▶②
で、今に至る。ぎりぎりまだ入ってないからセーフ。アウトなのは俺のこの展開多すぎること。ちょっと目を離したら自分でもどうなっているのか分からないような環境に置かれるのだ。何この特性、巻き込まれ体質は死亡フラグだから嫌だなぁ。
しかしどうしたものか、ここに至る俺の回想中に彼女が出てきたので、知らん顔を決め込むと嘘をつくことになる。だからと言って名前も知らないし、初対面からクライマックスとか、手の尽くしようがない。流れに任せるしかない。
「あ、あの、あなたは…」
涙声で後ろから尋ねられて振り返る。彼女が友人だろうか、それとも同じ班の人か? どちらにしても親しい友人に違いはなさそうだが。
「シュー……沓形はいいやつだよ。俺の中学からの友人で第二探偵部にいる」
俺の眼光に怯んだか名字で紹介した。あと友人になったつもりはない。クラスメイトだったかもしれないが、友達じゃあない。
「探偵……さん」
「それの助手」
俺も君と同じ一年なんだけどな。敬語は線引きをはっきりとさせるから喜ばしい。
経路とか過程はどうであれ勝手に出てきたのだ。勝手に期待されても文句も言えないし仕方ない。面倒だし関わるつもりも全くなかった上にやる気ゼロだが、男なら覚悟決めておく。
でもどうするか。さすがに飛び降りはしないだろうが、癇癪を起こしているから下手な刺激は逆効果になりそう。それはいけない。
「あやかがいけないの、何をしてもドジなあやかがすべて悪い。みんなの、れいの優しさが痛い。どうせどこかで嘲笑って、バカにしてるのよ。そうだわ、そうに違いない。迷惑だとしか思って、ないんだ」
こりゃだめだな。籠っているあやかという少女は思い込みが激しいうえに被害妄想まで深刻だ。メンヘラかよ。めんどい。こっち側の友人であろうレイさんの呼びかけにも一切反応しない。耳に届いていない。精神状態が不安定で揺らいでいて、それでもそれでいても助けを待ってる。
こういうのは柄じゃないんだが、崩壊していくのを見過ごすことはできないし気分が悪くなる。
「恒、これ何の騒ぎ?」
そこに色内先輩が駆けつけてくれた。どこかで噂を聞いたのかもしれない。授業のチャイムはとっくに鳴っていたが、人一人の命が危ういとなるとそれどころではない。教員もぞろぞろと現れて生徒たちは基本的に教室に帰されて、教員が周囲を取り囲むだけとなった。友人であろうレイさんと関係者と勘違いされた俺と色内先輩、白石が残った。
警察も到着し、下には中継車まで現れたようだと先輩が告げる。教師が対応に慌てふためいておろおろしてる。
皆がそれぞれの立場から説得を試みているが、すべて届かない。事がここまで大きくなると思っていなかったのだろう。ただ怯えて耳を塞いで怖がっている。
これじゃだめだ。人が増えれば増えるほど最悪の結果しか生まれない。
俺は剣幕を変えて睨み付けた。
「先生方も警察の方も外出ててもらえます? 後、黙って」
当然のように反論しようと開いた口を塞がせやしない。握った拳をぎりぎりまで近づけて止める勢いで直ぐに下して言い放つ。
「今すぐにネットを用意しろ」
トイレに籠って三十分。四階の窓に足をかけて未だ叫び続けている。俺は先輩の言葉に大いに助けられながら大人を無理やり納得させた。感情的になっている人間に論理的な言葉は響かない。彼らに事態の収拾は無理だ。
「あやかは悪くないよ、無神経だった。悪かった。もう、お願いだから、もう止めて」
先ほどから二人の会話が続ている。会話というよりかはぶつけ合っている感じだ。キャッチせずに投げてはぶつかりっ放し。
「なあ、どうするんだよ。俺たちだけで何するんだよ。最悪、彼女死んじゃうぜ」
「何もしないのさ。そのまま見守るだけ。きっかけぐらいは作るけどな」
「なんだよそれ、どういうことだよ」
「少し黙っとけ。熱い青春友情ドラマの邪魔をするな」
未来が見える能力を取得した訳じゃない。だけど結末はもう見えてる。先輩と友人に任せておけばシナリオ通りになるだろう。俺はキューピットになるだけだ。
「レイは、ほんとは、ほんとは……私のことなんて……来ないで! 放っといて。誰も真剣になってくれない。上っ面で済ますんだったら迷惑なだけなんだよ。もういい、もう終わり……おしまいだね」
彼女は足の向きを直してこちらに顔の向きを直した。授業を受けるまじめな生徒のように、さっきまでの涙は消えてしまったようで、消えてなくなった光を灯さない瞳は何を見ていたのだろう。
あやかと言う彼女は両手を窓枠に掛けて後ろ向きで落ちる準備をした。
「だめだめだめ。お願い、だめだから、お願いだから、やめて、やめてあやか……」
「ありがとう。そんなこと言ってくれるのレイだけだよ、やっぱり。一緒にられないのが残念」
「大丈夫よ。あなた達は一緒にいられる。心配しなくても一緒だよ」
色内先輩はレイという涙が止まらない彼女の肩を掴んで落ち着かせる。両手で顔を覆いながらこちらを覗っている。赤の他人でしかないのに女子の涙はやっぱり卑怯だ。
「そうか。それなら安心だ。誰だか知らないけど、ありがとう」
くすっと笑ってあやかは手を宙に上げた。
