魔法でも、なんでも防げる便利魔法のはずだろ?」


「以前、お前と同じことを考えた奴がいてな。運営に問い合わせたらしいんだ?」


「運営に?」


 ウンエイ、とはなんのことであろうか。彼らの信奉する天主教国の神の名前であろうか。

 まったくもってわからない。


「で、運営はなんだって?」


「『ゲームバランスを保つ為の正当な調整です。問題はありません。』だとさ」


「バランスだぁ?」


「実際、魔法障壁で防げないのはボウガンだけで、自動蘇生系のスキルが発動しないのもボウガンだけなんだ。とにかく駄目なのはボウガンだけなんだ」


「じゃあボウガンチーターが最強って事か?」


「いや。単に物理防御を高める装備構成にすれば、ほぼボウガンに対しては無敵になれるから運営の言う通りバランスはちゃんと取れているんだ」


「じゃあ物理防御を上げる装備にすればいいのか?」


「それと魔法防御は両立しないから、確かに運営の言う通りバランスは取れているんだ。間違いなく」


「で、俺達に勝ち目はあるのか?」


 屈強な戦士の質問に、若いのに杖をついた天主教国の青年は。


「ある」


 と短く答えた。

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