【みー2】 思い出を一欠片ポケットに忍ばせればさよならできるか

▶①

「てらはみとめないのです。そんなことがあっていいわけがない。そんなことをしたらこうが、くつがたこうはもどってももどれなくなるんだよ。それでもいいの」

「愚問だな。神にしては雑な別れの挨拶じゃないか。グッドモーニングとあいさつしたいのならば遠回しにせずに略さずに直接言ってくれ。朝の挨拶にしてはまだ夜明けには早すぎる気がするがな」

「おぬしはいったい……」

「すべてを理解したうえでここまで進めてきた。覚悟を決めてここまで来た。悪いがもう神はお前じゃない。照はどうがんばっても抗うこともできない……悪いな。俺の身勝手なやり口で幕を下ろすことになって。でもまぁ、神様っていつも勝手で気まぐれでわがままなものだろう?」

 未知道乃みちみちのてらはこれ以上何も言わなかった。彼女には申し訳ないが死ぬために、生きて死ぬために死んでもらう。

 あきらめて覚悟を決めた小さな少女に涙を流しながら俺は刃物を立てた。完全に完璧に狙えばいい場所が示された場所をその通りに道しるべ通りに。

 沓形くつがたこうは神ではなくなった少女を殺した。



▶▶▶



 虹別にじべつ色内いろなが俺のいる部屋に戻ってきたのはそれから十分後のことだった。すでに全員の顔掛けを終えてベッドに腰かけて俺は待っていたところだった。

 戻ってきた彼女は白い布を被せられ、変わらずに変わり果てた友人たちとその彼氏と少女を見て膝を折った。きれいにまっすぐに音を立てて崩れた。

「なんで、どうして……。恒が、恒が、やったの……?」

 絶望する顔は見てられなかった。胸が痛んでまたすぐに泣きそうだったから顔じゃなくて目を見た。その眼はどこかに希望を持っていて俺に縋っていた。夢だ。現実じゃない夢だ、と。

 だから俺はこれからこれを夢にするんだ。

「先輩、さすがです。ご明察です。すべて先輩が考えている通りです。俺がこのホテルにいるみんなを殺しました。人間ではなくなってしまった人間ではない俺がやりました」

 俺はこの世界唯一の一人の少女が泣き止むのを静かに見守った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る