第21話別に宿屋を建てねばならないという法律はない

 羅刹王母とその共の一行は神仙道を探求している蚩尤という賢人が住むという小高い山間の村に到着した。


「あんさん方、旅の行商人かえ?」


 やぎを連れたおじさんが話しかけてきた。


「妾達はだな」


「いえ。私どもは皆さまに御仏の教えをお教えいたしに参りました」


 優曇華院は羅刹王母を遮るように前に進み出た。


「なんだ。行商人ではないんか。ちと残念だなぁ」


 おじさんは八戒の大きな荷物を見ながら本当に残念そうに言った。


「なにせここは山にある村だからな塩だの茶だのを麓の町から運んで来てくれる行商人がいると有り難いんだが」


「あら?この村は海に近いのではありませんか?でしたら塩は簡単に手に入るのでは?」


「確かに。地図上では海に近いわね」


 ミッドナイトアイは自分の正面三十センチくらいの何もない空間を突きながらそんな事を言った。


「あれ?ミッドナイトさんこの西梁国を旅したことがあるんですか?」


「いや。この国に来たのは初めてよ。遠くに何があるかとか、そんな詳しいことまではわからないわ」


 アイリーシャの質問に、ミッドナイトアイは正直に答えた。


「いやいや。この村は小さな村でね。店ももちろんのこと酒場の一つもないんだ。だから酒とか醤油とか、そういうもんが欲しかったら麓に降りるか、あんた達みたいなたまにやってくる行商人から買うしかないんだよ。まあ、あんた達は行商人じゃなかったね」


 それだけ言うとやぎを連れたおじさんは羅刹王母達に興味をなくして一同から離れていく。


「あ、ちょっと!宿屋はどこにあるの?」


 ミッドナイトアイは立ち去るおじさんの背中に声をかける。


「ああ?ねぇよそんなもん!」


 威勢よく存在を否定された。


「そういえば最初にこの村に来た時は家畜小屋に泊めて貰ったブフー。大変ありがたかったかったブフー」


 どうやら宿泊したかったら、そのような非常手段を取るしかないらしい。


「さてと、では妾は蚩尤に面会してくる」


「私は御仏の教えを村人に説いてまいります」


「ボクは干し草でいっぱいの家畜小屋を借りてくるんだブフー」


「私は羅刹王母様についていくけど、ミッドナイトさんはどうする?」


 アイリーシャはミッドナイトアイに聞いた。


「羅刹王母についていくか」


 村にいる間中優曇華院の説法を聴くよりかは幾分マシだろうと、ミッドナイトアイはそう判断した。

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