▶③

「先日、恋愛相談をしてきた女の子っていうのがこの大仏綾香おさらぎあやかさんでね。先ほどのお礼も兼ねて改めてお願いしてもいいかな」

 俺はいつものように持て成そうとしたが、佐藤に制された。確かに生徒を勝手に持て成すのはいけないような気がする。

「この間はご迷惑をおかけしました。一年二組の大仏綾香おさらぎさやかです。お二人には感謝しています。おかげで、道を外さずに済みました。本当にありがとうございました」

 なんだ。きちんと話せるんじゃないか。もっと感情的な面倒な女かと思っていた。それにしても道を外さずに済んだ、か。細かすぎる俺の指摘は胸の内に留めて置いて話の続きを待った。

「二年生の京介さん……坂田京介さんって知ってますか。実は、その」

「話すって決めたろ。頑張って」

 頑張らないと話せないぐらいなら話さなきゃいいのに。

「私、京介さんのことが……好きなんです」

 告白までの間をあけすぎ溜め過ぎ。あと俺に告白してどうするんだ。本人に言えよ、直接。

 

 どうやら初めて口にしたようで、謎の感動を呼んでいた。こいつら何がしたいんだ、涙流したり胸キュンしたいなら新海誠とか細田守のアニメ作品とか見とけ。エンドレスでずっとプレーヤー回していればずっと感動だ。いいぞ、あの作品はホントに良いぞ。

 冗談が言えるのは何も知らない時だけ。結果を告げられてはぐうの音も出ない。

「実は東楽園花とうらくさやかさんが彼に告白したそうなんだ」

 まったく世の中狂っててマジで追いかけても追いかけても追いつけない。




 ▶今回の依頼内容。大仏綾香の恋愛相談。思いを寄せる相手はこの間問題になった二年二組の坂田京介。彼は現在彼女がいない。これは前回集めた情報の中のどこかで小耳に挟んだ気がするのでおそらく確か。異常なまでにモテてはいるが、それでも作らないのはわざとだろう▶この度障壁となっているのは前回の依頼人である東楽園花だ。何を思い、決意しての行動かは見当もつかないが、東楽は京介に思いを告げた▶その思いが誠か偽りか見定めないといけない。大仏綾香は彼のことを思う気持ちは負けないと言い、真意を確かめて欲しいというのが今回の依頼内容だ▶これは後始末をきちんとせず、依頼者の気持ちだとか言って放り投げた俺らの責任であり末路かもしれない。どちらにせよ受ける他ない。悔恨は残したくない。

 以上だ。




「どう思いますか」

 俺と先輩の二人になって今後の方針を決める審議に入った。物語を作るのにも、捜査を行うのにも方針を示すプロットが必要だ。

「二つ、考えがある。一つ目は単純に好きになってしまった。真実を知ってどう思ったのかは私も聞いてないから分からないんだけど、それでも考えとか気持ちとか、少なくとも影響はあったはず。それなら好意を寄せても不思議じゃないわ」

 なるほど、女子の口から語られるとよくわからんが説得力があるように思える。

「もう一つは初めから好きだったパターン。前回の事件に関してはなんとなくの察しは付いていたけれども確証が持てずにいた。つまり、皆がライバルであることを既に知っていたという仮定ね。自分は静かにしておくのが得策、だからあまり動きたくないというわけで証拠探しに私たちを利用した。実際ライバルは多かったんだ。敵の情報は得ておきたいのは分かる」

「なるほど。どちらにしても真相を知った後の彼女の動向を探らないと。先輩、どうやって調べます? 直接本人に聞くのが一番楽ですが、そうすると何か悟られる可能性もあります。これ以上の泥沼化は正直嫌だな。事態を動かさずに状況を把握してそれを報告するのが一番かと。やはり、外堀を埋めていきますか」

「そうだね、そうしよう。じゃあ、週末のうちにお互いに調べて月曜日に互いに報告ってことで。頼んだぞ、あいぼうっ」

 だが、頼まれて素直に動かないのが俺である。二倍の活動をしたからと言って二倍の成果を得られるわけじゃないので俺は週末ぐらい休みたい! と提案したら、「調査は私が受け持つよ」その代わりに重要参考人に会って欲しいという。お願い、と向けられた先輩の卑怯に俺は屈した。




