【ひー2】 涙に隠れた真なる明日はいくら欲しがっても手に入らない
▶①
俺は今女子トイレにいる。
展開がいつも急で申し訳ない。俺だって好きでこんなことになっているわけじゃないんだ。不可抗力だ運命だ宿命だ因果応報の重力なんだ。
といくら嘆いたところで状況は変わらない。女子からは悲惨な悲鳴が出ている気がして、男子からは蔑みの流し目を浴びているように錯覚してしまう。
とりあえず説明します。自分の保身と世間体のために。
実は先ほど某体育教師から依頼を申し込まれた。俺は受けるかどうか悩んでいたのだ。内容が結構、殊の外プライバシーなことだった。深入りすることにどこか躊躇いが居座っていてその場をどけてくれない。分かりやすく言えば自信がなかった。
自賛慎重派である俺は極力他人には関わらないようにしている。探偵の助手である事は矛盾しているようで実はそうでもない。俺は自分の居場所を確保し、独自のスタイルと空間創りを常日頃行っているつもりなので、基本的に相手側から話しかけて来ることがない。人脈が乏しいことは悲しい限りだが、面倒に巻き込まれないのは最大のメリットといえる。少ないながらも信頼できる人が傍にいるので孤独や寂しさと淋しさに苛まれることはない。感じることがないと言ったら嘘百八になってしまうが、今のところは苦しんでいない。
俺はこのように自己分析をしつつ線の引き際を決めかねていた。受けるかどうかは俺にすべて全任すると先輩に託されてしまった。放り投げたのかもしれないし、丸投げされたのかも分からないけど、ポジティブに託されたのだと捉えていた。
俺はこのようにして廊下に思考回路を張り巡らせていると、突然声が聞こえたのだ。
「誰か、早く。先生呼んで」
既に野次馬の軍勢が押し寄せているので何かが起きている場所の現場は見つけられた。
遠巻きから眺めていると、説得に失敗したのか家庭科の先生が匙を投げかけていた。
「どうかしたんです?」
「うん? あぁ、それが女の子がトイレに立て籠もっているみたいで。何があったかはちょっと分からないんだけど」
その辺のほかのガヤの話によると、彼女は調理実習の授業を行っていたらしいのだが、その実習中にある班がトラブルを起こしたらしい。火加減を間違えたり、手順を飛ばしたり、ケンカしながらの調理だったそうだ。結果料理は失敗し、とてもじゃないけど食べられるような物ではなかったらしい。
すると他の班の友人が上手くできた料理を運んできて、分けてくれたんだそうだ。しかし、その失敗した彼女は逆上し、突っかかってホントの喧嘩に。先生の仲裁が入るとその場を飛び出し今に至るらしい。
「こっちに来ないで! もう構わないで!」
どうやら状況は最悪のようだ。これは首を突っ込まないで大人しくしておこう。身内があれならともかく、頼まれてもいない赤の他人を助ける義理はない。
このような俺の浅はかな考えはいつもすぐに速攻で敗れる。
「シューズ! いいところに。なあ、頼むよ。あの娘何とかしてくれないか」
「シューズならできる。俺を救ったように助けてくれ」
俺はお前を助けた覚えはないんだけど。それはいったい何時のことだ。中学は確かに暗黒時代であったが、俺が正義の味方ごっこのようなことをしていた覚えはない。今は否定しきれないけど。あと馴れ馴れしくしすぎだ。俺はお前の友達でも何でもない。
群がる群れの始めに引っ張られて場が開けた。そこには一人の短髪少女が涙を抑えきれていなかった。
まったくもって見る気はなかったのだが、全開になっている女子トイレは視界に入らざるを得なかった。その奥の窓には縁に座った長髪の少女が同じく違う涙を流していた。
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