寸の間で先輩に背中を押された親友は全力で手を伸ばして、走って突っ込んで引き寄せて抱いた。
差し伸べられた救いの手を彼女は二度と離すことは無いだろう。永遠のずっと友達、大親友の絆ができた瞬間。
でも、それでも。
今この瞬間世界が二人を許そうとも、俺がそれを許すと思うか。
抱擁の完成と同時に俺は女子トイレに突っ込んでいった。久しぶりに走った気がする。よほどのことがない限り走らないで俺は歩くスタイル。街中でよく見かけるけど、そんなに急いでどこ行くのやら。
俺が行く場所は地獄って決まってるけどな。
突然の予期せぬ人物の登場に二人ともこちらを見る。解けた抱擁は絶好の機会且つ合図だ。友人のレイを右へ突き飛ばして個室にぶつける。驚いた表情ももう間に合わない。
甘ったれるんじゃねえ。自分でおっぱじめたことだろう、けりぐらいしっかり着けろや。現実と現状と自分を見限ったんだ。それ相応の代償は受けろや。これもすべて因果応報なんだよ。
今度は俺が両手を突き出す番。バランスを失った問題娘は、そのまま窓の外へと落ちていった。
生ぬるい体温が気持ち悪かった。俺は体温の残る縁に手を付けて呼吸を整える。
「ちょっと、何してんの」
これに対して俺は鼻で一瞥して促す。
「まだいたのかよ。下、行かなくていいのか」
電流を流されたカエルの足の筋肉のように、健康な人の腱のように、寝耳に水を食らった幸せボケは俺を突き飛ばして去って行った。
痛ってぇ。
「立てる?」
呆れ顔で先輩は歩いてきた。確かに先輩には申し訳ないことをした。俺は彼女のシナリオを壊してハッピーエンドに傷をつけたのだから。でもこれで悪人は一人になる。実際悪いのはあれだけど、最終的には俺へとなぜかエスケープされる。結末が
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「あんた、相当なバカだよ。やばい、ちょっとおなか痛い」
そこまで笑わなくても良いじゃないですか。ツボに入ってしまった自称美少女である
自殺未遂事件は感動の友情物語として綴られた。きっかけは些細な事に過ぎないが、今まで溜まっていたものが癇癪を起させた。自棄になった友人を止めに入って友情の力で説得は成功。したのだが、場所がさすがに悪く誤って転落。下でマットと網で待ち構えていた警察によって衝撃は吸収された。このような筋書きが作られてことは終焉を無事迎えた訳だ。
俺を突き飛ばしてすぐに駆け付けた友人は靴も履かずにすっ飛んできたそうだ。ほんとに死んだと思ってすごく怖かったと言って再び抱きついた。これを止められるものはこの世界には案の定おらず、生中継された。
恥ずかしながらも、照れを隠しつつ謝罪した。これで終了。全く関係のない他の全校生徒はよくわからん理由で帰宅となって大喜びだ。
俺の事はというと、誤魔化すように彼女達が嘘をついて庇ったので責任は究明されず無罪放免。無罪放免はおかしいか。そもそも罪に問われたわけじゃないし。
目撃者は色内先輩と当事者二名のレイとあやか、白石の四名である。白石は口封じに褒美を授けたので問題なし。先輩は校長室で俺に小言をを浴びせた程度。あとの二人の真意は分からない。無駄に感謝したのか、美談に必要なしとしたか、とにかく誤魔化した。
「恒が余計なことしなければ、ハッピーエンドだったのに」
「どっちみちトゥルーのグッドエンドですよ。あのままだと、彼女一人がバカな事をしたと責められる。責任を押し付けられるスケープゴートがいれば、二人が悪く言われることはまずない」
本質的に、本来責任を問われるのはあやかとかいう少女だ。自ら自殺を志願して迷惑をかけたのだから当然。しかし、色内先輩の計らいによって事件は美談にすり替わるよていだった。知ってはいたが、俺は見過ごせなかった。
一度死ぬことにしたのだ。だったらきちんと死を味わって、今の自分を殺してからやり直すのが筋ってものだろう。ただ単純に甘えきって、逃げて、助けてくれると思い込んでいたことが気に食わなかったってのが本音。
そんなんだから俺はこんな世界に来ちまったのだから。
「実体のあるスケゴねぇ」
あまり突っ込まないで下さいよ。別に誰も困ってないし、傷ついてない。むしろ救われたなんて思ってる人までいるのだから蒸し返すのは良くないですよ。
「ほんと、困った相棒だ」
先輩は困っていたようです。すいません。
「ふふ。仲が良くて羨ましいな」
額をつつかれて妙な気持になる。すぐにでも明日が欲しくなってしまう。
「しかし、おどろいたね。先生の依頼があやかさんのことだったとは」
そう、俺の依頼はまだ始まってすらいない。あの事件で翌日、小言を食らう会場になっていた校長室に訪れたのは体育の佐藤とあやかとレイであった。
「おっと、お邪魔だったかな」
「いえ、大丈夫です。何か御用ですか、先生」
「うん、実はこの子達に関してね」
俺と先輩は顔を見合わせた。何か後始末の不備でもあっただろうか。
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