 このような流れで俺は再びハーレムを形成することになった。興味関心が別に向いているとはいえ、そう、例え俺に対しての興味でなくても、女子に囲まれるというのは男のロマンではないだろうか。まさに楽園! パラダイスううぅ。肉体がそうでなくても精神ぐらいエデンに行かせてくれ。本来なら休みの週末だし。

 エデンの会場となるのはファミレスで、すすきのにあるイタリアン料理をメインとして扱ってる店だ。エデンだからってそれに相応しい会場を用意できるほど経済的に恵まれていない。単純にドリンクバーの飲み放題が安いってだけで選ばれました。

 

 俺は円山に居候しているため基本東西線しか利用しない。道外勢のためにちょっと雑学。札幌の地下鉄は、東西線・南北線・東豊線の三本が運行されている。東京みたいにごちゃごちゃせずシンプルなのがベストだ。この東西線を利用するとき、大通り駅には停車するが、すすきの駅には停車しないため大通り駅で降りて歩いて向かうのが最短ルートである。もう少し脱線すると、すすきのという地名はない。地名というよりは住所表記のことなのだが、すすきのと呼ばれるのは南北に南四から六、東西に西二から六丁目までの地域一帯を指すことになっている。なっているというのは、観光協会が定めているというだけで結構、疎放そほうだったりするのだ。


 大通り駅で地下鉄を降りた俺は長いエスカレーターに乗って改札へ向かう。

 エスカレーター。これほど奇妙なものはない、と俺は考え始める。

 乗っているだけで指定されたところから目指すべきところへ、苦も無く運んでくれる。エスカレーター方式という言葉を俺はこれに乗る度に意識してしまう。決められたコースを何の疑いもなく人々が乗り込んでいく様子はまるで生き様そのままだ。

 だからと言って階段が他の所へ行くわけじゃない。自分で登らなくちゃいけないという苦労があるだけで、着地地点は同じだ。人は同じ場所にしか行けないのか、と悲観的になる俺に答えるものは何もない。中学から高校へと登るのに苦労しなかった俺が醜いのかもしれない。

 

 改札を抜けて、近場の出口から外に出た。帰りたいを醸し出す外は何でもなかった。寒くも厚くもぬるくもなかった。特に気温に関して興味がなかったからかもしれない。それでも無意識に首元に手をやったのは気づいた。

 三十九番出口から出てまっすぐ歩く。外に出てすぐに本屋やアニメショップが見える。斜め向かいの百均、賑やかな狸小路を通って満喫する定番コースがある最高の出口だ。普段の休日ならば存分に満喫するのだが今日はお預け。

 真っすぐにずっと直進する。途中、一つだけ信号に引っかかった。それを超えるとすぐに大きな通りが視界に入る。創成川通りだ。

 

 左に向かえば川があり、その川を創成川という。札幌が大都会なのに田舎であることを実感してしまう川だ。それでもここはいつもいい風が吹く。何もしたくないときに授業をさぼって読書をするのにぴったりの場所なんだ。一度試してみるといい。今日の俺の目的地は川とは逆方向の右側。ここから二つの交差点の先にあるビルの中だ。

 街を満喫しすぎていた気がして、時間を確認しようとスマホを取り出す。

 十時五十六分。

 そろそろ待ち合わせの時間じゃないか。思いの外ギリギリになりそうだと思った俺は気持ち少し急いだ。

 


▶テクテク。



「いらっしゃいませ、何名様でしょうか」

「すいません、待ち合わせで」

 ウエイトレスの言葉など完全に無視して探す。見渡せばその集団はすぐに検討がついた。そもそも大人数が他に無かったというのもあるのだが。

「あ、恒く~ん、こっちこっち」

 舞さんが大きく手を振っている。うぅ。場所は分かったんで大丈夫です。大声出さないでください、恥ずかしいです。

「すいません、ちょっと遅れました」

「気にしない、気にしない。五分ぐらい誤差の範囲だっ」

 俺がそちら側の立場なら同じことを言っていただろう。人を待つのは幾分構わないのだが、待たせるのはどうも気が引ける。わがままだろうか。

「あれ、明空さんはいないのですか? 確か明空さんも参加するって聞いてたんですが」

「ああ。なんか急にバイトが入ったらしいよ。大変だよね、明空も」

 ここに座れと言われているような場所が一つだけ開いていたので逆らわずに遠慮気味に舞先輩の隣に座る。

「で、お姉さんたちに何を聞きたいのかな? うん? あ、スリーサイズは教えないぞっ」

 このお調子者…は言い過ぎかもしれないけれど、明るくて陽気な人は大簾舞おおすみまいさん。前回の集まりでまったく意図がつかめないうちに俺のことを気に入ってくれた人だ。

「もう、騒がないの。大人しくして、舞」

 前回これを制していたのは色内先輩であったが、今日は暁幌加あかつきほろかさん。この中では唯一の常識人かもしれない。

「恒君は何頼む? とりあえずドリンクバーでいいよね」

 はい、と頷くとボタンを押して店員を呼び出してくれる。常に笑顔を欠かさない彼女は俺を弟だと冗談交じりに言っていた彼女だ。双見三月ふたみみつきさんは駆け付けた気だるげな店員にドリンクバーの追加を注文してくれる。

 俺はさっさとコーラをコップの七分目まで入れて、着席。一口だけ口をつけて本題に入る。

「僕、色内先輩に告白しようと思いまして」

「ええ!?」

「おお」

「ほんとに! それは応援しなきゃ」

 後輩感を出そうとなんて使ってしまっている。まあ、掴みは完ぺきだったようだ、目がキラキラしてる。舞さんが驚愕し、幌加さんが手を合わせて合掌。早苗さんが一番目を輝かせているきがするけど気のせいかな。前回はそっけない返事だけで全く興味なさそうだったのに。

「この間、東楽園花さんという方が第二探偵部にいらしたんです。そこでちょっとした悩みを解決したのですが、真相解明後すぐ後にクラスメイトに告白したという噂を耳にしまして。いや、経緯はどうであれ後悔するような選択が一番良くないなという思いに至り、自分も意識をし始めてしまったというのが事の流れです」

「あー」

「なるほど」

 反応が鈍い。互いに顔をちらちらと見ている。正直話をしている最中、話す単語に対する反応を見ていた。どうやらもしかするとこれは当たりかもしれない。

「あいつきらい。きょうすけとったもん。はやくころしたい」

咲来さくちゃん抑えて、咲来は可愛いから大丈夫だって、ね」

 初めて聞く声だ。それもそのはずで俺の記憶に間違いがなければ、前回は隅でオレンジジュースをチリチリしてたはずだ。しかしこうしてみると口調は鋭いがまるで小動物だ。リスとかハムスターとか。学年が一つ上だとは申し訳ないけどちょっと思えない。

「あんな、恒だっけ? 知らなかったとは言えこれは謝るべきじゃね」

 口調をギャルっぽく似せているつもりだけの安浦紗那やすうらさなさんに真剣な顔で言われた。ギャル要素といえばまつ毛が少し長いかなというぐらいで、基本普通の女子高生にしか見えない。

「そう、ですね。すいません。無神経な発言でした」

「いや、いいん。こうはべつにわるくない。わるいのはそのか」

「その、差し支えなければ少し教えてもらえませんか」

「恒、こっちが本命だろぉ。色内の差し金ってところかな」

 舞お姉さんに嘘は通じないぞ、となぜか得意げに偉そうに言われた。話下手なのは今に始まったことじゃないが、さすがに今回は失敗だ。それでもここにいる人たちは色内先輩の名が出れば協力してくれるようだった。それも当然のように。仁義って素晴らしい。

 しかし茨戸咲来ばらとさくさんは俯いてしまった。プライベートなことだからもっと慎重に進めるべきだった。女の子ならば特に。

 これに見かねて幌加さんが咲来さんに了承を取ってから、ゆっくりと話し始めた。これはどうでもいいのだが、幌加さんにはほろちとか、ほろっちと呼ばれている仇名がある。俺は呼ぶつもりないけど。

「咲来は一目惚れだったみたいなんです。転校生が来たから見に行こうって話になって、そのときに」

 ありがとうございますと礼を言ってから質問を付け加える。これはかねてから聞きたかったこと。

「えっと、園花さんと皆さんの関係は?」

「色内繋がりかな。ここのメンバーもみんなそうだし」

 舞さんがどこかやはり誇らしげに答える。

「先輩、ですか」

「去年とかもっと前とかに何かと色々みんなそれぞれ助けられてね。だから恩があるわけ。恩返ししようと協力しているうちに数が増えてこっち側―つまり助けられた側も仲良しになってってところかな。恒君も何か助けられたんじゃないの?」

 もちろんそうだ。だからこそ傍にいる必要があって傍にいる。

 首を小さく縦に振って暗黙に肯定し、すぐ話題を戻す。

「園花さんが以前から京介さんに好意を寄せているってことはなかったですか。仕草とか、傾向とか雰囲気とか」

「特にはなかったと思いますけど。ねえ?」

 聞かれた皆は肯定派のようだ。

「寧ろ咲来のことを応援していた最中だったので、私たちも耳にしたのは今週でして、正直驚いてます」

 これで陰謀説は無かったと見ていいだろう。しかし果てさてどうやら東楽園花はこの女子会グループの一員であったようだが、今はどうして参加していないのか。

「園花さんは今参加していないんですね。前回もいませんでしたし」

「その、ちょっと、喧嘩してね。ただの行き違いなんだけど、思いのほか長引いててね」

 双見さんが目線で先を促す。千夜さんもどこかとげのある視線を向けている。

「あたしが、あたしがね、髪が綺麗で羨ましいなって言って弄ってたんだよね。ちょっと人見知りぽかったからさ、仲良くなろうと思ってつい、ね。いろんな髪型にしてたら調子乗っちゃってさ、怒らせちゃった」

 確かにきれいな黒髪ではあったが、原因は舞先輩でしたか。

「私たちも囃し立てすぎました」

「あれは確かに、やりすぎた。反省してるよ、もちろん」

 ギャル擬きの紗那さんでさえ、ばつが悪そうな顔を浮かべている。双見さんは明るく、人柄が良いだけに優しすぎる。自分よりも周りばかり気にして、会話は決まってこの人から始まっている。東楽園花はきっと嬉しかったはずだ。それと同時に気恥ずかしくて居た堪れなくなった、本音とは違う行動をとってしまった。それが故に顔を会わせ辛いのかもしれない。

 それは、きっと互いに。時間が経ちすぎてしまっているが遅すぎることはない。時間が解決してくれることはない。人が起こしたことは当の本人にしか解決はできない。他人ひとにはできない。解消はしても解決しない。

「あーあ、まんまと恒くんに乗せられちゃったな。過去を洗いざらい話させるとは。こりゃホントに本気で好きになっちゃうかも」

 あれはやはり虚言であったか。話の持って行き方つまり誘導にかなり失敗し、その顛末口を閉ざされて黙秘権を行使されても文句は言えなかった。かなり立ち入った話になったし精神的負担は見かけから見えずともあるだろう。申し訳ない。

 おかげで情報がたくさん手に入った。少しはお礼に甘いおやつをあげとかないと。お世話になった人には甘いものと決まっている。お歳暮とかお中元とかはモリモトの詰め合わせ送っとけば何事もなく喜ばれる。

 俺は甘い回想を少し始めた。


【甘い回想】

「お邪魔します」

 突然の世界の変貌に付いて行けず途方に暮れていた俺を連れてきたのは虹別色内にじべついろなという一つ年上の女性。女性というかお姉さんって印象だったけど。

 道すがら聞かれたことには全て分からないと答えた。でも質問の内容から彼女もこの世界に取り残されたか連れてこられたかは分からないけど、俺の知っている元の世界を知っていた。この世界に異変を感じていた。

 彼女は旭風藻盤あさひかぜそうばん高校にそのヒントがあると言っていた。それが何かでどこから手に入れたのかは教えてくれなかったけど俺もその高校に通えるように手配してくれた。

 俺は捨て犬のように拾われて同棲を始めた。


 三日ぐらい経ったとある日。


 もう無理だった。理性云々の話じゃなかった。 

 ただ単にタイプでストライクゾーンだったって事もある上に窮地から救われた吊り橋効果も相まったところに便乗して今現在一つ屋根の下である。

 普通に好きだ。

 普通が何かとかいう定義は語りだせば止まらなくなるし、これはあくまで甘い回想なので無視する。

 普通に恋をした。

 世界とか時間とか正直どうでもよかったのでそれを実感したのが三日後かどうかはやはり曖昧なのだがそのぐらいに俺はようやく自覚した。

 毎日が二十五日だと夏休みに休みボケをしたかのような曜日ボケをすでに発症していたから曜日はわからないけどとにかく、拾われてから三日後ぐらいだったことにする。

 確か学校への登録手続きとかを裏であれこれしている関係で時間がかかり、まだ学校に入っていなかった。

 実態も実質もニート。

 あれこれネットとかで調べるとどうやら俺が世界がおかしくなる前に通っていた学校と同じ場所に位置しており、名前が異なるだけで中高一貫っていうところまで同じだった。

 妙な因縁に抱かざるを得ない疑念と格闘していると帰ってきた。

「ただいま」

「おかえりなさい」

 玄関まで来たのがそんなにもおかしかったのだろうか。それとも根回しに疲れたのか、どちらかそれ以外か点で見当がつかないけど、彼女はきょとんとしてる。

 彼女はすぐに笑顔に戻って着替えるのに部屋に戻った。彼女が二階の部屋から降りてきたときには、俺は正座で待機していた。

「先輩、お話が」

「え? えっと、何かな。学校ならもうすぐで行けるように―」

「好きです。付き合ってください」

 やっぱり。

 彼女はそうは言わなかったけどそう言った。

 座って、と俺はソファーに座るように言われた。俺は大人しく座った。彼女は子供の駄々をなだめる様に抱き寄せて耳元でこう言うのだ。

「私、やっぱりどこかで会ってる気がする。気のせいかもしれないけど、そんな気がする。君はきっと最初に見ず知らずの人にここまで献身的になるのはなぜだろう、と思ったんじゃない? そして君は同じ境遇だから、または私の解きたい暗号の答えを知っているからのどちらかだと結論付けた」

 図星過ぎて否定することを忘れて胸の中で僅かに頷いた。

「私、縁石で話した時にあった気がするって思ったの。だからもっと知りたくなった」

 ただの好奇心なんだよ。勘違いかもしれないけど好奇心だ、と彼女は言った。

「わたしのどこが好き?」

「わかりません」

「なにそれ」

「どこというか、先輩が好きです」

「……ありがとう」

 少し離れて近づいて、頬にキスをされた。

「私、元の世界に戻りたいの。ここは明らかに私の知っているところじゃない。ここから戻るのかここが戻るのかは分からないけど、必ず答えを見つけたいんだ。立ち止まりたくないんだ」

 彼女は俺だけに真剣に教えてくれた。


【甘い回想終了】



 苦いわけじゃない。出来事そのものの味なんてわからないけど、俺自身が甘いことはよくわかる回想だ。

「その、貴重な時間ありがとうございました。―それと、僕ホントに告白したんですよ、先輩に」

 俺は先輩の皆様方にお礼をした。刹那、彼女たちから声になってない何かが出て、潜響して残響する。一度にたくさん聞かれても答えられないよ。俺は馬宿の王でも皇子でもない。

 

【さっきの続き】


「終わって、また会えたら考えてみる」


【さっきの終わり】


 一度には返事ができないからそっと、全体に結果を告げる。

「振られちゃいましたけどね」

 再び歓声が巻き起こり、息を吹き返した嵐は収まりそうにない。俺の休日はこうして潰れていった。

 


▶ ▶ ▶

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